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第6回 裏神田 自然生村 統括村長 越田裕之氏 第3章 シマジはモノをもらう天才でもあった。

<店主前曰>

自然生村の自然薯は正確には自然薯山芋とメニューに書いている。自然の自然薯を商売ベースにのせるほど採ることは不可能なのだろう。マスターは自然薯採りを趣味にしている銀座の鳥政の親父によく送ってもらっているのだが、細く曲がった自然薯をすりおろすだけでもひと苦労している。しかも自然生村のものよりも粘りけが強く、みそ汁で割らないと巧くご飯にかけられない。香りも味も強烈である。とはいえ、ここ自然生村の天然種自然薯山芋もたしかに普通の山芋よりはパワフルで、自然薯に限りなく近いものである。

シマジ 今日のここの自然薯山芋は宮崎産ではないの。

越田 よくわかりましたね。

シマジ 毎週食べているからね。この白い色をしたほうが宮崎で、もうちょっと黒い色をしたほうが山口産なんだよね。

越田 その通りです。

シマジ おれは宮崎産より山口産のほうがねっとりしていて好きだね。

越田 宮崎産のほうが山口産よりサラッとしていますが、仕入れ値はこちらのほうがちょっと高いんです。

シマジ へえ、そうなの。てっきり山口産のほうが高いと思っていた。

越田 永吉さん、お刺身がきました。

永吉 これは自然薯のお刺身ですか。

越田 はい、これは自然薯を生で食べるために、表面に生えているヒゲをバーナーで燃やしてよく洗い、サクサクと短冊切りしたものです。お皿に添えられている梅肉エキスとワサビをつけて召し上がってください。

永吉 美味しそうですね!

立木 撮影するまでちょっと待ってくださいね。

越田 あっ、そうでした。ごめんなさい。まず立木先生に渡すのでした。

シマジ 越田村長は永吉さんの色香に負けたのかな。

立木 OK、もういいです。あとはよしなに召し上がれ。

永吉 ありがとうございます。パリパリして美味しいです。梅肉エキスがよく合いますね。わたし、自然薯をこうして皮ごと食べたのははじめてです。

越田 このほうが滋養が沢山摂取出来るんです。栄養的にはリンゴも皮ごと食べたほうがいいように、自然薯もそうなのです。

シマジ おれは桃も皮ごと食べているよ。

立木 それはシマジ式野蛮な食べかたじゃないの。

シマジ 子供のときからうちはそうだった。皮の表面の細かいウブゲみたいなものをきれいにタワシで洗い落として、そのままかぶりつく。丸ごと食べると一滴の果汁も失うことなく食べられるんだ。

永吉 私もやってみようかしら?

立木 永吉さん、おやめなさい。そんなことをしたら口の周りが汚れるし痒くなりますよ。

シマジ そういうタッチャンも丸ごとかぶりついた経験はあるんだね。

立木 いや想像しただけだ。

シマジ またおれは子供のころから葡萄を食べるときは、種も一緒に飲んでいた。いまでは種なしが多いからあの快感は味わえませんがね。

立木 普通の家庭では盲腸になるって種を出したもんだけどね。

越田 葡萄の種まで食べられるなんてはじめて聞きました。

立木 シマジはまさしく子供のときから変わっていたんだ。学校でいじめにあわなかったのか。

シマジ 別にいじめにはあわなかったし、いじめたこともなかったけど。ところでここは神田駅から近いよね。この近くに「くじらのお宿一乃谷」というクジラ専門店があるんだけど、もしおれが現役のときだったら、しょっちゅう両方の店に入り浸りだったろうね。

立木 シマジの性格は懲りだしたら飽きるまで徹底的に通うんだよ。神保町にいたときはランチは決まっていたんだろう。

シマジ そうだね、ヒゲ勘のアジのたたきとイワシの刺身、それからカーマのチキンカレーと山の上ホテルのハンバーグを3日にあけず食べていた。この間、山の上ホテルに用があって行ったとき、久しぶりにハンバーグを注文したら、いまはやっていないといわれてガッカリしたけど、和牛のステーキは値段の割にはまあまあだったよ。

立木 シマジが神保町をウロウロしただけで、集英社の連中はイヤな気分になるんじゃないの。

シマジ だから辞めてから一度も集英社インターナショナルにも、もちろん集英社本社にも行ったことがないんだ。

立木 それはお前のダンディズムかもしれないけど、そのほうがいい。立つ鳥跡を濁さず、というじゃないか。

シマジ そうかもねえ。あっ、そうだ。昨夜裏恵比寿の自然生村にシガーフレンドのカルロス川島を案内したんだ。

越田 ありがとうございます。

シマジ カルロスは東京人らしくこんな自然薯尽くしの料理は食べたことがないと驚き、風味豊かな自然薯に感動していたね。壁に貼りつけてあるシマジスペシャル・スパイシーハイボールという書き物をみてえらく感心していたよ。

越田 まだ裏神田店ではやっていませんが、あちらでははじめたんです。

シマジ 越田村長が1杯800円で新宿伊勢丹のサロン・ド・シマジと同額で売っているのがサービス精神豊富なところだね。

越田 いやいや、サロン・ド・シマジからシマジさんのファンがよくいらっしゃいますからね。

シマジ 越田村長もそろそろ葉巻をやってみたほうがいいじゃないの。何たって村長だから。

越田 シガーを吸うにはまだ33歳のぼくは若すぎるでしょう。

シマジ そんなことはない。おれなんて27歳から葉巻を吸っている。もし葉巻をやるときは、カルロスの『ハバナ・シガー 紫煙の誘惑』<現代書林>のVol.1とVol.2を推薦するね。これは葉巻の本の名著だよ。彼はカメラマン兼デザイナー兼シガー・コンシェルジュなんだが、シガーのことなら何でも知っている。しかもその本はオールカラーで260ページもあって2,800円と安い。しかも駐日キューバ共和国大使ホセ・フェルナンデス・コシーナさんから推薦状までいただいている。毎年彼はハバナに通っていて、ハバナ・シガーの第一人者なんだ。またカルロスの持ち物がお洒落だ。シガーを外に持って行くためのシガーバッグがクロコダイルで機能的で可愛いんだ。それから時計が変わっている。ボタンを押すと火が出る。ライターが内蔵されている腕時計なんだぜ。

立木 多分3ヶ月くらいのうちに、カルロスからシマジにクロコダイルのシガーバッグとライター内蔵の腕時計がプレゼントされているだろう。シマジはモノをもらう天才なんだよ。この間、サロン・ド・シマジの本店に撮影に行ったら、壁に藤田嗣治の猫の絵が飾ってあったが、あれだって誰かにもらったモノだろう。

シマジ たしかに仰る通りです。日本に一個しかない美しいモノをみると無性に欲しくなるんだ。

立木 誰にその魔術を教えてもらったんだ。

シマジ それは今東光大僧正です。むかし江崎真澄さんという政治家がいて、防衛長官をしていた。フランスがミラージュ戦闘機を売り込みに日本にきたとき、江崎大臣はフランスの高官からデュポンの最高級のライターを贈呈された。その翌日、今先生と江崎さんとわたしでランチをしたんです。大僧正はヘビースモーカーでタバコを出すたびに、江崎さんがデュポンで火をつける。「江崎、そのライターは凄いな。おれが吸っているタバコの味がいつもとちがう」とか、褒めちぎって、結局帰るときには江崎さんのデュポンは今先生のポケットに入っていた。

永吉 凄い魔術ですね。

立木 シマジがカメラ好きでなくってよかったと、おれはいつも思っているんだ。

今回登場したお店

自然生村
東京都千代田区内神田3-17-6小山第3ビル1F

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