第4回 六本木 格之進 千葉祐士氏 第1章  肉と会話する男。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

「格之進」の社長、千葉祐士(ますお)はこのSHISEIDO MENの取材のため、わざわざ一関からアビエントの松本一晃バーマンを引き連れてやってきてくれた。松本バーマンは生得的に上質な舌を持っているのを買われて、平日の昼間、「格之進」本店で手伝いをしている。
ここは六本木の格之進R。千葉が熟成肉を焼くときの真剣な表情を撮影していた巨匠立木義浩が思わず叫んだ。
「千葉、お前が肉を焼くときの顔はじつにド変態な顔をしているぞ。気に入った!」
「ありがとうございます。変態の大先生にド変態と言われて自分は光栄であります」
今日の資生堂からのゲストは風間薫さん。肩書きが凄い。「東日本デパート営業本部美容統括部長」ときた。今日は役者が揃った。面白くなる予感がする。

立木:おう、一関の“役所広司”、久しぶりだね。わざわざシマジのために来てくれたのか。

松本:はい、わたしはシマジカツヒコ公認バトラーですから、シマジさんに来いと言われればどこへでも伺います。今日はスパイシーハイボールを作りに参りました。

立木:じゃあ、あとでおれにも一杯作ってくれ。お前が作ればシマジより美味いに決まっているだろう。

松本:明日は伊勢丹のサロン・ド・シマジで昼から夕方までシェーカーを振ってから帰ります。

立木:シマジに「公認」とつけられると、みんな奴隷のごとく働かされるんだよな。

松本:わかっております。でもそれがなぜか気持ちがいいから不思議です。じつは明日、公認書生のカナイさんに会うのを愉しみにしているんです。

シマジ:カナイはいま就活で忙しいから、もしかすると明日は来られないかもしれないんだ。そのときはごめんな。

立木:お前の美人のカミサンは元気か。

松本:はい、その節は女房の写真をたくさん撮っていただきましてありがとうございました。全て家宝にしております。

風間:資生堂から参りました風間と申します。本日はよろしくお願いいたします。

シマジ:風間さん、今日は32ヶ月飼育して3ヶ月熟成させた処女牛を召し上がっていただきますよ。

千葉:しかもわたしが自ら焼いて差し上げますから、風間さんは強運の方ですね。

風間:光栄です。ちゃんとランチも抜いて参りました。

千葉:本日はTボーンとシンタマの中にあるカメノコという部位を焼かせていただきます。Tボーンは骨を真ん中にして大きな部分がサーロイン、小さなところがヒレなんです。だからTボーンはサーロインとヒレを同時に食べられるんです。では焼きはじめますね。風間さん、よーく見ていてください。骨のまわりから泡が出てきたでしょう。これが熟成肉の特徴です。

風間:美味しそうな匂いが立ち込めてきましたね。

立木:いつも千葉社長が自ら焼いてくれるわけではないんだろう。

千葉:はい、今日は取材ですから特別です。またときに金額によって、ときに美人の女性客によっては自分が焼きます。それは冗談ですけど。

立木:肉の焼き加減を見ている千葉の目つきはド変態の目だね。まるでシマジが女体をみる目つきに似ているじゃないの。目がイっちゃってるね。

千葉:ありがとうございます。ド変態と言われてじぶんは光栄です。そのドとは貴族の名前の間に入るDEでしょうか。

立木:ドスケベのドに決まっているじゃないの。

千葉:自分はこうして肉と対話しながら焼いているんです。すると肉に余計なストレスがかからないんですよ。

立木:おお、Tボーンを立たせたね。

千葉:こうすることによって肉のなかの水分を均等に対流させているんです。肉は正直なモノで、愛情を注ぐと味がめいっぱい高見に上がっていくんです。言ってみれば、愛情をかけて丁寧な仕事をすることによってTボーンの肉の価値を最大限に高めるわけですよ。

風間:見るからに美味しそうですね。

千葉:ではわたしがいちばん尊敬している立木先生にまず召し上がっていただきます。

立木:おれは撮影で忙しいんだ。まあいいか。松本、急いでスパイシーハイボールを作ってくれ。

松本:かしこまりました。

立木:うん、これは美味すぎる。スパイシーハイボールともよく合うね。だけど70歳以上の人間にはこれは危険かもな。美味すぎて死ぬね。

千葉:ありがとうございます。それでは次は風間さんにサーロインから召し上がっていただきます。

風間:美味しい!ほかになんて言えばいいんでしょうか。肉汁が肉のなかに籠もっていますね。

千葉:そうです、肉汁が外に逃げないように焼くのが秘訣なんです。これが黒毛和牛の醍醐味です。ではシマジさん。

立木:シマジはここでしょっちゅう食べているんだろう。

シマジ:東京でも一関でも食べていますが、いちばん感動したのは一関に行って千葉にご馳走になった熟成肉でしたね。あのときは正ちゃん(ベイシーのマスター、菅原正二)、「乗り移り人生相談」のミツハシ、松本バーマンの3人で最高の肉を堪能させていただきました。

千葉:あれは実験的に10キロの枝肉を1年間熟成させておいたんです。そのうち9キロはカビが生えて腐乱していましたが、真ん中の1キロがまだ肉として生きていてくれたんです。

シマジ:あんな舌の上でとろける肉ははじめて食べたね。正ちゃんがいみじくも言っていた。「これは80歳の処女の味だね」って。実際、正ちゃんの友人で80歳の女性と寝た変態男がいて、その男によれば、80歳の恋人をベッドに運んだときの軽さはまるで銀ギツネのショールを持った感じだったそうですよ。

立木:それは正ちゃんの友人ではなく正ちゃんの体験じゃないの。

シマジ:わたしにはよくわかりません。ミツハシなどは舌勃起してなぜかズボンを脱ごうとしていました。たとえ歯がなくても歯茎だけで噛み切れるほどの柔らかさでしたね。味も香りも上品でわたしはあれ以上の牛肉は食べたことはありませんね。

立木:シマジ、今度チャンスがあるときはおれの存在を忘れるなよ。おれも80歳の銀ギツネを抱いてみたくなってきた。おっと、まちがえた。食べたくなってきた。

シマジ:千葉、80歳の銀ギツネはどうにかならんかね。

千葉:わかりました。一関に帰ったら仕込みますか。でも1年後ですよ。では1年後同じメンバープラス立木先生ということでどうでしょう。

シマジ:了解。頼むよ、千葉社長。

風間:わたしはTボーンステーキはBSEの問題で販売禁止になっているとばかり思っていました。

千葉:さすがは統括部長、鋭いご指摘です。たしかにそうでしたが、約2年前にそれは解除になったんです。風間さん、今度はヒレのところを召し上がってください。

松本:風間さん、スパイシーハイボールをもう一杯いかがですか。

風間:はい、いただきます。うん、ヒレはサーロインとはまた別の美味しさがありますね。

千葉:では今度は同じ黒毛和牛の32ヶ月飼育で3ヶ月熟成の雌のシンタマのカメノコを焼きますね。

シマジ:雌でもタマを持っているんだね。

立木:シマジ、そういう下品なダジャレはよせ。

千葉:ここはモモの付け根のいちばんエロい部位なんです。

シマジ:32ヶ月飼育された処女牛のモモの付け根か。美味そうじゃないの。

立木:今日のシマジはどうも下品すぎていけない。

松本:立木先生、そこのところは、わたくしに免じてご主人さまをどうかお許しください。

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