Back to Top

第11回 文藝春秋 文春文庫編集部統括次長 菊地光一郎氏 第3章 肌測定は男の勲章である。

<店主前曰>

伊勢丹新宿店メンズ館8階のサロン・ド・シマジでSHISEIDOの肌チェックを受けて、輝けるBランクを獲得し、悦に入っているモリマサ・タカシとシラカワ・カズヨシに告ぐ。
先週の土曜日のことだ。水戸から痩身の1人の青年がひょっこりやってきて、カウンターの前でいった。「シマジ先生、ぼくは先生の熱狂的なファンです。いやシマジ教の熱烈な信奉者です。先生の単行本はもちろんのこと、連載もすべて読んでいます。とくにわたしは30代になってから、肌があれてきましたので、「トリートメント&グルーミング アット シマジサロン」の連載の教えの通り、SHISEIDO MENのシリーズを全部買って、毎日ぬって早10ヶ月になります。本日どうしても伊勢丹のSHISEIDOで肌チェックをしてみたいので水戸から上京して参りました。でも1人で女性ばかりいるSHISEIDOの売り場へ行くのは、ちょっと恥ずかしいのです。できたら、シマジガールズのどなたか同行していただけないでしょうか」
そこでたまたま隣でグラスを洗っていたイシイに頼んで、その男を本館の1階まで案内させた。結果は驚くべきことにBであった。それもシラカワのようにVサインではしゃぐこともなく、当たり前という顔をして静かに帰ってきた。しかもモリマサのようにちゃんと携帯に記録してきたのである。これでここサロン・ド・シマジには、めでたくB男が3人も出現したことになる。この水戸の道場破りの名前をソノベ・ユウタという。
道場破りは一杯だけ名物のスパイシー・ハイボール飲んで、風のごとく消えた。ただ一言、不気味な言葉を残したのである。
「シマジ先生、もしぼくがAランクを獲得したら、福原名誉会長とお食事をする権利はあるんでしょうか」
虚を突かれたわたしは「当然、あるでしょう」といってしまったのである。ぐぁんばれ!モリマサ、ぐぁんばれ!シラカワ。

シマジ そういえばキクチはゴルフはやるの。

キクチ 作家のコンペがあるときに、駆り出されるくらいです。

シマジ 伊集院静とはやったことあるの。

キクチ 同じ組で回ったことはまだありません。まあレベルがちがいすぎて、ご迷惑をかけてしまうので遠慮しています。

シマジ じゃあ、120以上は叩くんだな。

キクチ よくご存じですね。そうです。いままでで最高のスコアがちょうど120でした。

シマジ 伊集院は文壇きっての名ゴルファーだからなあ。力強くてしかも美しいボールを打つ男だよ。しかも最近ドライバーで400ヤードも飛ばす若いプロについて習っているそうだね。

キクチ 20ヤードは伸びたと伊集院先生はこの間おっしゃっていました。

シマジ すげえ。彼は、まあ、立教の正規の野球部出身だからね。下地がわれわれと全然ちがうんだろう。

キクチ 立木先生はゴルフが巧そうですね。

立木 顔が黒いのと声が大きいのは生まれつきなの。ほっといてくれる。おれはプロゴルファーを沢山撮ったけど、おれ自身ゴルフはしないんだ。いつだったか、沖縄の青木功プロの合宿にシマジと行ったとき、アオちゃんと一緒回るシマジのボールに殺されそうになったことがあったな。

シマジ そうそう。その日は予定の撮影が早く終わって、アオちゃんが「シマちゃん、一緒にハーフを回ろうか」といわれたんで、喜び勇んでティーショットを打った瞬間だった。タッチャンがアシスタントを連れて右の道をこちらに歩いてきたんだ。そのときおれの打ったボールは当たり損ないで、トップしながら右のほうにスライスして飛んで行って、危うくタッチャンの頭に当たりそうになったことがあったっけ。そのときタッチャンは「シマジ、おまえは本気でおれを殺す気か!」と叫んでいた。すると青木プロは「大丈夫、タッチャン。シマちゃんのへなちょこボールが当たったとしても、死にはしないよ。アッハハハ」だってさ。

立木 そのころのシマジのボールは飛んで行くとメーカーの名前がみえたくらいだ。

キクチ よくシマジさんはそんな腕で青木プロと回りますね。

立木 そこがシマジの愛すべきあつかましさというべきだろう。

シマジ でもそれから何度もアオちゃんとは回ったよ。アオちゃんの単行本は3,4冊作ったかな。

立木 そのたびにおれが駆り出されるんだぜ。わかるか、キクチ。

高橋 あっ、そうそう。冬のゴルフにはSHISEIDO MENのリップトリートメントをお使いください。唇を乾燥から守ります。

立木 シマジは1月から3月までゴルフをしないから、必要ないんじゃないの。

シマジ ゴルフでなくても、いつでもどこでもおれは使っているんだけど。

高橋 だからシマジさんはお肌も唇もしっとりなさっているのですね。いいんです。一年中お使いになってください。

シマジ そういえばPLAYBOYがまだあったころ、伊集院に頼んでおれとのSHISEIDO MENの対談に出てもらったことがあったなあ。

キクチ 伊集院さん、よく出てくれましたね。

シマジ 本人もいっていたなあ。おれは一企業の宣伝の対談には出たことがないんだ。シマジが頼むというから、渋々出てきたんだぞって。どうしてそうなったかというと、当時の資生堂のSHISEIDO MENの担当者が大の伊集院ファンだったんだ。しかも大学も立教だった。おれが酒を飲みながら打ち合わせのとき、おれの相手はどんな人でも希望を叶えて上げようと、大見得を切ったんだ。彼に誰にするかっていたら、「伊集院静さんが絶対いいです」というんだよ。仕方がないから、伊集院に頼んだら「わかった。こういうことは1回限りだぞ。その代わり東京よみうりCCでゴルフさせろ」ってことになったんだ。どんより曇って風の強い日だった。酒の臭いをプンプンさせながら伊集院が現れた。さすがだと思ったのは、アウト9番のティーグランドから伊集院のボールはアゲインストの風に負けず、姿形もいい放物線を描いて、アップヒルの稜線の先に消えていった。ここまで飛ばすアマチュアはまずいない。なかなか稜線から消えないんだよ。セカンドが凄かった。3アイアンで打ったんだが、ほとんどグリーンの脇に落下していた。おれはいままでいろんな人とそこでプレイしたけど、パーオンしたアマチュアはみたことがない。しかもアゲインストだよ。ちょうど6年くらいの前の話だけど。その夜、広尾のバー、パナセで対談したんだ。でも伊集院には前もってSHISEIDO MENを送って1ヶ月間くらい使ってもらってから話を訊いたんだが、「これは安い。安すぎる」といっていたのが印象的だった。

キクチ それはシマジさんが伊集院さんにいわせたんじゃないですか。

シマジ いや、本人の正真正銘のコメントだよ。まあキクチもこれから毎日使ってみて、EからCくらいになったら、これは安いと思うんじゃないか。肌がカサカサすると心もカサカサするものだよ。

キクチ それは巧いコピーですね。

高橋 それにしても新宿伊勢丹のサロン・ド・シマジはいまお肌チェックで加熱していますわね。

シマジ そうなんですよ。Bランクが3人も出ましたからね。そのうちきっとAが誕生しますよ。ご褒美に福原名誉会長と食事する賞をわたしが勝手に考えているんですが、そうだ、高橋さんからもこの企画はSHISEDO MENの売り上げに貢献することですし、福原さんによろしくお伝えください。

高橋 あんな雲の上の方はわたくしは存じ上げません。第一、ビルもちがいます。シマジさんから直接お話しなさってくださいませんか。

シマジ じゃあ、今度食事したとき、忘れずにいっておかなくちゃ。

キクチ 男の肌チェックを考え出したのはシマジさんですか。

シマジ そうだね。編集者は深夜まで働いているから、どうせ寝不足だろう。多分全員Fかなと思っていたんだよ。そうしたら最低がEだったんだ。もちろんDも何人かいたよ。

キクチ 光文社のハギワラさんはCでしたね。

シマジ うん、そうだったね。あいつはあんまり仕事をしていないんじゃないか。

キクチ でもさすがは立木先生だとつくづく思いますが、みんな実物以上にイケメンに写っていましたね。

立木 そうなんだ。おれは最近素人さんの写真が巧くなってきたんだよ。

シマジ それは徳島の実家の立木写真館の血が脈々と受け継がれているからじゃないの。

立木 でも、シマジのお抱えカメラマンはもういやなの。

シマジ タッチャン、ゴメン。4月からもこのシリーズは続くんだよ。

立木 でも、もうおまえの担当編集者はいないだろう。

シマジ そうなんだ。ネタが尽きたと思っていたら、SHISEIDO MENの売り上げにかなりおれたちは貢献しているらしく、資生堂が離してくれないんだ。

立木 じゃあ、第2弾シリーズは誰がシマジの相手なんだ。

シマジ おれも再び編集者になって、アイデアを考えたんだ。すると寝ていたら深夜、闇のなかで閃いたんだ。

立木 何を、またヘンなアイデアじゃないだろうね。

シマジ まさにこれは久しぶりのシマジ・セレンディピティーだね。

立木 何なんだよ。早くいえよ。

シマジ それはおれと親しいイケメンシェフとイケメンバーマンとの対談なんだ。

立木 なるほど。それは面白いかも。編集者との仲間内の話よりはるかに一般性があるわな。それに読んだ読者の情報にもなるだろう。それはシェフやバーマンの店でやるんだろう。

シマジ もちろん。開店前の店でやりますよ。もう、タッチャン、狭いなんていわせないからね。これに料理やカクテルはカラーでないとダメだろうね。

立木 写真のことはおれに任せろ。匂いの出る写真を撮るかもしれないぞ。もちろん資生堂のBCもくるんだろうね。

シマジ 当然だよ。男ばかりだと殺伐としていけない。

立木 でも、あと1人編集者を撮るんだな。

シマジ そう、講談社のハラダだ。おれの処女作『甘い生活』を編集してくれた男だ。その男はトリを飾ることになる。

キクチ 第2弾の『知る悲しみ』も担当した方ですよね。

シマジ そうだよ。いまハラダは3月28日発売予定の『アカの他人の七光り』を編集中なんだ。

キクチ ハラダさんは部長ですよね。普通、部長はあまり原稿をいじったり、直接編集したりしませんが・・・。

立木 そいつはよっぽどシマジに騙されて、騙されることが気持ちよくなってしまった変態男じゃないのか。

シマジ ハラダはどうしてもおれのエッセイ集の編集を若い部下に渡したくないらしい。

立木 シマジ、まったくおまえというヤツは、おれがいるのに、まさかハラダとデキているわけじゃないだろうな。

シマジ もちろんですよ、タッチャン。来月、ハラダがきますから直接話してみてください。

高橋 とっても可笑しいお話しですわね。わたしにはよくわかりませんけど。

シマジ 高橋さんのような一流企業の淑女には、こんな話はわからなくてもいいんです。

キクチ ぼくも可笑しいけど、立木先生とシマジさんの関係はじつに面白いですね。

立木 いや、キクチ、誤解しないでよ。おれは全然面白くないね。

シマジ とにかくおれは親の七光りじゃなく、アカの他人の七光りでここまできたんだよ。とくにタッチャンの七光りも大きいんだ。

<次回3月1日更新>

PageTop

Copyright 2013 Shiseido Co., Ltd. All Rights Reserved. Shiseido Men Special Project

このサイトについて

過去の掲載

Sound