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第10回 広尾 ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー 下野昌平氏 第1章 ア・ニュで“ありのまま”のフランス料理に出会う。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

広尾の商店街の入り口にフランス料理「ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー(à nu retrouvez-vous)」がある。馴染みの常連でもなかなかこの店の正式名を言う方は少ないだろう。だから「ア・ニュ」と言っているそうだ。入り口にも「ア・ニュ」とフランス語で書かれている、「ア・ニュ」というフランス語は「むき出しの」とか「ありのままに」という意味だそうな。そして副題のようについている「ルトゥルヴェ・ヴー」は、「またここで会いましょう」という意味らしい。
下野昌平シェフは店の名前に凝る趣味があるようだ。以前代官山で雇われシェフをやったときも店の名前は自分で「ル・ジュー・ドゥ・ラシェット(Le jeu de l'assiette)」とつけた。このフランス語の意味は「皿の上の遊び」という意味だそうだ。
去年オープンして評判になったGINZA SIXの13階に下野シェフがオーナーとしてオープンしたフランス料理店の名前も凝っている。「ロムデュタン シニエ ア・ニュ(L'homme du Temps signé à nu」」という。これはどういう意味のフランス語かというと「時の人」という。これはフランス語が苦手な日本人でもわりと覚えやすいのではないだろうか。

シマジ:下野シェフ、こちらは立木先生です。

立木:よろしく。

下野:こちらこそ。今日はよろしくお願いします。

シマジ:それから資生堂からきてくれた本日のゲストの別府茉依さんです。茉莉花の茉に、にんべんに衣と書いて、まいさんと呼ぶそうです。

下野:ジャスミン茶の茉莉花ですね。

別府:そうです。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

シマジ:では下野シェフ、まず立木先生に、厨房でシェフが調理をしているところを撮影してもらいましょうか。

下野:どうぞ、どうぞ。ではサンマのムニエルを作るところを撮ってください。

立木:邪魔はしないから、勝手に料理を作っていてくれればいいんだよ。

シマジ:別府さんはそこに座って料理が出てくるのを待っていてくださいね。

別府:はい、畏まりました。

シマジ:ではタッチャン、厨房に行きますか。

立木:シマジ、お前は邪魔だからここでお嬢を取材していてくれる。すぐに戻ってくるから、寂しがるんじゃないよ。

シマジ:了解!

別府:立木先生とシマジさんは本当に仲がいいんですね。

シマジ:もう40年以上一緒に仕事をしている仲ですから。タッチャンはわたしの素敵な兄貴分です。

別府:失礼ですけど、シマジさんはおいくつなんですか。

シマジ:76歳です。タッチャンは80歳です。

別府:お二人ともそんなお歳には見えません。

シマジ:それはSHISEIDO MENのおかげでしょう。

立木:厨房の写真は終了した。あとは料理の写真をカラーで撮るか。お嬢、おれがいない間にシマジがおれの悪口を言っていなかった?

別府:いえいえ、立木先生を褒めていました。

シマジ:タッチャン、料理がきましたよ。

下野:お待たせしました。召し上がる前に撮影でしたね。これは当店自慢のアミューズです。下からブリのタルタルですが、よくフランス人がビストロで食べているステック・タルタル(牛肉のタルタル)のような味付けをしています。泡はヴァルサミコビネガーを泡立てたものです。その上にあるのがオリーブのビスキュイで、オリーブのクリームチーズ添えです。さらにその上にあるのがフォアグラムースのエクレアと栗のチップです。

立木:この大きな皿に小さな料理3種類を穴に刺すように置いてあるんだね。変わっていて面白い。

下野:このアミューズをつまみにシャンパンでも飲みながら、メニューをじっくり見ていただけたら、と思って考案したものです。

立木:これは撮影完了!

下野:次は新潟の長岡のレンコン生産者から直送してもらっている芽レンコンを揚げて、レンコンの穴にキノコのペーストを入れ、乾燥生ハムとエノキダケとフレッシュなハーブを刺したものです。
食べるときは一口で食べてください。そうすると、すべての香りが口のなかで爆発します。

シマジ:こんな細いレンコンがあるんですね。

下野:これは規格外のレンコンで市場には出さないんですが、農家の方はじつはここがいちばん美味いんだと言っていました。持ち帰って試作して試食してみて、これはイケるとメニューに載せたわけです。

立木:プティレンコンの撮影も終了!

下野:ではこれもアミューズの一つですが、コハダのタルトです。白ヴァルサミコでしめたものです。トマトソースを塗ったパンの上にのせてあります。

シマジ:日本の酢ではなくどうして白ヴァルサミコでコハダをしめているんですか。

下野:日本の酢はどうしてもシャンパンと相性が悪いのです。

立木:これも撮影OKだ。次は?

下野:ではいよいよ先程立木先生に厨房で撮影していただいたサンマのムニエルをお願いします。食べるときは切り分けますが、撮影はこのままのほうが迫力があるでしょう。

立木:そのほうが見栄えがいいね。よし、これで行こう。

シマジ:サンマが大きいですね。

下野:この12月になって急に大きなサンマが入荷し出したんです。9月ごろから入ってきていたんですが、今年のサンマは痩せて細いのが多かったんです。最後のほうでやっと大物のサンマが入荷しました。

立木:これはシマジの好きなフルボディのサンマだね。

シマジ:美味しそう!別府さん、もう少し待っていてください。撮影が済んだら、あなたのテーブルの前にドッと並べますからね。

別府:香りだけで美味しそうです。愉しみです。

下野:このムニエルは、サンマを開いて骨を外して塩を振り一夜干ししたものを、トマトを挟んでサンマがバラバラにならないようにネギで結んでいます。皿に盛るときは脇にサンマのはらわたのソースとほうれん草のソースを添えてあります。それをつけて召し上がってください。

シマジ:バターの香りが強烈にしますね。

下野:バターを焦がしながら味付けしています。

立木:サンマの撮影は終了した。

シマジ:いよいよメインディッシュですね。

下野:はい。これはスコットランドから空輸されてきた雷鳥です。

シマジ:雷鳥ですか。懐かしい。雷鳥はわたしの好物で、スコットランドでもデンマークでも何度も食べました。

立木:シマジ、日本では雷鳥は天然記念物で食べちゃいけない野鳥じゃなかったか。

下野:立木先生、その通りです。これはスコットランドの雷鳥ですから心配要りません。

立木:思ったよりこぶりなんだね。

下野:だいたい一羽一人分でしょうか。ビーツを使った泥臭いソースが雷鳥の血の鉄分と相性がいいんです。それから雷鳥を直接フライパンで焼くと肉が硬くなるので、ぼくはパンを敷いてその上に雷鳥を乗せてゆっくり焼いています。

シマジ:焼くのも凝っているんですね。皮もむかれていますね。

下野:雷鳥の皮は硬いので、むいています。胃袋には針葉樹の松の葉っぱがいっぱい入っていましたね。

シマジ:下野シェフはどこで雷鳥をはじめて召し上がったんですか。

下野:雷鳥をはじめて食べたのはフランスです。そのときの味が忘れられなくて、スコットランドの雷鳥は毎年うちの定番にしているんです。

シマジ:じゃあ、味付けもそのとき食べたものと一緒なんですか。

下野:ほとんど。

立木:雷鳥も撮影終了した!

シマジ:別府さん、お待たせしました。

新刊情報

神々にえこひいきされた男たち
(講談社+α文庫)

著: 島地勝彦
出版: 講談社
価格:1,058円(税込)

今回登場したお店

ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー
東京都渋谷区広尾5-19-4 SR 広尾ビル1F
Tel:03-5422-8851
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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