第7回 赤坂 YOUR SONG 山田賢二氏・山崎八州夫氏 第1章 平成の「管鮑」の交わり。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

「人生でなによりも尊いものは友情である」これは伊勢丹メンズ館8階にあるバー、サロン・ド・シマジの格言コースターの1枚にもなっている言葉である。互いによく理解し合い、利害を超えた厚い信頼の上に成り立つ友情ほど尊いものはない。同様のことを、古くは「管鮑の交わり」とも言った。
今回紹介するバー「YOUR SONG」の共同経営者、山田賢二と山崎八州夫の2人の管鮑の交わりは、教科書に載ってもいいほどの見事なお手本である。はじめに知り合った場所は青山学院初等部であった。その後中等部に進んで同じクラスになり、野球部でも一緒になった2人は急速に接近して親友の仲になった。高等部ではますます濃密な仲になり、大学も2人揃って青山学院大学の経済学部に進学した。やがて社会人になった2人はようやく別々の途を歩み出した。山田は「アサヒビール」、山崎は「オリコ」に入社した。サラリーマン時代の2人は何度も単身赴任の生活を余儀なくされたが、それぞれの場所で夢中で働いた。
そして57歳のとき早期退職の道を選び、お互いの音楽好きが高じてグッドミュージックバー「YOUR SONG」を赤坂にオープンさせた。山田と山崎は定休日の日曜、祝日を除いては、また毎日会えるようになった。そして仲良く力を合わせて店の経営を行っている。これぞ平成の管鮑の交わりと言わずしてなんと言おうか。

シマジ:山田さんと山崎さんの関係は深くて長いですね。

山田:はい。親兄弟よりも、いや女房や子供よりも山崎との付き合いは古いですからね。

シマジ:そのうちギネスブックに載るんじゃないですか。

立木:それに2人とも揃っていい顔をしているよね。長い間いい感じにお互い切磋琢磨してきたんじゃないの。

山崎:ぼくは幼稚園から青学でした。初等部で山田の存在はわかっていましたが、親しくなったのは中等部に入ってからですね。

高口:はじめまして。資生堂の高口美佐子と申します。本日はよろしくお願い致します。

山田:資生堂はじつはぼくの憧れの会社だったんです。第一志望で勇んで受けたんですが、残念ながら落ちてしまいました。その後アサヒビールに入社したんです。

シマジ:資生堂に入るのはたしかに難しいようですね。わたしの知り合いのお嬢さんの話ですが、聖心女子大学の4年生で、どうしても資生堂に入りたいというので、福原義春名誉会長の推薦を受けて挑んだにもかかわらず、最終面接で落とされてしまいました。かなりの狭き門、という感じですね。高口さんはどうやって入社されたんですか。

高口:わたしの場合は九州久留米の資生堂の販売会社からのスタートなんですが、よろしければ是非、わたしの入社試験のエピソードを聞いてくださいませんか。

シマジ:どうぞどうぞ、長講一席拝聴いたします。

高口:まずは試験会場に向かうバスの中でのことでした。大学は一緒でしたがそのときはじめて会った別の科のコがわたしに話しかけてきたんです。でもそのコは「わたし、合格が決まっているの」と余裕の顔つきで言うんです。「えっ?何故?」とわたしが驚いて尋ねると「大きなコネがあるの」「コネって?」当時はそんな言葉もわたしは知りませんでした。すると「まあ、大型取引ってとこかしら」と説明するんです。わたしは絶望に打ちのめされながら30分間バスに揺られて行きました。そしてようやく試験会場に着き待合室に入ると、そこは目映いほどの美しい女性の集まりでした。それまで5%ばかりの小さな望みを持っていましたが、会場に入った瞬間わたしの望みは0%まで下がりました。受験者79名中12名採用というお話でしたが、会場を見渡して数えてみると、合格しそうな人がすでに12名以上いる感じがしました。でも、わたしの座右の銘は「七転び八起き」なんです。落ち込んでいても仕方がないので「次の会社の面接の予行演習と思ってやればいいんだ」と覚悟を決めて臨みました。学科テストは意外と簡単でしたが、面接になり、5人ずつ部屋に入りました。じつはその5名のなかにいまでも親友としてつきあっているコがいます。面接官にはまず、志望動機は?と訊かれました。わたしはもう、どうせ落ちるんだから明るくニコニコはきはきと本音で話そう、とこころに決めていましたから、こう切り出したのです。「母が資生堂の化粧品の愛用者で、わたしになにがなんでも資生堂に入りなさいといって、ほかの会社を受けさせてくれないんです」すると会場にドッと笑いが湧いたのです。

シマジ:そんな面白いことを当意即妙に面接試験の場で答えられたなんてたいしたものですね。

高口:いえ、いま考えてもあんな大胆な受験者はあまりいないだろうなあと恥ずかしくなります。

立木:お嬢は明るくて快活だからよかったんじゃないの。それだけ元気に答えられれば、おれだって採用したくなると思うよ。

高口:結果は合格でした。バスで会ったもう1人のコは落ちました。

シマジ:資生堂はやっぱり健全なんだね、大型取引のコネに惑わされなかったんだ。

高口:多分、他の人と違う個性をわたしにたまたま感じていただいたんでしょう。じつは来年1人娘が大学4年なので就活がはじまります。母親として心配していますが、面接官には自分の意志をはっきり伝えて欲しいと思っています。

シマジ:大丈夫でしょう。高口さんの遺伝子が入っているから、きっとどこでも入れますよ。

立木:お嬢は久留米出身か。久留米出身には有名人が多いよね。

高口:はい、わたしの同年代では松田聖子さんやチェッカーズがいます。上の世代では黒木瞳さん、陣内孝則さん、栗原小巻さん。下の世代では吉田羊さん、田中麗奈さん、妻夫木聡さんなど。また久留米大学附設高校があり、孫正義さん、堀江貴文さん、鳥越俊太郎さんの出身校としても有名です。

立木:久しぶりにお国自慢を聞かせてもらった。お嬢、ありがとう。

高口:もう一つ言わせていただきますと、久留米医大が有名ですね。

シマジ:世界一のタイヤメーカーもあるじゃない?

高口:ブリジストンですね。命名が面白いんですが、社長が石橋さんで、ストーンブリッジ。それを逆から読んで「ブリジストン」になったんです。今日はのっけから一気にお国自慢をさせていただきました。

シマジ:それはよかったですね。ところで山田さんと山崎さんはいつこの「YOUR SONG」をオープンしたんですか。

山田:昨年の4月17日になります。

シマジ:LPのレコードが沢山ありますが、何年前のものからあるんですか。

山崎:そうですね。60年代から80年代のロックやポップスを中心に、ジャンルにとらわれることなく揃えているつもりです。ぼく自身は中学1年生のときに深夜放送でゼーガー&エバンスの「西暦2525年」という曲にはまって以来、音楽好きが継続している感じですか。ゼーガー&エバンスは一発屋でしたが。

立木:店の名前の「YOUR SONG」はエルトン・ジョンの曲から取ったの?

山崎:そうです。

立木:懐かしいね。ダイアナ妃の葬儀のとき、エルトン・ジョンが歌っていたね。

山田:あれは元々マリリン・モンローに捧げた「キャンドル・イン・ザ・ウインド」という曲だったんですが、ダイアナ妃への追悼曲としてリメイクして、荘厳に歌っていましたね。

立木:エルトン・ジョンは若いころはあんなに太っていなかったのにね。

山崎:シマジさんの世代もエルトン・ジョンがお好きでしょう。

立木:シマジに音楽のことを訊いても無駄だよ。

山田:どうしてですか。

立木:こいつは広澤虎造の浪曲ばかり聴いて育った男なんだ。

山崎:虎造ですか。それはシブいですね。

シマジ:・・・・・。

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