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第8回 恵比寿 パナセ 店主 羽崎修平 第4章 今日から「スランジヴァー」といって乾杯しようか。

<店主前曰>

パナセは新宿から恵比寿に移ってきて今年で10周年を迎えた。またバーマン羽崎修平は結婚して5年目になった。僭越ながら、わたしは羽崎の披露宴に呼ばれて乾杯の音頭をあげさせてもらった。
「新郎新婦、本日はおめでとうございます。新郎とわたしの関係は、小さな路地を挟んで隣合わせたマンションの住人同士、しかも同じ11階の住人でして、窓をあけると手が届くくらいのところに住んでおります。そんな縁もあって乾杯の大役を仰せつかったんでしょう。ところで、わたしは日頃から、バーのカウンターは人生の勉強机だ、と思っております。ですからカウンターのあちら側に立つバーマンの新郎は、若くてもわたしの先生なのです。一方でわたしはこんなに年上ですが、生徒なのです。いままでハザキ先生には人生の勉強机でいろいろなことを教わり、授業料としてお金を沢山払いました。シングルモルトのこと、とくにマッカランのレッドリボンの味という大変貴重なものも教わりました。これにはことさらに高い授業料を払いました。さて、人生において結婚という新しい船出は一大事です。でもわれらがハザキ先生なら、軽いアクビをしながら乗りこなせることでしょう。では僭越ですが、乾杯の音頭を取らせていただきます。ご唱和ください。乾杯!」

カンパリソーダ

シマジ ハザキ、お前の披露宴をやった恵比寿駅に近い駒沢通りのイタリアンは何ていったっけ。

ハザキ 代官山のリストランテASOです。

武田 有名なイタリアンですよね。

ハザキ そうです。

シマジ おれは10年ぶりに披露宴に呼ばれたがあそこの料理は美味かったね。それから食後のウエディングケーキのカットのあと、突然カーテンが開かれ、洒落たガーデンテラスが現れたのにはビックリしたよ。大勢の招待客が上質な葉巻を吸っていたね。

立木 ほかのお客には迷惑だったんじゃないのか。

シマジ まあパナセで結婚式をあげていると思えばいいんだよ。

立木 そこがお前の嫌われるところだな。

ハザキ 申し訳ありません。

シマジ おまえが謝ることはない。

武田 お子さんはいらっしゃるんですか。

ハザキ 1歳8ヶ月の女の子がひとりおります。

武田 可愛いでしょうね。

ハザキ はい。明け方帰宅してまず娘の顔をみます。

武田 お名前は何てつけられたんですか?

ハザキ 「明莉」と書いて「あかり」と読みます。

立木 また凝った名前をつけたもんだね。

シマジ 学校の先生も読めないんじゃないか。

ハザキ これは茉莉花<まつりか>いわゆるジャスミンの意味でして、白い可愛い花が咲くんです。

立木 その花がジャスミンティーになるんだよね。

ハザキ そうです。

武田 可愛いお名前ですわね。

シマジ これから奥さんと明莉ちゃんのためにハザキは一生懸命働くんだね。

ハザキ はい、そうしております。

シマジ タッチャン、それにしても子供は3歳までは目に入れても痛くないほど可愛いよね。

立木 そうだな。人間は男の子でも女の子でも言葉を覚えてくると憎たらしいことをいうからね。シマジなんて72歳になっても枯れないで憎たらしいことをいっているから始末におえない。

ハザキ わたしの個人的なことはこれくらいにして、シマジさんのスコットランド土産の面白い話を聞かせてくださいよ。

シマジ 話すと長くなるけどいいかな。

立木 しょうがない。この際許そう。

シマジ ハザキ、スコットランド人が友達と酒を飲むとき何て乾杯するか知っているか。

ハザキ チアーズとかトーストとかスコールではないんですか。

シマジ さすがのハザキ先生も知らないか。

ハザキ 知りません。

シマジ まだスカイ島あたりではゲール語が話されているんだが本土でも乾杯は「スランジヴァー」とたがいにいうんだよ。これは「健康のために」とか「健康を祝して」という意味らしい。

ハザキ 「スランジヴァー」ですか。よしこれからうちでも使おうかな。

シマジ ではここでみんなで「スランジヴァー」と乾杯しようか。

全員 スランジヴァー!

ハザキ あっ、思い出しました。たしか「バー スランジー」という店がどこかにありましたね。

シマジ スランジヴァーとひっかけたんだろうね。洒落ている。

武田 ハザキさん、パナセってどういう意味なんですか。

シマジ それはわたしが代わりにお答えしましょう。「パナセ」とはフランス語で「万能薬」のことです。ここのお酒は人生のどんな病にも効くということでしょう。

武田 パナセも洒落た名前ですね。お店の名前といいお嬢さまのお名前といいハザキさんはセンスがいいですね。

ハザキ ありがとうございます。これもシマジさんがいつもいっていらっしゃる「人生は運と縁とセンス」だという薫陶を受けているからでしょう。

立木 シマジがバーに名前をつけるなら何てつけるんだ。

シマジ いい質問です。いまでしたら「スカイ」ですかね。英語でただ「Sky」ではなく「Skye」とeをあえてつけますね。

立木 どうしてまたeをつけるんだ。

シマジ これはスカイ島のSkyeなんだ。

立木 シマジ、お前、タリスカーのマーク所長に一服盛られて帰ってきたんじゃないか。

シマジ タッチャン、いま発売中のpenのスカイ島の写真をみてくれる?こんなに美しい島はほかにないね。人口が9,000人しかいないんだ。方々の山から華厳の滝のような長い滝が流れ落ちている。その低い山々にはあまり木が生えていない。火山岩で作られた島であり風が強いため木が生えないらしい。

立木 じゃあシングルモルトの原料の大麦は本土から持ってくるんだな。

シマジ 鋭い!その通りです。牛とか羊は人間さまより数が多いけど作物は育たない。しかも一年中雨ばかり降っているので牛の毛並みがしっとりいつも濡れている。それでも1000年前の植物がすでにピートとなって地中に埋まっている。大量の雨がピート層を通って湧き水になって山から流れてくる。だからタリスカーは水そのものがピーティーなんだ。20%ppmとマークはいっていた。おれが毎日いろんな種類のタリスカーを飲んでいても飽きないのは、このピーティーさのおかげかもしれない。それにかすかにブラックペッパーの香りもする。そこに目をつけてスパイシーハイボールを考えだしたんだ。

武田 わたしも何杯も伊勢丹のサロン・ド・シマジで飲ませていただきましたが、たしかに美味しいです。じつはあのスパイシーハイボールがやみつきになり、サロン・ド・シマジで売っていたブラックペッパープッシュミルを買いました。ニューヨークで使おうと思っています。

シマジ ありがとうございます。ちょっと話してくれたらプレゼントしたのに残念でした。

武田 タリスカーはニューヨークのお酒屋さんでも売っていますよね。

シマジ アメリカでいちばん売れているシングルモルトがグレンリベットですがタリスカーも当然売られているでしょう。

立木 シマジはタリスカーの回し者になってしまったんだな。シマジ、おれとマークのどっちが好きなんだ。

シマジ それはタッチャンに決まっているよ。

立木 それであたし安心したわよ。

シマジ タッチャン、ここではオネエ言葉はやめましょう。福原名誉会長に怒られますよ。長い長い付き合いなんだから、絶対におれたちのなかには誰も入ってこられないさ。

武田 お二人は何年くらいのお付き合いなんですか。

シマジ 出会いは40年以上むかしに遡るかな。

ハザキ まだぼくは生まれていませんね。

シマジ ハザキがまだ精子にも卵子にもなっていないむかしむかしの話だよ。

ヘア&メーキャップアーティスト 武田玲奈

資生堂の宣伝広告のヘアメークを中心に、ニューヨーク、パリ、東京など国内外コレクションでも多岐にわたり活動。現在、資生堂メーキャップを担当し、ディック・ページ氏とコレクションや商品のカラークリエーションも行う。
> 公式サイトはこちら

今回登場したお店

パナセ
渋谷区恵比寿1-25-3 2F
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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