ためになる長命草対談 料理家 青山有紀さん×長命草生産農家 杉本和信さん

与那国島について

与那国島で最も美しいとされる
「ウブタヌハマティ
(通称:六畳ビーチ)」

【青山】与那国島には初めてきたんです。私は薬膳を勉強していて、それは自然の流れに人間が合わせるというのが基本的な考えなんですが、まさにその通りの暮らしをされている、と思いました。またその土地その土地でいろいろエネルギーを感じるけれども、大地のエネルギーも、すごく温かくて、女性の深さを感じました。

【杉本】島自体は、外から見ると険しくて男性的なんですけれども、与那国の方言では、欧米のレディーファーストのように女性を先に言うのが結構あります。例えば夫婦のことは「トゥンブゥトゥ」というんですけれども、「トゥン」というのは女性をあらわしていて、「トゥ」というのは夫のことをあらわしていて、必ず女性を先に立てているんです。

与那国島の南海岸、自然の造形美を感じさせる立神岩

【青山】そうなんですね。あと断崖絶壁の立神岩。あれも遠くから見るとすごく強い岩みたいな感じに見えるけれども、可憐な色のきれいなお花がいっぱい咲いていて、素敵でした。すごく特別なところだと思います。

【杉本】与那国というのは、遠方の離島なので、自分たちでどうにかしようという力強さもある文字通り小さな「国」なんです。位置的に日本の最西端ということもあるし、いろんな意味で他とはちがう島だと思います。

日本最西端之碑。与那国島来島者が必ず訪れる名所

【青山】植物の色も濃い気がしました。

【杉本】そうなんです。例えば青山さんが見たユリの葉っぱが、与那国で見る葉っぱの色と、東京で見るユリの葉の色の濃さは全然違うと思います。それはよく言われます。

【青山】イリオモテアザミの色も、すごく美しいパープルのお花がありましたね。でも、あれも葉っぱがギザギザで、とても分厚くて、痛くて、お花という感じがしないですね。

【杉本】基本的に植物はみんな肉厚になってきます。やはり紫外線も含めて自然環境が厳しいだけに、そこで生きていく術を植物は身につけるのです。動物は動きまわれるけれども、植物はそこに根を下ろすと、絶対もう移動できないわけですから、そこに根を張ったときは、耐えて、強くなるんです。

【青山】だから女性のエネルギーが強い。土って、そこから生まれるわけだから、土のエネルギーって、女性のエネルギーだと思うんです。それだけ厳しい環境の中で、土が持っている力がすごいと思う。

【杉本】そのとおりですね。土から生まれて土に還ると言われるように生命を育むものだと思います。

薬でもあった長命草

【青山】長命草も、断崖絶壁に生えていたんですよね。

【杉本】もともと自生しているものは全部そうです。

【青山】自生しているのは、とって食べたりしないんですか。

【杉本】昔は食べていました。実際に自生のものを取って、祭り行事でお供えものとしてきた歴史が500年以上あるんです。そしていまだに昔と変わらず同じ製法でつくって供えているんです。神聖な食べ物だったということですね。
子どもが生まれて100日たつと、先祖に感謝し、子どもが健康に育つようにということで、必ず添えるのも長命草です。

【青山】お食い初めみたいなものですね。よく育ちそう!

【杉本】昔の人が使っていたのには何か深い意味があるんでしょう。昔は長命草もヌチグスイといって薬として使われていました。実際今も使っている人がいます。
昔は病院もなく科学的根拠もなかったのに、先祖代々で継承され言い伝えられてきたんです。島ではいろいろなところに生えていますよ。でも島の人は絶対、長命草は切りません。道路清掃でも、長命草だけ切ることはしません。

【青山】そうなんだ。大切にしているから?

【杉本】関係ない場所に生えていたら、切っちゃってもいいはずなんですが、誰も切るなという指示も出していないのに、なぜか切らない。

【青山】それだけ大切にしているということなんですね。

【杉本】島の人間としては長命草を大事に、宝みたいな感覚で扱っているところがある。

【青山】薬膳って3000年以上の歴史がある経験医学なんです。こういうときにこれを食べたらどういう反応をするのか、という、その土地で人が養生して元気になるためにやってきた。まさに通じるものがありますね。

与那国空港内レストランの人気メニュー「与那国御膳」(要予約)

【杉本】長命草は昔から、「1株食べると1日長生きする」といわれているんです。祭祀とか祭り行事に必ずお供え物としてつくる料理は、1株5~60枚ある葉っぱを蒸しているんです。それを味噌和えにして発酵食品にすると、小さく手のひらに乗るサイズになる。ということは、それで1日をしのいだからこそ、1株食べると1日寿命が延びる。あの時代、生活が苦しいなかで、非常食的な感覚もあったんじゃないか。

【青山】「身土不二」という言葉があって、それは、その土地で生まれた人が、その土地のエネルギーから切っても切り離せない、その土地のエネルギーで育っているから、例えば海外へ行っても、その土地のものを必要とするという考え方です。この島の人にとっては長命草って、いろいろな命の危険があるときに助けてもらった、この草で命をつないできたという、DNAの記憶みたいなのがあるんじゃないですか。命をもらっているというような。

【杉本】何百年も前は、野菜は日本に少なかったし、この与那国島にもなかったと思います。芋の葉っぱと限られた長命草くらい。塩害で葉野菜がつくれないから、長命草を野菜がわりにするわけです。与那国ではシソなどを菜っ葉のかわりに料理をするという使い方をしてきました。それが昨今の研究でさまざまな成分があり、栄養価が高いということがわかって、どんどん食べられるようになってきました。

【青山】味噌和えみたいなのは、今は?

【杉本】今でもあります。僕が思うには、野菜を摂るということは、病気にならない対策をしていると思っているんです。例えば90歳以上のおばあちゃんたちとかおじいちゃんたちって、大きな病気をしないから長生きできるんですよね。

【青山】そうですね。その土地でできるものって必ず意味があって、たとえば春には春の山菜を食べて冬に貯めこんだ老廃物をデトックスすることだったり。その時期その時期にできるものを食べると、必要な栄養が人間の体をめぐって、余分なものも排出しやすくなるというのはあると思います。島の人たちが厳しい環境の中で、それを食べることで知ってきたことなんでしょうね。

長命草について熱く語る杉本さん

【杉本】長命草は本当に厳しい自然環境のなかで育つんです。紫外線もとにかく強い。それに耐えるための知恵があるんですが、長命草は夏場は育たないんです。

【青山】そうなんですか!?

【杉本】全く育たなくて、そこは自分で自分を、しっかり守っているんです。その期間を乗り切るために、成長するのは一旦やめて、かわりに紫外線から自分を守るためにポリフェノールを増やすんです。それで成長するべき時期まで耐えている。そんなふうにちゃんと成長時期、抑える時期を植物はわかっているんです。
長命草は和名はボタンボウフウ(牡丹防風)というんです。ボウフウにも種類はあるんですが、どれも台風が来そうになると、急に開花をしようとするんです。

【青山】それは命を残すために?

【杉本】子孫を残さないといけないからそういう現象が起こるんです。

【青山】それ、すごいですね。

【杉本】僕がずっと15年間見てきてわかったことは、長命草は常に変化する、ということなんです。急に開花したり、いろいろなことをする。それは結局、子孫を残すためなんでしょう。どの程度強い台風が何回来るか、温暖化によって気温がどのくらい上昇するか、などによって長命草もバランスをとっています。植物として生き残りの戦略があるんです。

【青山】すごいですね。

【杉本】これが植物の力です。

【青山】深い。感動。

【杉本】植物には産毛があるんです。ある植物の葉っぱをさわったときに、産毛がきちっと全て立っちゃうと、台風は間違いなくこっちに来るとか、昔の人は知っていた。

【青山】ええっ、そうなんだ。自然と密接なんですね。

【杉本】密接です。

【青山】やっぱり、ともに生きている。

【杉本】自然相手に人工的に戦っても無理なので、こちらも自然体でなくてはいけない、ということなんです。無理して環境を変える必要もない。育たないときに無理してとると、絶対に育たないんです。

【青山】育つのにいい時期がある、ということですね。

葉っぱのしずくが美しい
雨上がりの長命草

植物の時間に合わせる

【杉本】厳しい環境に耐えれば、たくましくなるといいますが、決して一年中厳しいわけではない。別の時期が来れば優しいときもある。だから、植物の時間というか、植物の流れに合わせて人間側も動けば、ずっとつき合えるんです。それを人間が無理なことをすると、植物はもたないということです。幾ら肥やしを入れようがもちません。与那国の場合、育つポイントは気温です。気温が下がれば思い切り育ってくる。

【青山】与えるだけではないというのは、長命草への信頼感が強いんですね。植物に無理をさせないということが、ちゃんと伝わるからわいわい元気に育ってくれるんでしょう。

【杉本】昔は露地で栽培していて、畑の土壌の栄養と水分を自分の力で吸い上げていたから、野菜本来の甘みを持っていたんです。

【青山】土には土のエネルギーや情報量があるんですね。

【杉本】だから、土が変われば、同じキャベツをつくっても、レタスをつくっても、変わるわけです。

【青山】変わります。

【杉本】長命草も、いろいろな地域でつくられるようになりました。でも1,000キロも離れているところでは土壌も気候も違うわけです。強烈な紫外線、黒潮から吹き上げる強烈な潮風、そしてミネラルの豊富な琉球石灰岩の土壌、これらの自然条件がそろっているのが与那国島ならではの特長です。さらに自生に近い状態にするために、海水をかけて育てています。

【青山】その土地に根差した種と土の関係があるんですね。人間もそうだもの。
でもどうして海水をかけることを思いついたんですか?

【杉本】自生の長命草がどのような環境で育っているか、畑で作ると何がちがうのか、僕は何時間もずっと観察したんです。畑で最初つくっていたとき、やっぱり弱々しいんですよ。自生しているのは、そんな大きくないけれども、しっかり肉厚で、とにかくがっちりしていてたくましい。それを畑でどうやれば栽培ができるかと、半日以上ずっと見ているときに、波しぶきがボーンとかぶってきたんです。僕もかぶったんですけれども、それは長命草もかぶっているわけです。それがヒントになったんです。

【青山】それ、すごい。神がおりてきましたね。

【杉本】険しく厳しい環境に生えているんじゃなくて、彼らの一番の好物が目の前にあるから、彼らはここにしか生えないわけです。

話が尽きない青山さんと杉本さん

【青山】彼らにとっては耐えているわけじゃなくて、一番気持ちのいい環境なんだもんね。

【杉本】そう、耐えているわけではない。これが季節によったら、半年ずっとかぶっているわけです。ああ、海水のミネラルを吸うんだ、ということがわかって、それからどんどん元気になっていくから、これは海水をかければいいと。肥料だとか、余計なものをどうこうする必要はない、と。

【青山】一番気持ちのいい環境に持っていってあげるというのが大事だったんですね。すごいね。

【杉本】もう一つキーになったのが、この化石サンゴ。与那国は畑を掘るとすぐサンゴが出てきます。この石ころがあればあるほど、長命草は育つんです。自生のものは岩場に生えている。だからちゃんと、何が違うのかを素直になって自然体で見れば、ヒントはたくさんあった。それに時間がかかった。本当はシンプルなのに、人間が難しく考えて、難しくもしているわけ。

【青山】そういっても人間にしかなったことないから、目の前に答えがあっても、植物の気持ちはなかなか、一般の人は気づかないわけじゃないですか。それがふっと入ってくるときというのは、それまでにすごく向き合っていたからなんでしょうね。

【杉本】長命草は「草」と書きますよ。野菜ではない。草なんですよ。花は育てられるけれども、草を育てなさいといったときには悩みますよね。それと一緒で、最初は野菜のように育てたわけ。

【青山】そのときは、うまくいかなかったんですか?

【杉本】いいこともあれば、悪いこともある。ただ悪いことの方が多かったな。僕が思うのは、野菜をつくっているプロとか、いろいろなすごい果実をつくったり、甘さや糖度を乗せたりとか、すごい野菜をつくる人って、観察力だと思う。向き合っているんだと思う。結局、ほんとうに野菜をつくっている人って、あまり肥料を入れないんですよ。土壌のそのままの栄養を吸わせるんです。

海から見た、絶海の孤島
「与那国島」

島のために何ができるか

【青山】そういういろいろな苦労をされるきっかけになるものとして、長命草を栽培しようと思ったのが、島おこしがきっかけになっているそうですね。

【杉本】長命草を栽培する一番の大きなきっかけは、おじいちゃん・おばあちゃんっ子で育ったという小さいころの環境にあります。
おじぃ・おばぁたちに、僕は大きくなったら何して返せるのかなとずっと考えてきました。島には高校がないがゆえに、親は子どもを15歳で手離して、仕送りをしていかないといけない。島に産業をつくり、その足しにしようというのを、僕も少し考え始めたんです。長命草はキビより大変な労働じゃないから、おじぃ・おばぁでもできるんじゃないかと。過疎化が急速に進んでいて、自分の先輩が、自分の後輩が、仲間が、家族ごと引っ越していくのを見たくなかった。同じ環境で育った仲間、同じこの島で自分の子どもを育てたいというのもあったし、僕は常に島のことだけを一番に考えてきたから、命がけでこれをやると決めました。

【青山】それが20代のとき?

【杉本】20代の後半です。

生産農家の崎原さん

そこに立って感じられるもの

【青山】食べ物が持っている力というのは、結局は土地のエネルギー。人間はその情報を食べていることになると思うんです。だから、見た目が同じ野菜でも、実際にほんとうに大切に育てられた野菜には、そういうエネルギーがある、土地のパワーを持っているものは、体に入れると、そのパワーをいただける。

【杉本】多分、青山さんなんかは食に関わっているから、特に感じるんですね。その土地柄の強さを伝えることは難しい。今回ほんとうに青山さんが与那国に来てくれてありがたいのは、自分で見て、触れて、体験してくれたということなんです。

与那国薬草園 杉本和信さん

【青山】情報で知るだけじゃなくて、そこに立って感じられるものというのは、そこでしか感じられないんですよね。だからほんとうに来てよかった。長命草もさっきの畑に行ったら、かわいがられて育てられた娘のような美しさがあるし。

【杉本】そういう顔つきをしていますね。

【青山】喜んで育っている感じが、さっきの畑へ行ってすごく感じました。葉っぱも分厚くて、ほんとうに喜んで育っている気がしたの。愛情いっぱいに。人が心をこめてお世話するエネルギーというのは絶対に力になる。私は人の気持ちにまさるものはないと思います。今回長命草の畑に行って、長命草自体もすごいけれども、杉本さんの研究してきた年月と、情熱を受けて、大切に育てられている、愛されている人たちみたいな長命草に会えた。だから、来てよかったなと思います。ともに生きているという、島の生き方そのものを感じられました。

【杉本】そういう風に感じていただけたことがうれしいです。今日はどうもありがとうございました。

【青山】こちらこそ、ありがとうございました。