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第8回 二見書房 取締役兼部長兼編集長米田郷之氏 第3章 そろそろエイジングケアが必要だ。

<店主前曰>

わたしの近著『異端力のススメ』を読んだ人によくいわれることがある。「どうして柴田錬三郎を取り上げなかったのか」と。わたしとしては、四国の大将、坪内寿夫の章でたくさんシバレンの魅力は書いたので、いまさら書くこともないなと思ったのである。天才的な面白い物語を紡ぎ出す才能の持ち主だったが、決してシバレンは怪物ではなかった。何故なら、顔が容貌魁偉ではなく端正で、しかもいつもヴァレンチノを着ていたダンディな洒落者であったからだ。はにかんだような笑顔がとてもチャーミングだった。
 シバレンは、わたしが編集者の端くれになってはじめて担当した大作家である。週刊プレイボーイで人生相談の連載を1年半してくれた。たいがいの編集者は「先生、ありがとうございました」とその後、疎遠になってしまうものだが、わたしはシバレンを親炙してやまず、それからも毎週1度は先生の仕事場に通ったり、ゴルフに興じ合った。そして人生の大事なことをたくさん教わった。強力な人脈も紹介してもらった。じつは今東光大僧正は先生の紹介だった。不思議なことがある。シバレンと大僧正は3月24日生まれの同じ誕生日だった。その日になると、文藝春秋の怪物編集者、樋口進と4人でよく宴を持ったものである。その素敵な3人はすでにあの世に行ってしまった。人生は、大僧正がいうように、冥土までの暇つぶし、である。だから、淑女紳士諸君、素敵な暇つぶしをしようではないか。

シマジ ヨネダは54歳だろう。そろそろエイジングケアのことを考えないといけないよ。いまぎりぎりなところに差し掛かっている。

狭間 シマジさんのおっしゃるように、50歳になりますと皮膚の老化がどんどん進みます。

ヨネダ 老化というのはうるおいがなくなってカサカサ肌になることですか。ひぇーっ、いやだ、いやだよー。

シマジ この辺でSHISEIDO MENを知ってちょうどよかったんだよ。石けんだけで毎日顔を洗って何もつけないでいたら、10年もしないうちに、クリームで磨かない革靴みたいなゴワゴワの肌になっていたかもな。

ヨネダ わーっ、怖い、怖いよー。

立木 シマジ、ヨネダをあまり脅すんじゃないよ。

シマジ これくらいいわないと毎日は使わないものなんだ。先月のハギワラなんて,結婚したばかりの若い新妻にここでもらったSHISEIDO MENの全商品を没収されて「これはわたしが使います」ということになったらしい。

立木 ハギワラの嫁さんはゲイではないか。

シマジ 正真正銘の美人の若い女性だけど、こんな高い化粧品は持っていないということらしい。それにしても、狭間さん、女性が男性化粧品を使っても害はないんですか。

狭間 わたしも1度SHISEIDO MENのスキンエンパワリングクリームを試してその効果覿面に驚いたことがありました。

シマジ 下手な女性用の化粧品より高いし、効果はあるんだろうね。

ヨネダ いま箱に表示されている値段をみてビックリしました。

シマジ そうかな。シングルモルトはこの倍はするけど、1本1週間は保たないけどな。SHISEIDO MENなら最低3,4ヶ月は保っているよ。毎日使うとして、日割りにすれば安いもんさ。作家の伊集院静さんなんか、「これは安い。もっと高くすべきだ」といっていたよ。しかも目にみえて効果が覿面に出てくるんだよ。

ヨネダ スミマセン。高いといったことを撤回します。使わないで評価するのは、読まない本を評するみたいで愚かなことでした。

シマジ さすがは編集者だ。比喩が巧いな。ヨネダ、これから冥土に行くまで使ったほうがいいぞ。余ったら奥さんに棺桶に入れてもらえばいいさ。

立木 シマジ、おれたちはともかく、いくら何でもヨネダには棺桶は早いだろう。

ヨネダ そうです。シマジさん、ぼく、まだまだ働きたいんです。殺さないでくださいよー。

シマジ ヨネダ、おまえはそんなに死ぬのが怖いのか。

ヨネダ 怖い、怖いよー。

シマジ おれはいま生きている奴らより、冥土のほうが素敵な人たちに会えると思うと、別に死出の山に行くのも、三途の川を渡るのも、そんなに怖いと感じないね。またシバレンさんや今東光大僧正や開高健さんに会えるなと考えると、むしろワクワクしてくるね。

立木 シマジ、おまえは大きな勘違いをしているぞ。

シマジ タッチャン、名調子がはじまったばっかりなのに、腰を折らないでくださいよ。

立木 考えてみろ。あの先生たちのようにシマジが天国に行けるとはおれは決して思えない。

シマジ 地獄に行くのもこれまた面白いかもね。世紀の悪党たちと飲み交わすのも一興じゃないの。人間としては天国にいる奴らよりごっつくて面白い奴がいるかもしれない。

立木 シマジはドクロの指輪したからって、勝手なことをほざいているが、地獄はつらいものらしいぜ。

シマジ だれかに聞いたの。

立木 地獄には3室あるそうだ。1つはいわゆる有名な煉獄だな。生かさず殺さずといった具合のところで、火あぶりになるんだぜ。シマジ、おまえ、暑がりだから耐えられるか。

シマジ ちょっと待った。どうしてすでに死者になったのに、生かさず殺さずなんだ。

立木 せっかく面白い話をしているのに、おれの大切な腰を折るんじゃない。

シマジ NHKのヒゲおやじみたいな無粋なことをいって悪うござんした。どうぞ、続けてください。

狭間 面白くなってきましたわ。上の階にいらっしゃる国際マーケティング部の丸山部長も呼ぼうかしら。あっ、そうだわ。いま部長は海外出張でした。

シマジ 残念だね。おれもかれには会いたかった。

立木 シマジ、おれの話、どこまで行ったっけ。

シマジ 地獄には3室あっていま煉獄のことを話していたね。

ヨネダ はい、そうです。

立木 2つ目の部屋は針の山で地獄に墜ちた者は痛い痛いとうんうん唸っているんだ。最後の部屋は、プールサイドに腰掛けてタバコをみんなで吹かしている。さあ、シマジなら3つのうちどの部屋を選ぶか。

シマジ そんなに簡単に選べるの。ありがたい!当然、おれはプールの部屋を選ぶね。おれは水泳が大好きなんだ。サラリーマン時代は家と会社の間に1000メートルの川が流れているんだ、と思い込んで毎朝、1000メートルをスポーツクラブで泳いでから出勤したものだよ。

立木 そういう奴をサラリーマンっていうのかな。まあ、いいや。シマジが選んでプールの部屋に入って行くと、ちょうどスピーカから甲高い声が聞こえてきた。「諸君、休憩時間が終わった。全員プールのなかに入れ!」

シマジ いいじゃないか。何千メートルでも何万メートルでも閻魔さまにいわれる通りにおれは泳いでやるさ。

立木 ところがそのプールのなかには、おびただしいウンチが浮いていたんだ。

シマジ げぇ!勘弁してくれ。タッチャン、わかった。もう悪いことはいたしません。お許しください。

立木 シマジはもう遅い。天国に戻れる賞味期限がとっくに切れているぞ。

シマジ そうだ。開高さんに聞いた地獄のジョークを思い出した。

立木 シマジ、ここは資生堂本社の応接室だ。Hなのは禁物だぞ。

シマジ わかっていますよ。だから今日はネクタイをつけてきたではありませんか。

立木 ヨネダはちゃんとネクタイをしているが、シマジは・・・。これか。これはオモチャみたいな小さなネクタイだね。

狭間 とっても可愛いですわ。

立木 どこで売っていたの?

シマジ 伊勢丹メンズ館8階のサロン・ド・シマジで売っています。これはビンズっていうものです。ほかにチョウタイもあるし、今日の狭間さんのシルクの黒いワンピースにつける小さなバラの花のビンズもありますよ。

狭間 この間、見に行ったときありましたか。

シマジ これは最近入荷してきた新しいアイテムです。狭間さん、またの御来店をお待ちしております。

ヨネダ アッハハハ。シマジさんはジョーカーとしても、食べていけますね。

シマジ どうかな。おれはドモリだからハンディがあるからね。

立木 何いってるんだ。ドモリを逆手にとって、武器として使っているのはどこのどいつだ!

シマジ おれが開高さんに聞いた地獄のジョークの話は、どこまで話しましたっけ。

立木 まだとば口だ。玄関にも足を踏み入れていない。

シマジ 開高さんが、「シマジ君、最悪の地獄の部屋は何か知ってるか」「いや、浅学非才が故、存じ上げません」「知りたいか」「知りたいです」「セニョール、それはな、男が死んだら、先に死んだ先妻が部屋で待っていたんや。また、死んで暫くしたら、『あなた、お待たせ』って、長年連れ添った古女房がきてしもうたんや」

立木 さすが開高さんだけあって含蓄に富んだジョークやな。

シマジ タッチャン、何も文豪の真似をしなくてもいいよ。

狭間 わたくし、この際、思い切ってお訊きします。シマジさんの奥さまってどういうお方なんですか。

シマジ ただの人間です。

立木 ただの女といわないところがシマジらしくていいね。

ヨネダ それはぼくもいつもシマジさんの仕事場に行くたびに、痛感しています。たしかにお部屋はいつもチキンと片づいているし、シマジさんに奥さんがいることは間違いないんですよ。

狭間 わたしがシマジさんの作品を読んだ限り、”こんなこと”をすべて許していらっしゃるシマジさんの奥さまって、素敵な方だ、と勝手に想像しているんです。

シマジ うちの古女房はおれの書いたものは、一行も読んだことがないんだよ。だから、だから、おれは何でも正直に吐露していられるんだ。

立木 シマジは現世ではまさに天国のような生活をしているけど、死んだら必ず地獄に行かないと、おれたちは間尺が合わないよな。一体全体、民主主義はどこに行ったんだ!

ヨネダ 立木先生、ぼくもそう思います!!

シマジ おれは人生で民主主義を追いかけたことは1度もない。人生はえこひいきの上に成り立っているとおれは思うんだ。上質なえこひいきこそ、人生の醍醐味を味わえるんじゃないの。低俗なえこひいきは一種の犯罪だが、素敵なえこひいきは、美しき共犯者を誕生させるんだよ。ねぇ、タッチャン。

立木 シマジ、今日は調子に乗って人生の真実をいいすぎじゃないか。

シマジ ゴメン、あとは慎みます。

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