第1回 浅草 特選とんかつ すぎ田 佐藤光朗氏 第1章 親父の考案した特製とんかつを撮る。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

とんかつの店を取材するのは、これが初めてである。
なぜ今回、浅草の「特選とんかつ すぎ田」を選んだのか。それは簡単だ。すぎ田のとんかつが、ほっぺが落ちそうなほど美味かったからである。
わたしは浅草にあるパイプ製作所「TSUGE」によく商談に行くのだが、その際、柘社長と三井常務に連れられてすぎ田に行ったのが最初であった。まずロースとんかつに唸った。食感が重いかなと思いながら一口食べて驚いた。軽い。それでいて滋味なのである。そして油もパン粉もスグレモノであった。
わたしは早速、島地勝彦公認万年筆管理人足澤公彦に「すぎ田」を紹介した。とんかつ好きの足澤は、あまりの美味さに2日連続で行ったという。
「シマジさん、あれにはタリスカースパイシーハイボールがあったら最高ですよ。炭酸とトンカツは相性がいいはずです。えこひいきしてもらい、タリスカースパイシーハイボールを置くように、佐藤マスターに頼んでもらえませんか」
「わかった。今度、頼んでみるね」

シマジ:佐藤さんは「特選とんかつ すぎ田」の2代目だそうですね。

佐藤:はい。親父が29歳のときここに店を開いて、今年でちょうど40年になります。

立木:へえ、今日はとんかつの撮影か。面白いね。よっぽど美味いんだろうね。

シマジ:こちらが写真家の立木巨匠です。

佐藤:存じ上げています。立木先生に親父の考案した特製とんかつを撮っていただけるなんて光栄です。涙が出るほど嬉しいです。

立木:もちろんあなたも撮りますよ。

佐藤:いやもう、朝からそのことで緊張しっぱなしなんです。一応床屋にも行ってきましたが。

シマジ:こちらが資生堂の國司優子さんです。

立木:よろしくね。

國司:國司です。よろしくお願いします。

立木:では最初になにを撮影するの。

シマジ:今日は豚肉のヒレから揚げていただきますか。

佐藤:かしこまりました。

立木:揚げる鍋が2つあるんだね。

佐藤:温度を変えているんです。こちらの鍋が130度で、もう1つのほうを160度にしています。揚げている間にキャベツを切りますね。

シマジ:シャキシャキというリズミカルな音が気持ちいいですね。これはどこ産のキャベツなんですか。

佐藤:キャベツは季節によって産地が変わりますが、今日のは三浦半島のものです。はい、ヒレが揚がりました。撮影はカウンターの上でいいですか。

立木:この白木のカウンターがじつに美しいから、ここで撮影しよう。これは毎日磨いている感じだね。

佐藤:はい、これは親父の時代からもう40年使っている木曽の檜なんですが、毎日仕事のあとに磨いています。少し水をかけて、柔らかいビニールのタワシで磨くんです。

シマジ:撮影が済んだら、ヒレとんかつが佐藤さんの前にきますからね。じっくり味わって召し上がってくださいね。

國司:連載を読んでおりますから、その手順は存じ上げています。

シマジ:ランチは当然抜いていらしたんでしょうね。

國司:はい。担当の田中からそう言われていましたから、ランチは抜いて参りました。

シマジ:今日は大変ですよ。これからヒレ、ロース、ポークソテー、それに大正エビを1本揚げてもらいます。わたしもお手伝いしますが、國司さん、どんどん召し上がってくださいよ。

國司:えっ!4種類も出るんですか!

シマジ:この連載は4種類の飲み物か料理を撮影することになっているんです。

立木:ヒレとんかつは撮影終了!次は?

佐藤:ロースとんかつもいま揚がりました。どうぞ。

立木:見るからに美味そうだ。

佐藤:立木先生はお仕事が早いですね。

立木:なにも手を抜いているわけではないんだよ。

シマジ:はい、國司さん、どうぞ。

國司:いただきまーす。香りがいいですね。うん、美味しい。お肉が凄く柔らかいです。

立木:ロースとんかつも撮影終了。これはシマジが食べるんだろう。

シマジ:そうです。まあ食べながら、國司さんのヒレと交換しますけどね。

立木:次は?

佐藤:ポークソテーです。立木先生、これは絵になると思うんですよ。最後の仕上げにサントリーの角をフライパンに垂らすと、大きな炎が立ち上がります。フランス料理でよくやるフランベです。よろしくお願いします。

立木:それは面白そうだ。

シマジ:ソテーするロースもじつに美味そうですね。

佐藤:はい、ではサントリーの角をかけて炎を立ち上げます。

立木:凄い!美しい!OK!バッチリ撮影ができた。

國司:シマジさんと交換したロースかつも美味しいです。どうしてこんなに脂っこくなく揚げられるんですか。

シマジ:のちほど佐藤マスターから秘伝の説明をしてもらいましょう。

國司:パン粉も細かくて普通のものではありませんね。

シマジ:その通りです。このパン粉にも物語があるんですよ。これものちほど訊いてみましょうね。

立木:美味そうなソテーも撮影終了!

シマジ:では佐藤さん、ソテーのお皿をこちらに運んでください。國司さんと半分ずついただきましょう。そして最後はいよいよ大正エビですね。

佐藤:承知しました。シマジさん、見てください。今日の大正エビはインドネシア産の特別大きいものを用意しました。

シマジ:おお、こんな大きいエビは見たことがない。これはまさにフルボディのエビですね。

佐藤:立木先生のために用意した大正エビです。

立木:たしかにグラマーなエビだね。このまま撮影したほうが迫力があるのに、わざわざ皮をむいて衣をつけて揚げてしまうのが惜しいような気がするくらい大きなエビだね。

佐藤:今朝、築地のエビ専門店に出かけて行って仕入れてきました。これを揚げるとまた迫力があるんです。

シマジ:この大きな大正エビのフライはお父さまの時代からやっていたんですか。

佐藤:親父の時代からやっていましたが、こんな大きな大正エビは普通は出していません。常連さんが注文されたときにだけ、築地から買ってくるんですよ。

シマジ:エビのフライをメニューに入れたのは、お父さまの最初からのアイデアだったんですか。

佐藤:じつは母方の実家が以前この同じ場所で、魚屋をやっていたんです。祖父がよく築地に行っていたものですから、エビのことはおれに任せろ、と親父を説得したようです。

立木:たしかに肉が食えないお客もいるもんね。肉嫌いな人が連れてこられても、美味いエビがあってホッとしたんじゃないの。

佐藤:この大正エビはインドネシア産とはいえ、一本釣りであげたものなんですよ。立木先生、大正エビが揚がりました。ここに置きますね。

立木:これは凄まじく大きなエビのフライだね。美味そうだ。それにしてもパン粉が細かくてきれいだね。

シマジ:このパン粉には謂われがあるんでしょう。

佐藤:これは近所の「ペリカン」というパン屋さんで特別に作ってもらっているんです。ペリカンでは食パンとロールパンしか出していないんですが、「こんな美味いパンを作っているところのパン粉なら、揚げてもきっと美味いに違いない」と親父が目をつけたそうです。それが大当たりだったんです。そこで親父の時代から特製パン粉をうちに卸してもらっているんです。

立木:グラマーな大正エビのフライの撮影は完了!

シマジ:さあ、國司さん、これで4種類揃い踏みです。

國司:今日は幸せです。ヒレ、ロース、ポークソテー、どれも本当に美味しくて、こんなご馳走は滅多に食べられません。

シマジ:それを聞いて佐藤さんも嬉しそうです。さあ、この少々おデブなエビも召し上がってください。

國司:うーん、このエビも甘くてホクホクして美味しいです。それに豚汁も最高ですね。お新香も美味しいです。

佐藤:これは妻が漬けてくれているんです。

國司:そうなんですか。なにからなにまで美味しくて、こころのこもったお料理に感動しています。

佐藤:ありがとうございます。

立木:さて、今度はみんなの顔を撮るか。

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