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第12回 銀座ロオジエ エグゼクティブシェフ オリヴィエ・シェニョン氏 資生堂パーラー エグゼクティブプロデューサー ジャック・ボリー氏 第4章 ロオジエを語ることで資生堂の本質がみえてくる。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

新生ロオジエに新しく迎えられたエグゼクティブシェフ、オリヴィエ・シェニョン氏が胸を張っていっているように、「スタッフ全員の総力の結集がなければ世界に冠たるグランメゾン、ロオジエは成り立たない」のである。
 ロオジエでは充分な人数の従業員がきめ細かいサービスを提供してくれている。
 まだシャック・ボリー氏が腕を振るっていたころ、フランス料理界の帝王、アラン・デュカス氏が「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル」をロオジエで食べたことがある。この料理は、ジャック・ボリー氏のお得意のもので、野ウサギの煮込み料理である。味はエレガントでシルキー、しっかりとした滋味に溢れる濃厚でリッチなひと皿である。
 帝王は「これぞ世界でいちばん美味しいリエーブル・ア・ラ・ロワイヤルだ!」と絶賛した。そして尊敬の念を込めて付け加えた。「ロオジエは世界で唯一無二の素晴らしいレストランである」 その偉大なるシェフ、ジャック・ボリー氏が今回白羽の矢をたてたのがオリヴィエ・シェニョンシェフである。社長の最大の仕事は次の社長を選ぶことである。これは料理人の世界でも通用する真理なのである。

シマジ タッチャン、関根さん、いまからボリーさんとわたしは徹底的にロオジエの魅力について語り合いますから、休んでいてくださいね。

立木 今日は喜んで休ませてもらうよ。どうもお前の変装をみているといまいち調子が出ない。

関根 どうぞ、どうぞ。ロオジエのお料理のことを話されてもわたしにはまだまだ知らないことが多いですから、シマジさん、よろしくお願いします。

シマジ わたしはロオジエでは天才シェニョンシェフを支える山下泉料理長の存在も大きいと思いますね。

ボリー さすがはレオナール、おっと、まちがえました。シマジさん、その通りです。山下はロオジエのお客さまの好みをよく存じています。それに山下はわたしが手塩にかけてフランス料理の真髄を教えて育てた愛弟子です。山下がいないとシェニョンシェフだって才能を思う存分発揮出来ないでしょう。今回のロオジエのリニューアルオープンにあたり、シェニョンシェフと山下は2人で相談しながら試作を重ね、新生ロオジエのメニューを作り上げたのです。

シマジ まさにボリーさんの職人魂のDNAが山下料理長に受け継がれているのですね。

ボリー そう信じております。

シマジ ロオジエのフロアに立って20年余り、ボリーさんのもう一人の愛弟子、内堀泰彦総支配人の存在も大きいですね。

ボリー 内堀はまさに職人気質で頑固一徹な気骨ある男です。それでいてお客さまの好みを瞬時に察知してサービスする卓越した能力の持ち主なのです。この世界に長いので口も堅く、こころから信頼できる人物です。

シマジ この間内堀さんと話したとき、感動的なことをいっていました。
「ロオジエはたとえどんな要人がいらっしゃろうと、どんな政財界の大物の方がいらっしゃろうと、何一つ特別なことはいたしません。ロオジエは通常のサービスをこころがけます。なぜなら、それが最高のサービスだからです」
これぞロオジエの誇りを象徴した人物の言葉ですね。

ボリー ありがとうございます。そこまでシマジさんにいわれたら内堀もうれしいでしょう。

シマジ ロオジエは予約がなかなか取れないことでも有名ですが、そこで腹を立てた社会的地位の高いお客さまから、資生堂の役員にいいつけるぞ、なんていわれることがあるでしょう、というわたしの質問に内堀さんは笑顔でこう答えていましたよ。
「どうぞ、どうぞ。会長にでも社長にでもいっていただいて結構でございます。結局、わたしのところに戻ってきて同じお答えをさせていただくだけです」

ボリー それは資生堂という会社が現場に全幅の信頼を寄せているからこそでしょう。

シマジ また内堀さんは胸を張ってこうもいっていました。
「ロオジエで働く人間は、料理人だけでなく、サービスもソムリエも自ら高みを目指す職人でなければなりません。指示待ちで働くことしか出来ないようなモチベーションが低い者は、ロオジエでは続かないでしょう」

ボリー まさにそれこそ、わたしがスタッフに叩き込んできたロオジエの矜持です。そうですか。内堀がそういっていましたか。わたしもうれしいです。

シマジ シェフソムリエである中本聡文さんも素晴らしい方ですね。

ボリー パリの3つ星レストランでも中本のようなソムリエはいませんよ。その日の料理にあった飲みごろのワインをセレクトする能力はもちろんのこと、抜栓の時間、ワインの温度管理、芳香の立ち方に至るまで、そのワインの持つポテンシャルを最大限に引き出す職人技に関して、中本の右に出るソムリエはいないでしょう。中本はロオジエの誇りです。

シマジ わたしは中本さんがアピシウスにいたころから知っていますが、ある食通から聞いたエピソードで唸ったのは、ミネラルウォーターだって中本さんが注ぐと味が美味しくなるらしいですね。

ボリー たしかに中本は魔法使いかもしれない。

シマジ あるご高齢のお母さまとそのお嬢さまがアピシウスに行って食事をしたとき、中本さんはたとえ水でも気を入れて丁寧に注ごうとこころがけていたそうです。その品のあるお母さまはそれに気づかれていったそうです。「あなたが注ぐお水は美味しいわ」そして数年後、中本さんがロオジエに移られて間もないころ、件の親子がやってきていったそうです。「あなたはお忘れになったかもしれませんが、以前、美味しいお水をサービスしていただいた親子ですよ」

ボリー そこまでいわれればソムリエ冥利に尽きるでしょう。中本は幸せ者ですね。

シマジ いつだったか、中本さんはプライベートでもさぞかし凄いワインをお持ちでしょうね、と尋ねたら、中本ソムリエの答えが振るっていました。
「プライベートでワインを持つようになってしまうと、ワインに愛着が出てきてしまい、お店のワインを出す際、これは出すのがもったいないな、と思うようになってしまいがちです。わたしはサービスのプロです。そのような気持ちを寸分でも持つことは許されません。ですのでプライベートではいっさいワインのコレクションはしていません」
わたしはこの話を聞いたとき、中本さんはさすがプロ中のプロだと思いましたね。

ボリー 中本はロオジエの休業中もセラーのワインの面倒をみていたし、リニューアルオープンに向けてワインの買い付けを継続していました。ワインは購入して飲みごろになるまで時間がかかりますからね。

シマジ 先日、無理をいって常連のある方がウニコのレゼルバを持ち込んだとき、1週間前に持ってきてくださいといわれたそうです。たぶん中本さんのそばで1週間寝かせると中本牧場のウニコになるんでしょうね。

ボリー ワインの中本牧場か。素敵な表現ですね。

シマジ そのとき中本さんはわたしに小声で「タリスカー10年のスパイシーハイボールもご用意していますよ」といったんですよ。わたしはそのユーモアのセンスに腰が抜けました。

ボリー シマジさんが伊勢丹新宿店でスパイシーハイボールを売っているのを中本はちゃんと知っているところが偉いね。

シマジ タリスカーだけの売り上げは何と全国のバーのなかで№5ですからね。

ボリー それも凄いですね。

シマジ 最後になりましたが、シェフパティシエの谷田代<やつだ・しげる>さんの作るデザートは格がちがいますね。デザートを出されたころにはほとんど満腹なんですが、彼がワゴンでフリヤンディーズ<小さなお菓子>を運んでくるとホントに別腹に収まってしまうんですよね。彼の緻密なデッサンから創作されるデザートは、あるときは砂糖細工で作った一見本物とみまちがうようなオレンジだったり、あるときは宝石のような輝きのマチエールを持つデザートだったり、毎回、多種多様な彩りに感動しますね。

ボリー このことは谷田に伝えておきます。彼も喜びますよ。

シマジ わたしが親しくさせていただいている資生堂の林高広執行役員は、彼がまだ宣伝部長のころからお世話になっているんですが、このロオジエを配下におく資生堂パーラーの担当役員でもあるんです。彼が常々こう語っています。
「ロオジエを語ることで資生堂の本質がみえてくる」

ボリー わたしはまだまだ死ねないけれど、こういうとき難しい日本語では「もって瞑すべし」というんですか。

シマジ それと同じことをいまから二千数百年前に生きたある中国の歴史家もいっております。
「本当の戦士は自分を評価してくれる将軍のためなら喜んで命を捧げるものだ」と。この将軍とはあなた、ボリーさんですよ。

今回登場したお店

ロオジエ
東京都中央区銀座7-5-5
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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