第5回 銀座 マルディグラ 和知徹氏 第3章 和知シェフの一人旅はいつも手ぶら主義。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

わたしが常々思っていることだが、真の美食家は、気に入った店を見つけるとまずは頻繁に通い、その店の腕利きシェフと昵懇の仲になる。それはレストランでもバーでも同じである。常連以上にシェフやバーマンと深い関係を築き上げ、えこひいきされるようになれば、美食家の人生はまさにバラ色になる。これぞ美食家の醍醐味であろう。そういう店を何軒持っているかで、その美食家の格が決まるというものだ。

シマジ:和知シェフが旅先で訪ねた家庭で料理の腕前を披露するときは、自分の包丁を持参しているんですか。

和知:いえいえ、その家の包丁を借ります。すべての道具はその家にあるものを借りますし、食材もすべて現地調達です。

シマジ:なるほど。やはり「弘法筆を選ばず」なんですね。そういえば昔々、フィルムの時代の頃の話ですが、タッチャンと2人でロサンゼルスに撮影取材に行ったとき、キヤノンのアメリカ支局から新品のカメラとレンズと取り寄せて撮影していましたね。巨匠もいつも手ぶらでアメリカに行っていたんですよね。

立木:そうだ、思い出した。アシスタントは1人もいなくて、自分で何台もカメラを持ちながら、ヘンなところばかりシマジに連れて行かれたんだった。

シマジ:でもあれでPLAYBOYの誌面を飾り、あとで『マイ・アメリカ』という凄い写真集ができたんですから、よかったんじゃないですか。

立木:たしかにあの頃のアメリカは元気があって面白かったよな。

和知:いつ頃のことですか。

シマジ:1975、6年ころのアメリカです。和知さんはまだ8歳くらいのときですね。そういえば和知さんは1食主義なんですってね。

和知:そうです。朝、女房が作ってくれる食事を1回とるだけです。

シマジ:そういえば「情熱大陸」のとき、奥さまの手料理を食べているシーンがありましたね。奥さまは料理研究家でしたよね。じゃあ、料理を作るのはお上手なんですね。

和知:野菜が主な食事です。ご飯はピンポン球くらいしか食べません。店の賄いは午後4時なんですが、そのときはわたしはなんにもいただきません。

立木:シマジは何食主義なんだ。

シマジ:わたしは2食主義ですが、家では一切食べず、全て外食です。でも先日、神保町のカーマから売り出したばかりのレトルトのチキンカレーをもらったので、どうしても食べたくて女房に頼んだら「1万円出してくれるなら作ってあげる」と言われ、仕方なく1万円払って、チキンカレーを作ってもらいましたよ。

立木:そのカーマのレトルトのチキンカレーって1袋いくらするんだ。

シマジ:950円だったかな。もらったものでよく覚えていません。これは美味かったですよ。絶品です。

立木:シマジ、おれに10セット送ってくれ。食べてみたくなった。お前が迷わず1万円出すくらいだから、ホントに美味いんだろう。

シマジ:これはまさしく白眉です。神保町に働いていたころは、毎週1回はカーマのチキンカレーを食べに行ったものです。そうそう、資生堂の福原名誉会長もお連れしたことがありました。ちなみに福原さんはそのあと古本屋に立ち寄られ、5、6冊買っていましたね。それからわたしが社長をしていた集英社インターナショナルにいらしていただきました。

立木:それはシマジが本当に社長をやっているのか偵察に行ったんではないか。

シマジ:そうかもしれませんね。でも福原さんは「集英社本社は一度も訪ねたことがありません」と仰っていましたね。

金塚:シマジさんはうちの福原と親しいんですね。

シマジ:はい。お会いした瞬間から可愛がっていただいて、福原さんの書友の末席にも入れてもらっているんです。いまでもよく面白い本を教えていただいています。もう3年10カ月前のことになりますが、わたしがバーマンをやっている伊勢丹サロン・ド・シマジのオープン当初にお一人でやって来られたんです。あのときは驚きましたね。福原さんは店頭においてあるSHISEIDO MENのセットをしみじみご覧になり、「やっと伊勢丹メンズ館に入ったのですね」と感慨深げに仰っていたのが印象的でした。資生堂を本当に愛していらっしゃるんだと思いましたね。あとでお聞きしたところによれば、SHISEIDO MENは伊勢丹メンズ館になかなか入らなかったらしいです。ですから嬉しかったんでしょう。今回はわたしの愛用品はなんでもおいてもらうというのが伊勢丹との条件でしたから、すんなり入れてもらったんですがね。そうだ、和知さんも、今日資生堂からいただいたSHISEIDO MENを使い切ったら、日曜日にサロン・ド・シマジにSHISEIDO MENを買いに来がてら、バーにも顔を出してくださいね。

和知:行きましょう。ぼくはシングルモルトが大好きなんです。

シマジ:ではいますぐスパイシーハイボールを作りますから飲んでください。

和知:先ほどからシマジさんが作っているのを見ながら、美味しそうだなと思っていたところです。料理を作るのも終わりましたので、ぜひ、一杯お願いしてもいいですか。

シマジ:では和知さん、金塚さん、タッチャン、そしてわたしの4人分を一気に作りましょう。

金塚:わたしはもう飲めません。少し酔ってきました。

立木:お嬢、シマジが気持ちよく4人前作ると言っているんだから、もう1杯飲んでくれる?ここから資生堂は近いことだし。

金塚:それでは薄く作ってくださいますか。こうなったら“資生堂ボンドガール”の沽券にかけて飲みましょう。

シマジ:“資生堂ボンドガール”っていいね。

金塚:いまわたしたちの仲間内では、この連載に出ると、天下の立木先生に撮っていただけて、美味しいお酒やお料理をいただきながら、シマジさんと対談できるって大変評判になっているんですよ。みんないつ自分に声がかかるか、いまかいまかと待っているくらいです。

シマジ:そうですか。それは嬉しいですね。できました。ではみんなで一緒に「スランジバー!」と言ってください。

一同:スランジバー!

金塚:スランジバーってどういう意味があるんですか。

シマジ:これはスコットランドのバーでは必ず耳にする乾杯の言葉です。ゲール語で「あなたの健康を祝して」という意味です。

和知:うん、これはイケますね。食事の邪魔になりません。ブラックペッパーの香りが独特でいいですね。

シマジ:さすがは和知さんです。このブラックペッパーはインドの黒コショウをスコットランドのアイラ島から輸入したピートを使って、横浜燻製工房で燻製してもらっているんです。普通の黒コショウではこんなに複雑怪奇な風味は出ません。

和知:どうしてそこまで凝っているんですか。

シマジ:鋭い質問ですね。タリスカー10年はテイスティング・ノートにもよく書かれているように、ブラックペッパーの香りがするんです。ですからそこを強調したわけです。それと、これを割るソーダが重要です。このソーダは山崎プレミアムソーダで、普通のソーダの3倍の値段がしますけど、カクヤスでは1本100円で売っています。

和知:これは食事中何杯でも飲めそうですね。

金塚:そうでしょう。ですから今日わたしは何杯飲んだのでしょう。

シマジ:少なくとも歴代の“資生堂ボンドガール”のなかでは、間違いなく横綱でしたね。

立木:横綱、もう一杯どうぞ。

金塚:はい、今日は気分がいいからもう一杯飲みますか。

シマジ:横綱、そうこなくっちゃ。わたしも気分がよくなってきました。

立木:お嬢、大丈夫。まだ酔う前の美しいお顔を撮影しておいたからね。

金塚:立木先生、ありがとうございます。

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