Back to Top

第1回 新宿 ル・パラン 本多啓彰氏 第1章 ル・パランは映画ゴッドファーザーの博物館だね。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

新宿末広亭の左隣のビル3階に「ル・パラン」というオーセンティックバーがある。そこのオーナーバーマンが本多啓彰である。本多はいつもダークスーツとシブいネクタイのダンディないでたちでバーのカウンターに立っている。お洒落で色気がある男だ。さぞフルボディの女性がキャアキャアいって集まってくるかと思えば、お客は99%男ばかりなのだ。しかもお洒落でダンディな男が一人で飲みにくる。
 パイプを吸ったり葉巻を吹かしたりしながら、マスター相手に話が弾む。本多バーマンは会話の達人である。訊くとやっぱり本好きだった。だから話柄が豊かなのだろう。
 一方、本日資生堂からお越しいただいたのは資生堂ビューティースペシャリストの山口智代さんである。彼女がバーに入ってくると、その美しさのために部屋の照明が一瞬明るさを増したかのように思えた。タッチャンとわたしは色めきたった。バーマン本多の鼻の下が長くなった。本多は当年取って42歳、タッチャンは自慢じゃないが76歳、わたしは4月7日で73歳になる。山口さんはいくつだろう。37、8歳かな、とタッチャンとわたしは思った。本多は32,3歳と踏んだ。ところがなんと山口さんは、55歳だというではないか。やはり資生堂の化粧品は女も男も徹底的に使うべきなのだ。

シマジ: おれの兄貴分のタッチャンは知ってるよね。

本多: はい、立木さんとは以前わたしが働かせていただいていた青山の「セカンド・ラジオ」でしょっちゅうお見かけいたしました。

立木: ああ、覚えている。本多ちゃんは変わらないね。いい店持ったじゃないの。ここはゴッドファーザー博物館だね。たしかル・パランってフランス語でゴッドファーザーのことをいうんだよね。

04

シマジ: さすがはタッチャンだ。

立木: いや、むかしフランス人のアシスタントがうちにいてね。そいつに教わったんだ。

山口: はじめまして、資生堂の山口です。よろしくお願いします。

シマジ: いやいや、先程あなたの年齢を聞いて腰を抜かしたところです。ホントに55歳なのですか。

山口: はい、よく若くみられるのですが、本当なのです。9歳年下の妹がいるんですが、一緒にいるとわたしのほうが妹とまちがえられます。

立木: 妹さんは気を悪くしないの。

山口: ただ笑っています。慣れているんでしょう。

本多: 山口さんは正直わたしより10歳はお若いと思っていました。

立木: もしお客さんに「あなたのように若くて美しくなりたいわ」といわれたら「無理です」というんですか。

山口: そんなことはいいません。「資生堂の化粧品のお蔭です」といっています。

シマジ: なるほど、正真正銘の使用後の美貌がここにある、か。失礼ですけど、結婚はしていらっしゃるんですか。

山口: 一度はしましたが現在は独身です。

シマジ: 勿体ない話だね。

立木: いやいや、離婚したからこそ美貌が保てたとおれは思うがね。結婚生活って疲れるものだからね。美しくいたかったら一人がいちばんですよ。

シマジ: 第一肌が若いですね。スモモのようにプリプリしていますね。

山口: あっ、そうです。まず本多さんのお肌を測定しなければいけませんでしたね。

本多: お手柔らにお願いします。

山口: 本多さんはEでございました。

本多: Eはいいんですか。

シマジ: いいんですよ。本日いただくSHISEIDO MENの5アイテムを明日の朝から毎日塗れば、本多ちゃんはまだ若いからすぐDになり、3ヶ月後にはCまでいくんじゃないか。

本多: これを使い切ったらどこで買えばいいんですか。

シマジ: いい質問です。伊勢丹新宿店メンズ館8Fのサロン・ド・シマジで売っています。

本多: そうですか。わたしは毎週日曜日には必ずお邪魔していますが、真っ直ぐバーに行ってしまうから気がつきませんでした。

立木: じゃあ、3人揃ってレンズをみてくれる? そうです。OK,では話していて。あとは勝手に一人一人おさえるから。

山口: 素敵なバーですね。大人の雰囲気です。

シマジ: ここはなぜか男が一人でくるバーなんです。しかもお洒落した男たちがやってくるんですよ。

本多: 決してオカマバーではないですよ。

シマジ: 歴としたダンディズムが醸し出されたオーセンティックバーなんです。

山口: 女性のお客さまはいらっしゃらないんですか。

本多: ほとんど。

シマジ: 彼女はくるだろう?

本多: どなたですか。

シマジ: 『ダンディズムの系譜』<新潮選書>を書いた中野香織さんだよ。彼女ならきっとダンディな日本人を観察しにここにくるだろう。

本多: ああ、中野さんですか。男のダンディズムを研究されている大学教授ですね。

山口: そもそもダンディズムって何ですか。

本多: それは難しい質問ですね。シマジさんに訊いてください。

シマジ: うん、難しいね。だからわたしも中野香織教授の本を暗記するほど何度も読んだのですが、彼女によれば、現代の日本人の感覚では次のような例が広義のダンディな男と考えられるそうです。
○ある程度年を取って渋くわびさびの魅力を増した男
○主流からはずれながらも影響力を発揮する二番手の男
○つきぬけた変人
○破天荒な伝説をつくった男
○異端の英雄
○サムライ
○反逆児
○ハードボイルドな男
○革命家
○浪費家
○越境者
○寡黙でありながら強烈な存在感のある男
○上のようなあらゆるロマンティックな要素がごっちゃになった、男が憧れる、男の中の男

本多: 現代の日本人でダンディなのはシマジさんですよ。

立木: シマジはかなりいい線いっているけどおしゃべりだからな。

シマジ: 柴田錬三郎先生は恋の二番手に甘んじられる男こそダンディだよ、といっておられた。

立木: そんなこと、嫉妬しないシマジにとっては楽なハードルじゃないの。

シマジ: わたしにいわせてもらうなら、ダンディズムとはやせ我慢かな。

本多: 少し前の日本人だと白洲次郎ですかね。

シマジ: どうかな。白洲次郎にはノブレスオブリージュ<高貴なる責任感>が足りないね。だって徴兵忌避をしてるんだからね。あ、そうだ。本多ちゃん、最近出た本で『白洲次郎の嘘』<鬼塚英昭著 成甲書房>を読んでみるといいよ。新潮社もビックリって内容だ。白洲次郎のすべての過去が暴かれている。でも白洲次郎がダンディな男として神話になったのは、本人が死んでから勝手に祭り上げられたことだからね。可哀相といえば可哀相な話だね。

立木: シマジにとって白洲正子はどうなんだ。

シマジ: 彼女は本物です。

山口: 今日は大変勉強になりますわ。

今回登場したお店

新宿ル・パラン
東京都新宿区新宿3丁目6−13 石井ビル 3F

PageTop

このサイトについて

過去の掲載

Sound