第11回 西麻布コントワール ミサゴ オーナーシェフ 土切祥正氏 第1章 ヒグマはなぜか左モモが格別に美味しい。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

まるで自分の家のキッチンのように何でもいうことを聞いてくれるレストランをわたしは10軒くらい持っているが、西麻布の日赤通りにある「コントワール ミサゴ」もその一軒である。ある日、わたしが一人でカウンターに座り、土切シェフを相手に料理のことを大きな声でしゃべっていると、少し離れたカウンターの隅に座っているカップルの女性が小さな声で彼氏に訊いた。
「あの方はこの店のオーナーじゃないかしら」
「うん、そうかもねえ」
 すると土切がニッコリしながら振り返り「そうでございます」と応えたのである。仕方なくわたしは立ち上がり「毎度ありがとうございます」と丁寧にお辞儀するはめになった。土切シェフはなかなかの冗談好きなのである。
 一方、今回資生堂からのこられた鈴木わかさんはわたしと旧知の仲である。わたしがはじめて集英社の取締役になって広告部に赴任したとき、鈴木さんは資生堂の広報部にいらして集英社担当であった。彼女の上司には小松原さんや役員の鈴木奎三郎さんがいらして、当時大変お世話になったものだ。久しぶりに鈴木さんに会って懐かしい時代が思い出された。

シマジ 鈴木さん、久しぶりですね。もうあれから20年は経ちますよね。

鈴木 はい、そうです。あのときは大変お世話になりました。

シマジ いやいや、こちらこそ。資生堂さんには何といってもナンバーワンの広告費を出していただきましたからね。

鈴木 うちは雑誌が好きな会社なのです。

シマジ あっ、そうそう。こちらは立木義浩先生です。

立木 よろしく。

鈴木 よろしくお願いいたします。

シマジ こちらが土切オーナーシェフです。

土切 よろしくお願いします。シマジさん専属のシェフもやっている土切です。

鈴木 こちらこそ今日は愉しみに参りました。わたしは食べることが大好きな人間なのです。

立木 シェフ、ここのボードに「当店はサービス料はいただきません」と書いてあるけど、シマジがきたら特別サービス料を取るべきじゃないか。

シマジ タッチャン、ウブな土切にあまり入れ知恵しないでくれる?

土切 シマジさんにはうちの店は日ごろからお世話になっていますから、そのようなことは出来ません。

鈴木 それではまず土切シェフのお肌測定から参りましょうか。

シマジ 土切、料理の腕を振るう前にあそこに座って肌測定を受けてくれるか?

土切 はい、はい。

立木 シマジ、毎度のことだからもうこのカットはいらないだろう。

シマジ そうだね。

鈴木 シェフの判定が出ました。Eでした。

土切 Eはいいんですか。

シマジ 土切は面白いことをいうね。Eはまあ普通だね。シェフは昼も夜も働いているから過労が肌に出ているかもしれないね。

鈴木 でも限りなくDに近いEですよ。お肌の潤いも十分あります。

シマジ 土切シェフは野鴨やイノシシやヒグマを調理しているから肌がツヤツヤしているでしょう。だから判定はいいとこいくかと密かに期待していたんだけど、そうでもなかったか。

土切 申し訳ありません。わたしの不徳の致すところです。

立木 シェフ、何もそんなことで謝らなくたっていいんだよ。

シマジ 大丈夫、今日いただくSHISEIDO MENを毎日つければ簡単にDになれるさ。何たってヒグマの脂との相乗効果があるはずだよ。

鈴木 ヒグマってあの北海道のヒグマですよね。どうやって召し上がるのですか?

シマジ 残念ながら本日は入荷していませんが、たまに入ってくるんです。すると土切はわたしに電話を入れることになっています。そこでわたしは左モモのところを5キロくらい押さえておいてくれと返事をするわけです。

立木 シマジ、まさかお前はミサゴのオーナーじゃないよな。

シマジ おれは単なる一介の客にすぎないよ。

鈴木 どうして左モモなんですか?

シマジ いままで10頭くらい食べた結果、なぜか左モモが格別に美味しいことが判明したんです。一説にはヒグマは左モモを下にして冬眠するらしいです。

鈴木 どういうお料理で召し上がるんですか?

土切 ステーキにします。

鈴木 えっ、ヒグマのステーキですか。想像もつきません。

シマジ ヒグマのステーキは赤身より脂身のほうが断然美味しいんですよ。なぜならヒグマは冬眠する前に沢山のドングリやクリやクルミやスモモを食べるんです。だから植物性の脂なんです。食べるとスモモやクリの香りがほんのりします。いかにも野生の動物といった臭味などまったくないんです。ホントに上品な脂身なんですよ。それからステーキの姿形は脂身のほうが赤身よりサイズが大きいんです。脂身と比べると赤身は凡庸な味ですね。

鈴木 食べてみたいですね。いつがシーズンなんですか?

立木 鈴木さんはなかなかのチャレンジャーですね。

鈴木 わたしは主人の転勤でパリで5年間暮らしましたから、ジビエはかなり食べました。

シマジ そうか。はじめて鈴木さんに会ってからもう20年の歳月が流れたんだ。

鈴木 本来なら昨年で勤続20年を迎えているのですが、産休を2度も取得しましたので実働は15年弱になりますか。

立木 資生堂は懐の深い会社なんだね。

シマジ それは女性客を相手にしている企業だから、女性社員にやさしい会社の模範にならなければいけないんじゃないの。

鈴木 そうです。わが社は日本の企業のなかで、結婚後も女性が働き続けていける諸制度が整備されているトップクラスの会社です。わたしが利用した「育児休業制度」は一子につき最長3年間取得出来るんです。さらに続けて第2子を出産する場合は、最長5年間取得出来るのです。そしてさらに2009年4月から施行された「配偶者帯同制度」は夫が転勤になった場合、国内国外を問わず、最長3年間まで休職出来て夫の勤務先に帯同出来るようになったのです。

シマジ さすが資生堂ですね。女性社員を大事にしていますね。

鈴木 そうなんです。恵まれている分働いて恩返ししたいと考えております。たまたま同じ資生堂の国際事業部企画部で働いている夫が2008年6月からパリ勤務を命じられたとき、すでに同年2月にわたしは第2子を出産しておりましたので、育児休暇をパリで過ごすことになったのです。

シマジ 鈴木さんは強運の人ですね。

鈴木 お陰さまで、夫、満4歳の息子、生後6ヶ月の娘とともにわたしは渡仏することになりました。忘れもしない8月下旬、東京は残暑がまだまだ厳しい時期に家族でパリに着きましたら、パリはもう秋の気配が漂っていて、薄手のセーターが恋しい季節だったのです。長いバカンスからパリに帰ってきたばかりの日焼けしたパリジャンやパリジェンヌが街に溢れていました。わたしたちの新生活のスタートにはふさわしい時期でした。

シマジ 土切シェフ、今日の資生堂からのお客さまはパリで舌を磨きあげてきた鈴木さんだよ。手強いぞ。

鈴木 ミサゴがジビエのお店だとネットで調べて興奮して参りました。

シマジ ほらみろ。舌が肥えたお客さまに何を出そうか。

立木 シマジ、またオーナーみたいなことをいう。シェフに任せればいいじゃないの。

土切 ここの料理はほとんどシマジさんのアドバイスが入っているんです。どうしましょうか。メインはやっぱり鴨でしょう。

シマジ 土切、奥さんの実家の鴨はもう入ってきたのか?

立木 何だって!奥さんの実家の鴨だって?

シマジ 土切の奥さんの実家は新潟で、田んぼに米を撒いてシベリアから飛んできた鴨を飼い慣らして油断させておき、網で一網打尽に捕獲した鴨をお父さんが娘の夫の店に送ってくるんだよ。

立木 まるで家内工業みたいなシステムなんだね。

鈴木 鴨はパリでよく食べました。懐かしいですわ。

シマジ ようし、土切、新潟の実家の鴨でパリの鴨と勝負してみるか。

土切 命がけで頑張ります。 

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今回登場したお店

コントワール ミサゴ
東京都港区西麻布4-17-22 アビターレ西麻布2F
>公式サイトはこちら (外部サイト)

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