第4回 淡路町 天兵 井上孝雄・恭兵親子 第3章 「天兵」誕生にまつわる、恩と人情の話し。

撮影:立木義浩

シマジ:それにしても、今日のゲストの清水さんは強運の人ですね。

清水:ありがとうございます。

立木:たしかに、強運って人生には大切なことだよね。この時期に銀宝を1匹丸ごと1人で食べることができたというのは、凄いことだよ。しかも生まれてはじめてのことでしょう。

清水:はい、そうです。今日は本当に感謝しております。あとで友達に自慢しちゃいます。

シマジ:清水さんはその強運を持って資生堂への入社もスムーズにできたのでしょうね。

清水:いえいえ、そんなことはありません。

シマジ:どうして資生堂に入りたいと思ったんですか。まずはその動機を教えていただけませんか。

清水:就職活動中にさまざまな業種や会社を検討しましたが、わたしには本来、多くの人に元気やパワーを与えられる仕事がしたいという信念というか、自分の軸のようなものがありました。その点、美容は女性にとってパワーの源です。たとえば朝、ファンデーションを塗ったときに化粧のノリがいいと、1日のスタートの気分があがります。新しい口紅を買ったら、今度のデートのときにつけようかなとワクワクするものです。このように女性を一喜一憂させる化粧品のパワーは凄いと感じていました。それで資生堂を志望し、運よく入社することができました。

シマジ:立て板に水って感じの説明ですね。でも資生堂は新聞社のように、まずは本社勤務ではなく地方で営業をさせるんですよね。自分が全国のどんな地方に配属させられるかわからないんでしょう。

清水:そうなんです。資生堂の総合職は全国のどこかの事務所に配属されます。入社当時、人事部の「実家から通えない地域に配属する」という方針を聞いていましたが、生まれも育ちも東京のわたしが配属されたのは和歌山県で、正直なところ、はじめはショックを受けてしまいました。忘れもしないのは、まだ入社前の2月14日のバレンタインデーに資生堂からの配属通知が書留で自宅へ届いたんですが、「和歌山県」という文字を目にしたとき、わたしは泣き崩れてしまったんです。そしてすぐに、日本地図で和歌山の場所を確認してしまいました。でも思い返すと、人事部との面接で「わたしは冷え性なので、寒いところは苦手です」と言っていたために、気候の温暖な和歌山県に配属が決まったのかもしれません。

シマジ:そのように人生をなんでも前向きに考えると運が向いてくるものですよ。悲観的に考えるとドンドン幸運が遠ざかっていくものです。でも173センチもある女性が大泣きしたというのは不思議な気がしますね。

立木:シマジ、泣くのに背は関係ないと思うよ。

シマジ:和歌山に配属されてからはいかがでしたか。

清水:地方をまわる営業職なので運転は必須でした。学生のときに免許は取得していたものの、教習所以来の久々の運転でした。

シマジ:それでは怖い思いもしたでしょうね。

清水:はい、運転も危うい上に、まったく土地勘のない和歌山の道路だったので、営業に出たときの初日はドキドキしたのをいまでも忘れられません。もちろん若葉マークをつけて、地図を広げて会社の駐車場を出発しましたが、行き先とは違う方向に進み、気がついたら見覚えのある景色が見えてきました。会社の周囲を一周しただけで、また駐車場に戻っていたんです。

シマジ:アッハハハ。笑ってごめんなさい。その当時はまだカーナビが搭載された車もなかったんですよね。

清水:そうなんです。ですから営業の仕事を覚える前に、まずは地図の読み方から勉強しました。ときには、片道2時間以上もかかるお店に行くこともあり、そこは携帯が圏外になるような山奥なので、行き帰りが本当に不安でした。「もし日が暮れてもわたしが帰社しなかったら、山中で迷子になっているか、事故に遭った可能性があるので、必ず警察に連絡してください」と上司に念を押してから出発したものです。でも嬉しいことに、どこの担当店の方も、慣れないわたしに対していつも親身になって温かく接してくれました。ただ、和歌山弁はたまに理解できないことがありましたね。とくにご年配の方の話す和歌山弁は理解するのが大変でした。

シマジ:たとえばどういう方言ですか。

清水:「レイコー飲むか?」と言われたときは、はじめはなにを飲むのかわかりませんでした。

シマジ:想像するに、それはアイスコーヒーのことでしょう。

清水:そうなんです。

シマジ:和歌山には何年いたんですか。

清水:2005年から2年ほどいまして、それから2007年に本社のコミュニケーション統括部門に転勤になりました。はじめは宣伝媒体グループに配属になり、雑誌広告の買い付けを担当しました。その後2008年からは同じコミュニケーション統括部門の戦略PRグループに所属しています。主に雑誌のメディアが多く、先程も言いましたが、集英社さまの担当をしています。

シマジ:それはなにかの縁ですね。清水さんはむかし流にいえば、広報部にいらして資生堂の化粧品を雑誌に取り上げてもらうために活動しているわけでしょう。

清水:そうです。メディアを通じて、まだ資生堂の化粧品に出会えていない多くの方々に、資生堂の化粧品の素晴らしさを知っていただくことがわたしの現在のメインの仕事です。多くのメディアに自社の商品やサービスを取り上げていただくために、PRプランを練り、そのプランに基づいてメディアキャラバンや発表会の開催などの働きかけを行なっています。

シマジ:たとえばSHISEIDO MENの化粧品を1つ世に送り出すために相当の人がかかわっていんでしょうね。

清水:そうなんです。化粧品1つを作りあげるために、研究員、商品企画担当、マーケティング担当、営業担当、そして店頭で働いているBCの方々と、多くの社員が一丸となって携わっています。そして研究員と言っても、成分、処方、美容法、容器、安全性などなどさまざまな専門研究員がかかわっているわけです。ですからわたしを含め、PR担当者は、関わっているすべての社員の想いの詰まった化粧品を、一人でも多くの方々にお伝えする重責を担っているんだと自負しております。わたしたちPR担当は、そういう社員の想いをメディアに伝える、いわば代弁者です。ですから直接開発担当者に開発の想いや開発秘話をヒアリングしたり、メディアの方が興味をもってくれるような切り口に情報を変換したり、できるだけメディア露出が多くなるための手法を日々探求しています。

シマジ:たとえば最近PRで成功した事例を教えてください。

立木:「それは企業秘密です」って話だよ。

シマジ:アッハハハ。タッチャンはMHDのボブのそのセリフが気に入ったんですね。

清水:資生堂のすべての化粧品は、肌への効果と安全性など、確固たる研究の成果の集大成なんです。低価格帯だと「たいしたことないだろう」と思われる方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。たとえば、この春リニューアルした女性用の某スキンケアアイテムは、世界初の技術を駆使して素晴らしい化粧品に生まれ変わったんですよ。嬉しいことに雑誌のベストコスメ賞の受賞にまでこぎ着けました。

シマジ:それは快挙ですね。

清水:あっ!井上さんたちのお肌チェックを忘れていました。お父さまから測定いたしましょう。どうぞ、こちらに出てきていただけませんか。

井上:はい、はい。ここに座っていればいいんですか。

清水:はい。判定が出ました。Dでした。

シマジ:そのお歳でDは立派なものですよ。やっぱり毎日カヤの実を搾った油の飛沫を顔に浴びているからDだったんでしょうね。

井上:さあ、どうですか。

清水:今度は息子さんの判定が出ました。同じくDでした。

シマジ:親子揃ってDとはよかったじゃないですか。あとで資生堂からいただくSHISEIDO MEN を毎日使っていれば、すぐCになりますよ。

恭兵:今日はじつに愉しかったです。ありがとうございました。

シマジ:こちらこそ。

立木:女将さんは?

シマジ:また2階に隠れてしまったようですよ。

立木:シマジ、今度お前と二人で来よう。

シマジ:喜んで。

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