第6回 アトリエAirgead 須藤銀雅氏 第1章 須藤銀雅の美味しい名刺。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

ある週末、以前この連載でも取り上げた荒木町のオーセンティックバー C-shell(シ・シェル)の牧浦侑バーマンが、背の高いイケメン男を連れて伊勢丹メンズ館サロン・ド・シマジにやってきた。
「シマジさん、今日はぜひ紹介したい若者を連れてきました。この男は須藤銀雅といいまして、才能のあるショコラティエなんです」
須藤から渡された名刺は特別製であった。「銀雅という名前がいいね」と言うと、彼は「ありがとうございます。その名刺は召し上がってください。もう1枚紙製の名刺も用意しています」と微笑んでいる。わたしは生まれて初めてチョコレート製の名刺をもらい、早速口に運んだのであった。
「うん、美味い!それにこのセンスがユニークだね」わたしは一瞬にして須藤銀雅の名前を覚えた。
須藤は小さな箱をクーラーボックスから取り出して言った。
「これはアルコールとのマリアージュに特化した、オーセンティックBAR専用チョコレートです。一般の方への小売はしていません。ぜひシマジさんに味わっていただきたく、本日持参いたしました」
箱の中身を見せてもらうと、15個のチョコレートが1個1個美しく輝いている。そのでき映えにわたしは目を見張った。まるで宝石箱のようなチョコの詰め合わせである。運よくサロン・ド・シマジに居合わせたお客さまにもお裾分けした。「これは個性的で上品なチョコレートですね」という感想もあった。確かにそれぞれが個性的である。「バナナ」、「マンゴー」、「スパイスフィグ」、そして「昆布」や「味噌」まである。
「こちらは味噌を溶かした生クリームとミルクチョコで作ったガナッシュです。塩キャラメルのような甘じょっぱさと味噌の芳醇な味がするでしょう。スプリングバンクなど塩気のあるシングルモルトによく合います」と須藤は胸を張った。
そんなわけで今回のSHISEIDO MENの客人はイケメンのショコラティエ、須藤銀雅となった。撮影取材場所には荒木町のBAR C-shellに再び協力してもらった。ここに行けば美味い酒とチョコレートのマリアージュが愉しめるからである。

立木:このバーは前に一度取材したところだな。

シマジ:そうです。よく覚えていましたね。

立木:たしか、ここのバーマンは松田優作の熱狂的なファンだったんじゃないか。ほら、そこに優作の人形まで飾ってあるではないか。

牧浦:立木先生、お久しぶりです。先日はわざわざ松田優作の写真を送っていただきありがとうございました。家宝として額装して飾っております。

立木:おう、久しぶり。でもここで二度目の取材をするわけではないだろう?

シマジ:今日はこのバーを借りて、あるショコラティエを取材します。こちらがその須藤銀雅です。

須藤:須藤と申します。よろしくお願いします。

立木:よろしくね。へえ、この名刺はチョコレートなんだね。食べていい?

須藤:どうぞ、どうぞ。もう1枚普通の名刺も用意してあります。

立木:食べられる名刺か。これはインパクトがあるね。

須藤:ぼくはこれを相手のこころを捉える手裏剣代わりに使っているんです。

シマジ:食べるとなくなる、これぞ一期一会だね。タッチャン、こちらは今回のゲスト、資生堂の保科友里さんです。

保科:保科友里と申します。よろしくお願いします。

立木:立木です。お嬢、よろしくね。

須藤:保科さん、よろしくお願いします。ぼくのチョコレート名刺をどうぞ。

保科:わあ、嬉しい。このまま持ち帰って同僚たちに自慢してもいいですか。

須藤:いまの温度では溶けてしまいますので、ここで召し上がってください。

保科:そうですか。もったいないけど、ではいただきます。うん、美味しい!

シマジ:これはどうやって作るんですか。

須藤:1枚1枚手作りなんですが、まず名刺サイズに薄い板チョコを切り、その上に名前などの活字を切り抜いたフィルムを乗せ、さらに上からホワイトチョコレートをインク代わりに塗って仕上げます。ぼくは店舗を持っていませんので、初対面の相手の方に強い印象を残すことが重要なんです。

シマジ:ではあなたの作るチョコレートはすべて自分の工房で作っているんですか。

須藤:はい。アトリエと呼んでいる厨房で作っています。

シマジ:なるほど。自分のチョコレートは食べると消える芸術作品と思っているんですね。

須藤:まあ芸術品は言い過ぎですが、食べられる宝石のように思っています。ですからチョコレートを卸しているオーセンティックバーには宝石箱のようなアンティークな箱を置かせていただいて、そこに15個のチョコを並べてお客さまに見ていただき、ウイスキーやブランデーなどと共に味わっていただいているんです。

シマジ:アトリエの名前というか、チョコレートのブランド名はあるんですか。

須藤:はい。Airgead(アールガッド)といいまして、ゲール語で銀という意味です。ぼくの名前が銀雅ですので、そこから付けました。正式には「アトリエAirgead」と言っています。

シマジ:ゲール語か。凝っていますね。

立木:シマジが乾杯のたびに言っている「スランジバー」もたしかゲール語ではなかったか。

シマジ:そうです。「あなたの健康を祝して」という意味で、スコットランドのバーで必ず言われている乾杯の言葉です。そうだ。まずみんなにアールガッドの宝石箱に入ったチョコレートを見せてあげてもらえますか。わたしは一度見ていますが、感動しますよ。

須藤:はい、こちらです。

保科:まあ、きれいですね。これを食べるのはちょっと勇気がいりますね。美しすぎます。

須藤:そう言わずに保科さん、どうぞ召し上がりたいものを手に取ってください。

保科:本当にいただいてもいいんですか。ではこの薄黄色とピンクをぼかした美しいチョコレートをいただきます。うん、美味しい!なにかいままでのチョコレートでは味わったことのない、昆布のような香りがします。

須藤:その通りです。これは日高昆布で出汁を取った生クリームとビターチョコレートのガナッシュで、タイムを少し加えることで磯の香りをまとめています。カリラとかアイラ島のシングルモルトによく合うはずです。

シマジ:タッチャン、なにかつまんでみますか。

立木:おれはいいよ。今日は随分小さなものを撮るんだね。ヤマグチ、短いレンズを持ってきたか。

ヤマグチ:はい。短いのも長いのもなんでも揃っております。

シマジ:保科さん、残念ながら須藤のこのチョコレートは一般には売られていないんです。

保科:ではどこで食べられるんですか。

シマジ:いい質問です。それはこのバー「シ・シェル」をはじめ、須藤が卸しているオーセンティックバーでしか食べられません。

保科:それは東京だけですか。

シマジ:いい質問です。須藤の代わりにお答えします。東京では神楽坂の「BAR鎹(かすがい)」などいろいろありますが、全国にも「アールガッド」のチョコレートが好きなバーマンがいて、例えば大宮の「BAR LIEN(リアン)」、神戸三宮の「Bar Andante(アンダンテ)」、つくばの「BAR UNTITLED(アンタイトル)」などに行けば食べられます。

保科:そうですか。須藤さんがアトリエをオープンしたのはいつごろなんですか。

シマジ:いい質問です。これは須藤本人から答えてもらいましょう。

須藤:アトリエをオープンしてまだ8カ月です。契約しているバーは全国で20軒ぐらいですか。

シマジ:でもこのチョコレートはいまに大評判になると思うね。わたしも伊勢丹のサロン・ド・シマジに入れようかと考えているんです。1個売りのチョコレートって面白いでしょう。

保科:1杯のシングルモルトに合わせて1個のチョコレートを選ぶ、というのはユニークでいいですよね。

立木:シマジ、おれはどのチョコレートを撮ればいいんだ。もう3人の顔は撮ってしまった。

シマジ:須藤、どうしようか。

須藤:はい。シマジさんのカラーに合わせたユニークな4種類を用意してあります。

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今回登場したお店

アトリエ  アールガッド

東京都中野区中央1-20-34コート矢口1F
03−6318−0131
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