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第7回 西麻布蕎麦たじま 店主 田島基行氏 第3章 スコットランドで「蕎麦たじま」の味を思い出す。

<店主前曰>

料理人を取材していつも感じることがある。彼らの清潔感あふれる厨房にはほとほと感心している。まな板はいつもきれいで水回りも清々しい。マスターは自称グルメであり、グルマンでもあるが、自分で作ろうと思ったことが一度もない。それは整理整頓が子供のときから下手なことを自分で知っているからだ。いま新宿伊勢丹でバーマンの真似事をしながらシェーカーを週末に振っているが、洗い物とお金の勘定は伊勢丹の正社員に任せている。

シマジ 田島さん、ではいつもの辛み蕎麦を作ってください。

田島 はい。ではまた消えますのであとはよろしくお願いします。

シマジ 芝﨑さん、ここの手打ち蕎麦は格別です。「たじま」の魂が蕎麦一本一本に宿っていますから、味わってくださいね。

芝﨑 はい、愉しみです。

シマジ こんなに資生堂から応援団が沢山やってくるところをみると、日本人はやっぱり蕎麦好きなんだね。

立木 外国に行くとおれは美味い蕎麦を夢見るからね。イタリアのパスタも美味いけど、蕎麦のそこはかとない微妙な味とは似て非なるものだね。

シマジ そうだね。海外を旅行していると蕎麦とソーメンの味を思い出すね。いま海外では日本のラーメンがブームらしいが、いずれ蕎麦とソーメンが認められる時代がくるかも知れない。ニシン蕎麦なんてスコットランド人に受けるかも。

芝﨑 どうしてスコットランド人にニシン蕎麦が受けると思うんですか。

立木 芝﨑さん、それは鋭い質問です。

シマジ スコットランド人の大好物にキッパーという燻製したニシンの焼き物があるんです。

立木 そうだ。シマジはスコットランドから帰ってきたばかりなんだ。また散々贅沢してきたんだろう。ヤキモチ焼かないから正直に話してみろ。

シマジ penの取材で2週間ばかりスコットランドに行ってきたんだが、詳しくは11月1日と15日発売のpenを読んでもらうとして、ちょっとだけご開帳しますか。

立木 そんな出し惜しみをせずさっさとご開陳しろよ。

シマジ 壮大なスコットランドをクルマで走っているとき、この地に蕎麦を植えたらいい蕎麦が出来るのではないかと想像したんだ。北海道の蕎麦が美味いといわれているんだから、スコットランドでも育つんじゃないか。なにせシングルモルトの原料の大麦が大量に採れるところだからね。

立木 それは面白いアイデアだね。土地は余るほどあるしね。

シマジ 日本人の大好きなネッシーが潜んでいるというネス湖地方に蕎麦畑を作り、名付けて「ネッシー蕎麦」として売れば話題を呼ぶんじゃないの。

立木 シマジは顔が広いからだれか農水省に役人を知らないのか。いつもお前の連想飛躍には呆れているが、「ネッシー蕎麦」は食べてみたくなった。幻の蕎麦「ネッシー蕎麦」か。「湖水蕎麦」と命名するのもいいかもしれない。

シマジ 農水産省の役人か。いやむしろ総合商社あたりにやらせてみてはどうだろう。おれが訪れたスコットランドの9月のはじめは、スコットランドはまだサマータイムでほとんどのスコットランド人は半袖だった。おれはTシャツの上にアラン島の分厚いセーターを着て、その上にヘルノのダウンジャケットという出で立ちだった。どうも寒さを感じる神経は別のものらしい。レストランでみかけたスコットランド人の若者は驚くべきことにショートパンツを履いていた。「寒くないのか」と尋ねたら、涼しい顔して「いまスコットランドはまだ夏だ」とおれのダウン姿をみてむしろビックリしていやがった。

芝﨑 よく真冬の銀座をTシャツで闊歩している外人さんがいますものね。

立木 彼らは肉食系だから感覚が日本人とはちがうんじゃないの。それにしてもシマジは岩手育ちにしては寒がりだよ。ところで向こうへなにを取材に行ったんだ。

シマジ まずスカイ島に行ってタリスカー蒸留所の所長のマークに会いにいったんだ。伊勢丹のサロン・ド・シマジをオープンしたとき、マークがわざわざ表敬訪問してくれた仲なんだよ。再会の熱い抱擁を交わして10月に新しくタリスカーから発売される“ストーム”を飲ませてくれた。これはノンエイジのシングルモルトだけどコクがあって美味かった。値段も安くして大量販売を狙っているシングルモルトらしい。“ストーム”ってセンスのいい命名だ。スカイ島に3泊4日滞在したけど、いるあいだ中霧雨が降っていた。マーク所長がスカイ島のいい天気に恵まれてよかったね、というじゃないか。スコットランドの最西端にあるここの蒸留所はいつも霧に煙り、機嫌が悪いと小さな島はしょっちゅう嵐に襲われる。まさに“ストーム”という名がピッタリの島なんだ。

立木 その“ストーム”が飲みたくなった。いつ発売だって。

シマジ 10月中には日本に入ってくるらしい。ラベルも格好いいんだ。まるでむかしの東映のタイトルバックみたいに波が岩に激しくぶつかっているブルーの写真なんだ。

立木 シマジは水臭いよな。“ストーム”を一本くらいトランクに隠し持って帰ってきてもいいじゃないか。

シマジ 残念ながら発売前だから無理だったんだ。試飲したそのときチラッとタッチャンの顔が浮かんだんだけどゴメンなさい。

立木 ほかになにかおいしい話はなかったのか。

シマジ グレンファークラスの5代目オーナー会長ジョン・グラントにもえこひいきされてきた。

立木 いつかpenでシマジが書いていたグレンファークラスの話の男だね。

シマジ そうです。あの連載の文章を明治大学のマーク・ピーターセン教授に素敵な英文に訳してもらいpenと一緒に送ってあげたんだ。ジョンはとても喜んで今回おれのために大盤振る舞いしてくれた。きっとマーク・ピーターセン教授の英訳のほうがおれが書いた日本語のオリジナルの文章より優れていたんだろうね。おかげで今回はまさにジョンから“えこひいきの倍返し”を受けることになった。ポートマチュアードの32年熟成のカスク<樽>を格安で一樽売ってくれたんだ。これをサロン・ド・シマジのオリジナルボトル・セカンドリリースとして11月中旬から予約販売する予定です。

芝﨑 どこに行けば買えるんですか。

シマジ 伊勢丹のサロン・ド・シマジでも予約を受け付けますし、信濃屋全店とJALのファーストクラスの特別会員に販売する予定です。

立木 何本ボトリング出来たんだ。

シマジ ポートパイプですからカスクが大きく581本採れたようです。

立木 よしおれも予約注文するよ。

シマジ いやいや日頃無理難題いってご迷惑をおかけしているタッチャンにはおれからお歳暮として贈呈いたします。

立木 12月には手に入るね。

シマジ 確実に。

立木 イチローズモルトのサロン・ド・シマジも美味かったね。

シマジ あれはいまネット市場で7万2000円で取引されているようだね。

芝﨑 グレンファークラスの今回のものはおいくらで売られるんですか。

シマジ 3万5000円です。これはお買い得です。わたしは10本買う予定です。

田島 お待たせしました。どうぞ。これがシマジさんがいつも召し上がっているおろし蕎麦です。なにかお得なお話をしていらっしゃいましたね。わたしも一本予約したいんですが。

シマジ 予約を開始したらいの一番に田島さんにはお知らせしましょう。いつもえこひいきされているささやかなお礼として。

田島 ありがとうございます。

芝﨑 いただいていいんでしょうか。

田島 どうぞ、どうぞ。立木先生の撮影用にもそこに用意してありますから。

今回登場したお店

蕎麦たじま
東京都港区西麻布3-8-6
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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