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ステークホルダーとのエンゲージメント

第三者意見

一橋大学大学院法学研究科教授
松本 恒雄 氏

1. ISO26000の発行とCSR報告

2010年11月1日に国際標準化機構(ISO)からISO26000「社会的責任に関する手引」が正式に発行されました。ISO26000自体は非営利団体や公営企業も含む全ての組織にとっての社会的責任の手引ですが、営利企業にとっては、企業の社会的責任(CSR)の手引ということになります。
2001年のキックオフから10年をかけて、世界99カ国及び42の連携国際組織から450名のエキスパート及び250名のオブザーバーの参加のもとに策定されたもので、CSRの現時点における国際的コンセンサスとしてのグローバルスタンダードを示すものとなりました。

ISO26000は、CSRの定義の中で、社会の持続的発展に貢献すること、ステークホルダーの利益や要望に配慮すること、法令や国際ルールを順守すること、企業トップのコミットメントの下で自社の本業及びサプライチェーンにおいて実践することを求めています。
その上で、ステークホルダー、すなわち、企業の決定や事業活動によって影響を受ける者、たとえば、消費者、取引先、労働者、株主、地域住民などに対して、情報提供や説明をきちんと行い、その要望に耳を傾け、双方向的な対話を実現するという関係の構築(ステークホルダー・エンゲージメント)をきわめて重視しています。
また、ISO26000は、CSRとして取り組むべき中核主題として、組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画及びコミュニティの発展の7つの分野を掲げています。この7つの中核主題の下に、36の個別課題、さらに、これらの課題に取り組むにあたって参考となる数百の推奨行動例が掲げられています。

ISO26000は、品質管理に関するISO9000ファミリーや環境管理に関するISO14000ファミリーと異なって、専門の機関が企業の取組を審査して基準に適合しているかどうかを認証するという仕組みをとっていません。
そこで、CSRに取り組む企業が、それによって社会からよい評価を得る方法としては、CSR報告のような形で検証可能な情報を適切に提供して社会から広く評価を得たり、ステークホルダーグループとの双方向的な対話によって評価を得たりすることなどが推奨されています。オランダのように、ISO26000を実践していることを宣言するためのガイドラインを国内規格として別個に策定しようとしている国もあります。

2. 資生堂のCSR報告

このような国際社会のトレンドの中で、資生堂が、いち早くISO26000の枠組みに準拠したCSR報告に踏み出したことは、グローバルな事業活動を展開する企業として適切な対応です。資生堂のCSR報告は英語でも充実した内容を提供しています、英語でCSR報告を行う場合に、ISO26000と無関係な構成では、これからは、そのことだけで実際の活動内容を正当に評価してもらえないという危険性すらあります。

CSR・環境活動のトップページには、「CSRトップコミットメント」や企業理念に基づいた「資生堂CSR3つの約束」、ISO26000の掲げる7つの中核主題、そして、「ステークホルダーとのエンゲージメント」が項目として立てられ、その詳細をたどっていけるようになっています。
トップページから「資生堂のCSRとは」という個所をクリックして移動したページを少しスクロールすると、「CSR活動の領域」としてピラミッド型の図が出てきます。下から、「企業存続」、「法令順守」、「社会貢献活動」、「新しい市場創造・新しい価値観の提示」という階層が示されています。
下の2つの層が「基本的CSR」(リスクを最小にし、企業価値を高める活動)、上の2つの層が「資生堂ならではのCSR」(本業に貢献し、企業活動をひっぱっていく活動)と性質づけされています。
最下層の「企業存続」としては、高品質商品・サービスの提供、社員重視、取引先とのパートナーシップ、利益と配当、納税・雇用機会提供が含まれるとされています。これは、前述した、CSRの基本であるステークホルダーの利益や要望への配慮を意味しています。
この「企業存続」は、「基本的なCSR」であるという点では、たしかに法令順守と同様ですが、法令順守にはあまり資生堂らしさは出せないのに対して、ステークホルダーの利益や要望への配慮の仕方については、資生堂らしさを出すことができますし、実際にいろいろな面で出ています。したがって、「企業存続」には、実際には、本業ないし本業と密接に関連した「資生堂ならではのCSR」が多数含まれているものと思われます。
企業のCSRへの取り組みの評価が、基本的CSRへの取り組みにおいて手を抜いていないことと、当該企業ならではのCSRへの取り組みの両面からなされるものだとすると、「資生堂ならではのCSR」として、「新しい市場創造・新しい価値観の提示」と「社会貢献活動」に限定することなく、「企業存続」の面での取り組みももっと強調されてよいと思います。

7つの中核主題の中では、「環境」への取り組み中の「アースケアプロジェクト」が内容的にも充実しており、かつサイトとしても出色ですが、他の課題についての報告と雰囲気が違いすぎている感があります。
ISO26000の策定過程の最終段階にわかに強調された課題として「動物福祉」があり、これには動物実験の廃止が含まれています。資生堂が、「消費者課題」の1つとして、動物実験の廃止に向けて代替試験方法の開発を進め、2011年3月に自社における動物実験を廃止したことは、ISO26000にいち早く対応したものとして高く評価できます。また、これは、「資生堂ならではのCSR」の1つでしょう。
さらに、動物実験の廃止に向けて、ステークホルダー・エンゲージメントが効果的になされていることも評価できます。「ステークホルダーとのエンゲージメント」の項目では、「化粧品の成分の動物実験の廃止を目指す円卓会議」での各参加者の発言が紹介されています。
しかし、動物実験の廃止はまだ自社内に留まっています。今後、委託先やさらには業界全体での動物実験の廃止に向けた取り組みにまで進んで行くことを期待します。

なお、社会からの適切な評価を受けるためには、企業としての方針を示すとともに、方針に従って実践した活動の検証可能な実績報告が必要です。その意味では、CSRの7つの中核主題の1つである「公正な事業慣行」の項目が、方針の掲示止まりになっています。この点については、昨年の藤井敏彦氏の第三者意見でも、「資生堂グループ・サプライヤー行動基準」の実施状況などの具体的情報が開示されていない点が指摘されているところですが、あまり変化が見られません。
同様の視点からは、体調その他に起因して一度は化粧品トラブルを起こす女性が多いと思われますので、「消費者課題」の中で、そういったトラブル情報の開示とそこからの製品や使用説明書、コンサルティングの改善例などの報告も検討されてよいと思われます。これは、ISO26000でも消費者課題の中の「消費者に対するサービス、支援、並びに苦情及び紛争の解決」という課題として挙げられているところです。
また、「活動実績データ」の欄において紹介されている事項も、課題による偏りが見られます。今後、さまざまな課題についての、実績データが時系列的に蓄積されていくことを期待します。

第三者意見をいただいて

執行役員 広報・お客さま情報・環境対策・風土改革・CSR担当
アキレス美知子

資生堂ウェブサイト内「CSR・環境活動」ページおよびCSR活動について、貴重なご意見ならびにご提言をいただき感謝申し上げます。

当社のウェブサイトページでは、本年度よりCSR報告をISO26000に準拠する形に改定し、公開しています。この点について、グローバルな事業展開する企業としてタイムリーで適切な対応であるとの評価をいただきました。さらに、他社に先駆けて代替試験方法の開発を進め、2011年3月に自社における動物実験を廃止した点、ステークホルダーとの対話が進められている点などを高く評価いただき、嬉しく存じます。

また、「基本的CSR」と「資生堂ならではのCSR」の区分けに関しては、「企業存続」は「基本的CSR」だけでなく「資生堂ならではのCSR」にも多く含まれているので、そういった取り組みをもっと強調してはとのご助言をいただきました。当社では2011年3月末に、それまでのCSR委員会とコンプライアンス委員会を廃止し、4月より取締役会直轄のCSR委員会を新たにスタートしました。新しいCSR委員会では、「企業存続」に関わるリスク対応、東日本大震災後の事業継続計画改定、資生堂ならではの復興支援活動、情報公開のガイドライン明確化などを含め、これまで以上に戦略的な視点で課題を抽出し、適切な対応を推進すべく議論しています。

こうした評価やご助言の一方で、「公正な事業慣行」での「資生堂グループ・サプライヤー行動基準」の実施状況等では方針の掲示に留まり具体的情報の開示がない点、「消費者課題」の項目での開示や改善例の報告の検討の必要性、および「活動実積データ」のページで紹介されている事項に偏りがある点もご指摘もいただきました。

これらの貴重なご意見やご指摘を踏まえ、今後の取り組みに活かしていきます。また、世界の様々な社会課題を認識し、ステークホルダーとのエンゲージメントを一層深めていきます。資生堂のミッションは、多くの人々との出会いを通じて、新しく深みのある価値を発見し、美しい生活文化を創造することです。これからも、人々の美しさ、健やかさを創造する経営を推進していきます。引き続き、多角度からのご教示をいただけますようにお願い申し上げます。


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