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第4回 東京スポーツ編集局特集部主任 古川泰裕氏 第4章「ぼくにとっての神さまは勝新太郎と赤塚不二夫だ。」

<店主前曰>

フルカワのスクープぶりをみると、偶然の出会いから生まれていることが多い。入社早々「東スポ」の一面を飾った「勝新、そば屋で絶賛、たけしのあの顔は最高だぜ」は取材先から社内カメラマンと赤坂のそば屋に入って、たらふく食事をしたあと、偶然、奥の席に勝新太郎をみつけた。そのとき瞬時にして、フルカワは頭のなかで「これでネタが作れる!」と直感した。あとさき考えずフルカワは勝新に得意の”じかあたり”をまた発揮した。たけしが交通事故のあとの初記者会見の感想を勝新にたずねた。「宇宙の神がたけしに与えてくれた最高の賞なんだ」の言葉を引き出して、フルカワは入社初の一面をゲットしたのである。
 それをきっかけに勝新と仲良くなったフルカワはそのあとも紙面に貢献した。勝新もこの芦屋の隣で生まれたカトリックの洗礼名を持つフルカワを面白がった。

シマジ たしかに人生の要諦は出会いであるけれど、とくに新聞記者はそうだろうね。

フルカワ 大盛りのとろろソバを食べたあと勝新さんを直撃したら、「ここは鴨せいろがうまいから食え」と言われ、断われない状況に。さらに「それからここは餅の天ぷらソバがうめえんだ」と追加注文され、「いいか、東スポ、ソバは日本酒をかけてくうといい」と、ソバにお酒をかけられてざるソバを最後に一杯ご馳走になり、満腹の上に酒まで入った大変な状態で、やっとたけしさんの初記者会見のコメントをいただいたんです。「あの顔はな、宇宙の神さまがたけしに与えてくれた最高の賞なんだ。ほかの芸能人ではあてはまらん。たけしに限ってよく似合う。たとえ顔が変わろうとやっていけるのはたけしだけ、ということだ」という素晴らしい言葉をもらえたんです。

シマジ そうやって人のこころに飛び込むためには命がけなんだね。

フルカワ まったくそのときは吐きそうになりました。

シマジ でも勝新は気前のいい天才的な役者だったよね。いつだったか、銀座を歩いていたら、勝新がぞろぞろ”番記者”を引き連れて向こうのほうからやってきた。その芸能記者のなかにおれの知り合いの先輩がいたんだ。道ばたでおれが紹介されると一緒に高級クラブに連れて行かれ飲んだことがあった。総勢10人はいたかな。おれはほかに約束があったので途中で席をはずしたが、そこの飲み代は全部勝新のおごりだったろう。ああいう存在感のある役者はもう出てこないだろうね。ハワイに行く飛行機のなかでパンツに隠してあったマリワナが見つかったとき「東スポ」は「勝新、飛行機から飛び降りる」と一面でデカデカ報道したんだが、裏面に「くらいの大罪だ」とつけたしてあった。おれはさすがは「東スポ」と感心したことがあった。あのころの「東スポ」は冴えていたね。

フルカワ それは伝説的有名な名見出しです。そういえば勝新さんの葬儀を取材したとき、奥さんの中村玉緒さんがみんなの前では涙ひとつ見せず、気丈に立ち振る舞っていたのですが、会葬人が帰って身内ばかりになった瞬間、突然、勝新さんのお棺の上で崩れるように倒れて号泣したのには、ぼくももらい泣きしました。

シマジ 勝新もそれだけ魅力ある夫だったんだろうな。よく先輩の堤堯さんがカラオケで「おまえに」という歌を唄うとき、これは勝新が玉緒に捧げた愛の歌なんだと説明してから、必ず唄っているのがわかるような気がする。

BC稲葉 わたくしの父もその歌をよく唄っています。

立木 シマジ、そろそろSHISEIDO MENの宣伝をしなくもいいのか。

シマジ 明後日、フルカワがSHISEIDOの売り場に行って6本買うって言ってるから、それで十分でしょう。この際、もっとフルカワの「東スポ」記者魂を聞こうじゃないですか。

フルカワ ぼくはこの商売で出会うことは出来て、こころから神として尊敬しているのは、勝新さんともう1人、赤塚不二夫さんなんです。

シマジ あの人も天才的な人だったよね。何度も飲み屋で会ったが、いいかただった。

フルカワ 90年代の半ばごろ、福岡にある会社がサザエさんとバカボンを一緒にした「サザエボン」というキャラクターのグッズを大量生産して売り出したんです。これはもともとは大阪の露天商が細々と作って売っていたんですが、あとから福岡の会社がマネして大々的にやりだした。それが著作権、肖像権の侵害だと長谷川町子美術館と赤塚先生が福岡の会社相手に訴訟を起こしたんです。そこで赤塚先生のお宅の取材に行ったところ、「ちょうどいいところにきた。いま雑炊を作ったんだ、食べよう」と先生が言ってくれたんですよ。じつはぼくは食事を終えて腹一杯で行ったんですが、食べざるを得ない状況です。仕方なく食べてみると味が全然しない。「先生、これは何で出汁を取ったのですか」と訊いたら「ン?餅だよ」と。「先生、餅では出汁は取れないと思います」と言いながら、でも赤塚先生の世界に触れたのが嬉しくって。そこへ奥さまが現われて「あなた、何食べているの!?」と。助かったと思ったら、「いまわたしが美味しいスパゲッティを作ってあげるわ」。大盛りのナポリタンが出てきて、泣きそうになりながら平らげて取材したんです。

シマジ 凄い話だね。新聞記者って胃袋が丈夫でないと勤まらないね。

フルカワ ジマジさんもそういう経験はあるでしょう。

シマジ おれは食い物で唯一アンカケがダメなんだ。子供のときから熱くて甘くてヌルッとしたあの食感が苦手なんだ。ある有名作家のご自宅へ昼どきにこいというので、のこのこ行ったら「うちの女房の中華どんぶりは日本一なんだ」と自慢すると同時に、アンカケ丼が大盛りで出てきた。おれは卒倒しそうになったけど、死ぬ思いで全部平らげたときには、本当に死ぬかと思った。何杯も水をお代わりしたものだ。

フルカワ へえ、シマジさんはアンカケに弱いんですか。

立木 それからシマジは偉そうにしているけど、犬に弱いんだ。こいつは保険の外交は無理だろうな。

フルカワ 犬もダメなんですか。

立木 東南アジアに行って犬の肉のアンカケ料理をシマジに食わせたら、こいつは即死だね。

シマジ その分おれは猫は大好きなんだ。

フルカワ そういえば赤塚さん宅には菊千代という大きな猫がいましたね。さっきの話の続きですが、赤塚さんは「おれに被害があるとかじゃなくて、ここで食い止めないと日本の著作権はどうなるの」とひとしきりマジメに語ったあと、「でもね~、おれは本当は悔しいんだ。サザエさんとバカボンのパパを組み合わせるアイデアは凄く面白いんだよ。何でおれが先に思いつかなかったのか残念で。考えてみれば『ウナギイヌ』と同じ発想なんだよね」と”敵”を褒めあげて自分を責めたんです。

シマジ それも天才的な悔しがりかただよね。

フルカワ そのことをもともと作ってた大阪の露天商に伝えたら「そうですか・・・。赤塚先生に悪いことをした。謝罪の手紙を書かないかん」と、こちらも反省を。

シマジ どっちも反省か。面白い。裁判は勝ったんだろう。

フルカワ もちろん福岡の会社は負けて販売禁止になりました。

シマジ 赤塚不二夫はタダモノではないね。スケールが大きい。

フルカワ だからみんなに慕われたのでしょう。赤塚さんの葬儀のときのタモリさんの弔辞にもぼくは泣けました。タモリさんが「わたしもあなたの数多い作品のひとつです」と述べたあの弔辞です。

シマジ タモリもタダモノではないね。

立木 シマジはおれが死んだら何て言うか、いまから愉しみだ。

シマジ 「巨匠、立木先生、立木さん、タッチャン、これからはゆっくりお休みください」とでも言うおうかな。

立木 冥土までおれに注文してこないでくれよ。

シマジ おれも冥土に行ったら、また冥土で一緒に仕事しようぜ。

立木 勘弁してくれ。おれはシマジに見つからないようにどこかにひっそり隠れているよ。

フルカワ 立木先生とシマジさんってホントに仲がいいんですね。

立木 腐れ縁さ。どうしておれがシマジの担当編集者たちをこうして撮影しているのか、いまだに理解に苦しんでいるんだ。

シマジ 人生は冥土までの暇つぶしなんだよ。

立木 このセリフでおれは何度騙されたことか。フルカワ、外国までおれはシマジに連れて行かれて、男のストリップまで撮らされたんだぜ。

フルカワ 東スポ向きのテーマですね。

シマジ おれがやっていたころの「週刊プレイボーイ」は「東スポ」を大いに参考にしていたんだ。

立木 シマジは「東スポ」は受けなかったのか。ピッタリのような気がするがな。

シマジ 「東スポ」に入っていたら、犬のアンカケを食わされていたかもね。

フルカワ 稲葉さん、面白いですか。

BC稲葉 はい、超面白いです。日頃、聞けないお話ばかりです。

フルカワ そうですね。これも90年代半ばですが、オウム真理教を担当していた横山弁護士っていましてね。

シマジ いたね。頭の薄い歳を取った弁護士だろう。

フルカワ オウム騒動の最中、ぼくは横山弁護士を密着マークして取材していたんですが、ぼくらには冷たく「あっちに行け」なのに、ある若い女性のテレビレポーターには目を細めて優しいことを言うんです。それに気づいて「横山先生、あの人のことが好きなんでしょう」と直撃したんです。するとヨコベンは最初は「そんなことは言えませんよ」なんてかわしていたんですが、ダメ押ししたら「はい」と小声で認めたんです。この経緯を記事にしたら、「横山弁護士に28歳の恋人 39歳差、生涯最後の老いらくの恋を告白」という見出しになって1面に。この仕事は観察力です。

シマジ まさに時の人だね。そしてあっという間に忘れられて行く。むなしいね。まるで流れる雲みたいだ。

フルカワ あのころどうして若者はあんな妖しい新興宗教に走ったんですかね。

シマジ しかも高学歴の若者たちがどうして狂ったのか。おれが考えるに、やっぱり文明が発達してマテリアリスティックな考えに飽きがきて、安易な唯心論を早とちりしてしまったんだろうな。

立木 シマジ、珍しく難しいことをまじめに言うじゃないの。

フルカワ 稲葉さん、いまのシマジさんの言ってることわかりますか。

BC稲葉 わかりません。

シマジ いまの若者たちはおれを信じてSHISEIDO MENを毎日使っていれば、必ず女にモテるようになって幸せになれる。

フルカワ それってシマジ教ですか。

シマジ おまえ、明後日、稲葉さんのところに行くことを忘れるなよ。

フルカワ SHISEIDO MENを使うと本当に女性にモテるんですか。

シマジ フルカワ、信ずるものだけが救われるって、キリストも言ってなかったか。

フルカワ 忘れました。資生堂コーナーに行くことはちゃんと覚えていますからご安心ください。

BC稲葉 お待ちしております。

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