第3回 元麻布 「ミ・カフェート」代表 川島良彰氏 第3章 川島のアゴは塞翁の馬であった。

<店主前曰>

伊勢丹のサロン・ド・シマジではシングルモルトは一杯800円から1,000円の範囲で売っているが、ジャマイカの海抜1,500メートルのブルーマウンテンから送られてくる川島良彰のブルーマウンテン・グランクリュは、一杯2,000円で売っている。でもこの味を知るとまさに“知る悲しみ”を体験する。これをホットコーヒーとアイスコーヒーの2種類で売り出している。日本でいちばん高くていちばん美味いコーヒーを川島は作り続けている。そして彼は、美味しいコーヒーを探し求めて世界中を飛び回っている。まさに川島は正真正銘のコーヒーハンターである。

シマジ ホセのいままでの半生記『私はコーヒーで世界を変えることにした』<ポプラ社>は、面白くて、まるで映画をみているような錯覚に襲われるね。

原田 そうですよね。機関銃に撃たれたり、大地震を体験したり、マラリアにかかったりですからね。それでもヘコタレないのは強靱な生命力が川島さんにあるのだと思いました。

川島 ありがとうございます。ハラダさん、川島じゃなくホセっていって。

シマジ ホセは強運な星のもとに生まれているだろうね。内乱のエルサルバドルから脱出して、そのあとロスでタコスを焼いて生活をしていたら、UCCの先代の上島社長自ら訪ねてきて、ジャマイカでコーヒーを作ってくれと頼まれたのも強運の証しだね。

川島 先代の上島社長、そしていまの社長には本当にお世話になりました。

シマジ 本人が現地にとけこむ努力をし、命がけでコーヒーを作ったからこそ、いまの川島良彰があるのでしょう。でもあの本を読んで、声を出して腹から笑ったのは、何といってもアゴがはずれた“事件”ですね。いまでもよくはずれるんですか。

川島 あれから堅いものを出来るだけたべるようにして、アゴのまわりの筋肉を鍛えてからは、お陰さまではずれなくなりました。

立木 アゴがはずれる?ぜひ写真に撮りたいね。

川島 いまは無理ですよ。

シマジ ではわたしが説明しましょう。グアテマラでマグニチュード7.5の大地震に遭遇したホセは、現地に残り、若者たちのボランティア・チームに参加して、テントに泊まりながら、懸命な救助活動をしたんです。そのとき高熱が出たのですが、病院で診てもらうことも出来ず、何とか頑張ったが、ついにエルサルバドルへ帰ることを思い立った。帰ってはみたものの、意識朦朧として一日中ベッドに寝ていた。必ず1日に2度、42度を超える高熱が襲い、体中が痛む。背中が痛くて仰向けに寝ていることが出来なくなった。仕方がないので枕に顔を沈めてうつぶせになって寝るしかなかった。その状態で大きくアクビをした瞬間、何が起こったのかわからなかった。枕の端に下アゴが引っかかった違和感。そして突然の激痛。急いで鏡をみた。ううっ?アゴがはずれた!驚きと恐怖。痛みに堪えながら手でアゴを押さえて、ホストファミリーがいる居間に飛んで行った。みんなホセをみて固まった。「ディオス・ミーオー!<神様!>一体何が起こったの!」「何が起こったのか自分でもわからないよ。<アゴがはずれているのでそう目で訴えた>」直ちに病院へ救急搬送。手でアゴを押さえながら医者と向かい合った。その若い医者は途方にくれたようにつぶやいた。「いままではずれたアゴをはめたことがない」「えっ、そんな。誰か何とかしてくれよ」と、ホセはこころのなかで叫んだ。「とにかくはめてみましょう」と医者は平静を装いながらいった。ナースがホセの頭を押さえながら、医者は思いっきり力を入れてアゴを押しあげた。グワッ!と鈍い音がしたと同時にホセのアゴは元の場所におさまった。ところがホセのアゴを押さえていた医者がいった。「君は凄い熱ではないか。よくこんな状態で生きていましたね」その異常な高熱は単なる風邪ではなかった。ホセは地震で衛生環境が最悪の状態だったグアテマラで、マラリアに罹っていた。もしアゴがはずれなかったら、病院に行かなかった。まさに九死に一生を得た。人間万事塞翁が馬だった。一度アゴがはずれると癖になるらしい。ある日ホセはずっと気になっていた女の子とデートしてハイウエイをルンルン気分でかっ飛ばしていた。再び悲劇に襲われた。まず最初に鼻がムズムズしてきた。「ハークション!」とくしゃみをした途端、またアゴがはずれた。路肩にクルマを止めてバックミラーをみながら、両手で思いっきり押しあげた。グアッ!鈍い音とともにアゴが元通りにはまった。自力でアゴをはじめてはめた快感に酔いしれていたら、隣の彼女が涙ぐんでいった。「あたし、もう、お家に帰りたい!」その彼女は2度とデートの誘いに応じてくれなかった。

立木 悪いけど笑っていい?面白い!アッハハハハ。

シマジ まだ後日談があるんですよ。ホセは毎週土曜日ボランティアで日本人補習校で小学生に教えていた。子供たちが無駄話をしていて騒がしいから、「こら!静かにしなさい」といったとき、再び鼻がムズムズしてきてクシャミをした。いやな予感がした。これで3度目だった。またアゴがはずれてしまった。みていた生徒はビックリ仰天。でも3度目にもなると、慣れたものでトイレに行って鏡をみながらはめることができた。教室に戻るといまにも泣き出しそうな女の子もいた。ホセ先生は生徒に告げた。「先生は大丈夫だから、このことはお母さんに絶対にいわないように」そう釘をさしたにもかかわらず、ホセの“特技”が評判になり、「先生はアゴをはずしたりはめたり出来る特技をお持ちのようですが、今度の日本人会の新年会でぜひその余興をやっていただけませんか」と頼まれた。アゴがはずれるたびにホセは生きた心地がしないというのに。

立木 凄い話だね。でももし簡単に出来るなら立派な芸だよね。

川島 勘弁してください。

立木 おれもシマジも芸に関しては能なしだが、何か特技って必要だよね。

シマジ 唄え、唄えといわれて1回だけ凌げる技を知っていますか。

立木 シマジ、それは何だ。お前はカラオケ大嫌い人間だものな。

シマジ タッチャンだってそうじゃないの。この芸は、シバレン先生の御供で赤坂の座敷に行ったとき、芸者に教わったものですよ。だからお金がかかっているんです。

立木 どうせ、シマジが払ったわけではないだろう。

シマジ もちろんそうですが。じゃあまだお酒を飲んでいませんが、ここでひとつやってみますか。ではみなさん、歯医者の歌を唄います。ではここで合いの手をお願いします。パッ、パッ、パッ、しばらくして、歯、どうした?歯、どうした?歯、どうした?お粗末でした。

立木 面白いけど、それって芸かな。

シマジ でもこれで会場は大爆笑の渦に巻き込まれたんですよ。

川島 それははじめて聴いたら驚きますよ。

原田 今度の会社の忘年会にやってみていいですか!

シマジ ハラダさん、それはやめたほうがいいですよ。

原田 どうしてですか。

シマジ だってこの連載は会社中でみているらしいじゃないですか。もしハラダさんがやったら、合いの手を一つ、といった段階で「歯、どうした?歯、どうした?」とかけ声がかかりますよ。

原田 なるほどね。ぼくの読みが甘かったです。

立木 でもカラオケでよくシロウトのくせに玄人顔負けの上手いのがいるが、あれも嫌みの一つだね。

シマジ むしろ徹底的オンチのほうが様になるよね。おれの知ってるやつではじめて聴いたときは、凄いオンチだったんでみんなで大爆笑したんだ。するとしばらくして同じ男が見事に歌いあげたではないか。本当にすべてオンチで唄うのは難しいらしい。上手いやつだからわざとはずして唄えるそうだ。

原田 今日は愉しいお話ありがとうございました。ためになりました。

立木 シマジ、お前のヘアスタイルは決まりすぎだ。

シマジ どうしてまた急におれのヘアスタイルなんだ。

立木 せっかくこうして一流のヘア&メーキャップアーティストにきてもらっているんだから、シマジのヘアを考えてもらったらいいと思うんだが。

原田 いまのヘアスタイルを変えないでカツラでヘアアレンジを愉しむ手もありますよ。

立木 それは面白い。シマジがバッハみたいなカツラをかぶったらどうなるんだろう。

川島 それはぜひみてみたいですね。

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資生堂ビューティトップスペシャリスト 

原田 忠

ニューヨーク・パリにおけるファッションショーではヘアメークチーフとして活躍するほか、作品の発表にも注力している。

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今回登場したお店

ミ カフェート 元麻布本店
東京都港区元麻布3-1-35 c-MA3 1F
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