第6回 白金高輪 酒肆ガランス 星野哲也氏第1章 あかね色に魅せられた拘りの男。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

星野哲也は白金の「ガランス」という知る人ぞ知るユニークなバーのオーナーバーマンである。「ガランス」の2軒目として、食事が出来る店「酒肆ガランス」を今年の1月に同じ白金にオープンさせた。星野はみんなから「ホシちゃん」と呼ばれて親しまれている。上背190センチは優にあり、100キロの巨漢であるのだが、腰が低くて人なつっこい。オーディオとカメラにはめっちゃウルサイという拘りの男でもある。
「酒肆ガランス」のオープンは、午後4時45分からで、深夜の12時がラストオーダーであるが、星野は毎晩10時ごろになると移動して、バー「ガランス」のカウンターに立っている。バーやレストラン経営の成功者には強運の人が多いものだが、彼らはおしなべて働き者である。星野もまさにそういう星の下に生まれてきたようだ。
バーにはなぜか有名人もよく来店する。星野の物知りなところ、口が堅いところなどに信頼がおかれ、チャーミングな人柄が可愛がられているのであろう。

立木:星野が新しく店を出したのはここか? なかなかいい店じゃないか。だけど2軒掛け持ちは大変だろう。

星野:立木先生、お久しぶりです。2つの店が近いから大丈夫です。10時ごろにはわたしはバーのほうに行っております。

シマジ:星野、こちらが資生堂からのゲスト、坂上香さんです。

坂上:坂上と申します。どうぞよろしくお願いします。

星野:星野です。こちらこそよろしくお願いします。坂上さんは今日のランチを抜いていらっしゃったとか。

坂上:はい。

星野:では急いで作りましょう。

立木:星野の作るツマミは美味いけど、まさかレストランをやるとは思わなかったよ。

星野:まあ、見よう見真似ですけど、以前従業員に南インド人のラメスという料理の達人がいましてね。彼から南インド料理の真髄を教わりました。

シマジ:そうやって料理の達人に真髄を教わることができたというのも星野哲也の強運なところだね。タッチャン、ここのカレーライスはイケますよ。あとで出るんだろう?

星野:はい。カレーも含めて今日は3種類の料理を用意しています。まず星野作「デトックス・サラダ」です。これはパクチー、大葉、クレソン、キュウリ等々、クセの強い野菜を盛り合わせました。坂上さん、どうぞ召し上がってください。

坂上:これ、わたし1人で食べていいんですか。

シマジ:資生堂2万人の社員を代表して召し上がってください。脇からわたしがちょこっとつまみますが――。

坂上:美味しいです。わたしは1年間アジアに派遣されて働いたことがありまして、それ以来こういうクセのある野菜が大好きなんです。このドレッシングの隠し味はなんですか?

星野:それは企業秘密です。

立木:3人揃ってレンズを見てくれる? うーん、表情が硬いな。シマジ、なにか言ってみんなを笑わせろ。

シマジ:それではご一緒に、「シマジー」

立木:バカバカしくていいが、おれを笑わせるな。

シマジ:このサラダはパクチーがクセになるよね。でも日本人では嫌いな人もいるだろうね。

星野:いまの若者にはパクチー好きが結構多いですよ。これが身体にいいんです。いわゆるデトックス効果を発揮してくれるんです。

シマジ:あれ、坂上さんは左利きなんですね。

坂上:そうなんです。字を書くのは子供のときに直されて右で書けますが、食べるのは左なんです。でも左利きは小さなストレスをいつも持っているそうですよ。

シマジ:そうですか。血液型は何型ですか。

坂上:A型です。

星野:日本人はA型が多いですが、インド人はB型が多いそうですよ。それでは次の料理は子羊のガランス式グリルです。いかがですか。

坂上:うん、美味しいです。じつはわたしは子羊がいままで苦手だったんですが、このスパイシーな子羊は食べられますね。

星野:この部位はショルダーで普通は堅いところなんですが、3日間ガラムマサラとクローブに漬け込むと、こんなに柔らかくなるんです。

シマジ:これも天才南インド人に教わったの。

星野:そうです。シチューにしてここまで柔らかくなるのは、やはりガラムマサラなどのスパイスの効果でしょう。ラメスのお母さんは南インドでは有名な料理研究家だそうです。だからラメスは子供のときから美味いものを食べていたらしいですよ。

シマジ:多分、そうとうカーストが上の種族なんだろうね。

星野:ラメスから、子羊にはガラムマサラはいいが、チキンには絶対使うなと教わりました。

シマジ:うん、たしかにこれは柔らかくて美味いね。

坂上:質問してもいいですか。

シマジ:どうぞ。

坂上:「ガランス」ってどういう意味ですか?

シマジ:それは星野から説明を聞いたほうがいいですね。

星野:「ガランス」というのは、濃い血の色みたいな、ボルドー系の色のことをいうんですが、日本語ではあかね色というんですかね。夭折した画家、村山槐多がよく使った色なんです。わたしはその色彩に以前から興味がありまして、バーをやるときは「ガランス」とつけようとずっと思っていたんです。

坂上:もう一つ質問してもいいですか。

星野:どうぞ。

坂上:あそこに書かれている字はなんて読むんでしょうか。

星野:あれは「しゅし」と呼びます。

シマジ:坂上さん、「肆」というのは古い漢字で「店」という意味です。だからむかしの人は「本屋」を「書肆」と書いたんです。星野が「酒肆」とつけたのは「酒店」という意味でつけたのでしょう。凝っているよね。

坂上:格好いい名前ですね。今度友達と来たら、いま伺ったことを自慢します。

シマジ:料理も自慢してくださいね。ここの子羊ならわたしも食べられるって。

星野:よろしくお願いします。今度の料理は、南インド式チキンカレーです。教えてくれたラメスが言うには、南インドのオフクロの味だそうです。さあどうぞ。

坂上:これはいろんなスパイスが入っているんですね。とくに夏にイケるカレーですね。

星野:ココナツパウダーをはじめ10種類のスパイスが入っています。

坂上:南インド料理が好きになりました。必ず近いうちに友達を連れてきます。

立木:ラメスって何者なんだ。料理人ではないんだろう。

星野:昼間はIT関係で働いていると言っていましたが――。

立木:星野、ラメスが来てくれてよかったね。

星野:ラメスは知り合いに紹介されてここでアルバイトとして働いていたんですが、まず皿洗いが早くて上手い。そればかりかすべての仕事が早い。しかもアイディアに富んでいて有能でした。

シマジ:どうして辞めたの。

星野:なんでも大きな一族の跡取りらしく、子供が生まれたから国に帰ると言っていましたね。

シマジ:ラメスは元々南インドの大金持ちの御曹司だったんだね。

星野:そうかもしれません。

立木:シマジはどうして星野を知ったんだ?

シマジ:ベイシーの正ちゃんに紹介してもらったんですよ。

立木:そうか。星野はベイシーの菅原正二を神さまのごとく敬愛してやまない関係だものな。今度、菅原が上京してきたらおれも呼んでくれる? 久しぶりに会いたくなった。

シマジ:もちろん、お安いご用です。

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今回登場したお店

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東京都港区白金5-5-10 2F
Tel: 03-6721-7588

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