岡田さんによれば、眼鏡は14世紀頃にはすでに存在し、絵画としての記録が残っているという。古くに使われていたものは、文字を読む際にのみ使用するリーディンググラスだったとか……。
「当時のヨーロッパで識字能力があったのは、教会の聖職者や富裕層など、特権階級の人々。そのためリーディンググラスは、知性と品格の象徴でした。一点ものの道具をしつらえることができるという富のアピールでもあり、ケースも金銀などを用いたものが使われていたんです」
現代の欧米でもやはり、リーディンググラスは成熟のシンボルだとなっているそうだ。
「日本は半数以上の人が近視のため、老眼になると、普段の眼鏡に遠近両用のレンズを使うのが主流。でも欧米は、老眼になってはじめて、リーディンググラスをかける人が多いんです。私はニューヨークの眼鏡店で働いていたことがあるのですが、リーディンググラスをかける大人に、若者が憧れの目を向けるのを見てきました。
映画やドラマでも、渋さと経験を備えた男性を演出するものとして、リーディンググラスが登場しています。先日『ノーカントリー』という映画をDVDで観たのですが、そこでも、トミー・リー・ジョーンズ演じる保安官が、若い後輩と話すときに、リーディンググラスをかけていました。その姿が感じさせるのは、推理力に長けたベテランの風格。私は、ハリソン・フォードやショーン・コネリーのリーディンググラス姿にも、憧れますね」
以上の背景を踏まえ、「眼鏡の魅力は、自分の顔の一部となり、人格まで演出してくれる点にある」と語る岡田さん。実際、ショップのファンには、イメージづくりのために眼鏡を用いる人も多いとのこと。
「お客さまの2割は、眼鏡の度数がほとんどない方。そのうち何人かは、企業のトップを務める方々で、社員に対して理想のリーダー像を演出するために、眼鏡を使われているんですよ。人あたりのいいソフトな雰囲気か、シャープで仕事ができそうな感じか、自由かきっちりか……。職種やシーンにより、ふさわしいイメージは異なってくる。そのため、似合うデザインをオススメする際は、顔立ちやファッションを見るだけでなく、仕事やライフスタイルを聞くようにしているんです。眼鏡が生み出す印象は、洋服やアクセサリー以上に、貫禄や知性さなどの“奥行き”があると思います」
「GLOBE SPECS」がオープンしたのは、1998年。感度の高い人たちの間で眼鏡がファッションアイテムとして捉えられはじめた当時に比べ、その傾向は年々強くなっているという。
「ショップには、20代から60代まで、幅広い層のお客さまがいらっしゃいます。40代以上は、自分の持ち味を存分に活かすツールとして、眼鏡を選んでいる方が多い。そういう姿を見て、20~30代はちょっと背伸びして眼鏡を買う。動機は違えど、最終的には同じものを選んでいたりして、年齢によるデザインのくくりは、もはやないと思います。海外の眼鏡デザイナーと話していると、最近は、欧米よりも日本のユーザーのほうが貪欲かつ自由に、眼鏡をお洒落として取り入れているともいわれますね」
岡田さんがはじめて眼鏡をかけたのは、高校生の頃。その後、20代で眼鏡業界に入り、50代となった今も日々、眼鏡に親しんでいる。大人世代だからこその、眼鏡の選び方はあるのだろうか?
「年代が上がるほど、愛用してきた眼鏡に近いデザインを選びがちになる方が多いんです。見慣れていると安心感があり、それがベストだと思い込んでしまう。でも、まっさらな状態で眼鏡と向き合ってみると、意外なデザインや新たな自分の魅力に出会えると思います。ひとりで客観的に判断するのは難しいので、信頼できる店員を探して提案・アドバイスをしてもらうのが、オススメです」
そう話す岡田さんが、雑誌などのメディアに登場する際にかけている眼鏡の多くは、丸いデザインのものだ。しかし、丸みを帯びた眼鏡をかけ出したのは、40歳を過ぎてからとか。
「若い頃は、丸は似合わなかったし、周囲からもそういわれていました。でも、40代になって買い付けでさまざまな眼鏡をかけていたら、『もしかして、丸も似合うんじゃないかな?』と気づいて。今では、岡田=丸というイメージも定着してきたようなので、丸というスタイルを保ちつつ、カラフルなものやヴィンテージのものなど、さまざま眼鏡を楽しんでいます。
多くの方は、『いつか大人になったら』と思っていた味のあるスタイルが、いつの間にか似合うようになっている。自分の成長に、気づいていないだけなんです。『もうちょっと先かな』と思うスタイルも、逆に『自分にはもう無理かな』と思う若々しいスタイルも、試してみた方がいい。どちらも似合う場合が、ほとんどなんですよ」