大正11年(1922年)、電球用ガラスの生産工場として創業した松徳硝子。江戸時代に誕生したガラス製法を継承した伝統工芸品「江戸硝子」にも認定されている。電球がマシンメイドに代わってからも職人の手仕事にこだわり、製造品をガラス器に移行。電球づくりで培った、ガラスを薄く吹く技術に磨きをかけて昭和30年頃に「一口ビールグラス」を誕生させた。
「親父の代に一口ビールグラスをつくり、一部の料亭などで愛用されていました。お酌をする女性がお客さんから『君も一杯どう?』と言われて、一口でビールを飲み干せる粋なサイズというのが狙いだったようです。主力商品としては一時期観光地で販売するおみやげや伝統工芸品をつくっていたのですが、自分がビールを飲みたいグラスをつくろうと考えたら、一口ビールのようなグラスだったんです」
お話をうかがったのは、職人としての経験もある3代目の村松邦男さん。ご本人は開き直りから生まれたマニアックな商品というが、お酒好きによるお酒好きのためのグラス。派手さはないが、じわじわと世間の注目が集まっていった。
「展示会でも主力の工芸ガラスの中に、うすはり用のスペースを細々と確保して、1日10人くらいの人とこのグラスの話ができればいいと思っていたんです。でもバイヤーさんが、『これは?』とうすはりに目を留めてくれるようになって、デパートやセレクトショップに置いてくれるようになりました」
[大吟醸]
日本酒のプロである酒屋や蔵元が多く愛用していることでも知られる“大吟醸”のグラス。ワインのテイスティンググラスに発想を得て開発したグラスで、ほどよく空気がまわることにより、吟醸酒の芳醇な香りと味を堪能できる。3代目も、日本酒にはこのグラスを愛用。