OTONA BIBLE

「考え」なければ、気持ちも身体も動かせない

[R-STORE 社長]

浅井佳

vol.2

2017.04.07

2009年、店舗を持たずインターネットに特化した賃貸住宅のセレクトショップ「R-STORE」を創業し、15年には、本を読みながら泊まれるホテル「BOOK AND BED TOKYO」を開業した“ハンサム社長”こと浅井佳。
大学で建築を学んでいたという彼の道のりには、当たり前と思われるものを疑い、自分自身の頭で考える「再考」の思想があったという。既存のビジネス形態にひと工夫加えることで、次々とユニークな事業を展開する彼が大切にしている「再考」とは何か聞いた。

CHAPTER 1

「再考」の原点

考えた先で辿り着いた
不動産の面白さ

建築家を諦めた学生時代

_いつも意識して既存の慣習やルールを疑ってみていると語るのはR-STORE代表取締役、浅井。その考えの原点を聞いた。

「自分の頭で考えるトレーニング方法は、学生時代に培ったものかもしれません。僕は大学の建築学科でしたが、図面を引くことよりも、その建築がもたらすものや意味を考えるほうが、楽しくなってしまったんです。たとえば、オフィスビルの容積についてよりも、それをきっかけに働くとは何か?とか、家族が住む家とは?公園とは?そういうことを考える学生でした。ただ、建築というのは、建物の造形ができてこそというか、構想だけではダメで、自分にはその才能はないと思ったので、建築家になる夢は早々にあきらめ、僕が好きな建築を紹介する仕事がしたいと考えました。」

大学では教わらない投資の発想

_大学卒業後、インテリア会社イデーに就職し自由な発想を培ったという。その後アールプロジェクトへの転籍、倒産を経験。

「イデーの仕事は基本的に家具の製造販売ですが、花屋さんやカフェを開いたり、生活そのものを豊かにするような新しい事業を次から次へとやっていました。いわゆるマーケティングは無視して、やりたいことをやる会社でした。ただ、そうしているうちに債務危機に陥ってしまい……。アールプロジェクトというデベロッパーの会社に転籍することになりましたが、そこは自分たちがお金を投じて建物を建てる側の会社で、お客さんのことを考えながら何かを提示していくイデーの発想とは違っていて、すごい衝撃を受け、面白いと感じました。そこで大学では教わらなかった”投資”の対象として儲けるための建物、つまり不動産のことを、いろいろと勉強することになるのですが……数年後、リーマンショックのあおりを受けて、会社が倒産してしまいました。」

CHAPTER 2

R-STOREが
ユニークな理由

独立したかったわけでも、
不動産屋をやりたかった
わけでもない

放置されたウェブサイトがR-STOREに

_大学で学んだ建築の知識、イデーで学んだ自由な発想、アールプロジェクトで学んだ投資の目線が武器になると考えた浅井。そこからR-STOREの基盤が作られていった。

「たまたま、アールプロジェクトが自社のマンション紹介のために作ったウェブサイトが放置されていたので、買い取らせてもらったんです。いきなり自分の店を開くことはできないけど、そのサイトを使えば自分が気に入った建物を、いろんな角度から紹介することならできるんじゃないかって。実は、独立したかったわけでも、不動産屋をやりたかったわけでもないんです(笑)。」

既存を疑い、変えていく

「今やっている事業は、どれも新しい領域の事業ではなく、従来からある業種です。ただ、昔ながらの慣習やルールに縛られるている業界ではあって……いちユーザーとして見てみると、ユーザー側ではなく、事業者の理屈で決まっていることが多く、かなり不思議な慣習が残っています。僕が最初に取り組んだ不動産ビジネスが、まさにそうで。ユーザーが本当に欲しい情報というのは、不動産屋が出しているそれとは別のところにあるんじゃないかと疑いました。例えば、不動産屋と車で内見に行くのもちょっとつらいじゃないですか。見ず知らずの人と、密室でふたりきりで過ごすわけですから。だったら、もう現地集合にするとか。R-STOREではそう言ったルールを考え直して変えているんです。」

たったひとりが気に入ればいいんです

_おしゃれで個性的な賃貸住宅だけをセレクトしているのはR-STOREならでは。それらを選ぶ基準には特別なものがあるのだろうか。

「不動産の場合、同じものが100個売れるなんてことは、まずありえない、どの物件も世界にひとつしかないわけですから。そういう意味では究極のロングテール、その極地のようなものだと思います。要するに、たったひとりが気に入ればいいんです。だから、どんな物件でも、うちのスタッフの誰かが推せる物件であれば、それは誰かに刺さる可能性があると思います。そんな部件を探すには、インターネットというのはすごく使い勝手の良いメディアです。うちの社員には、とにかく主観的に、なぜこの物件を選んだのかを考えるように言っています。他との比較ではなく、自分の頭でその物件の魅力を考えてほしいと。だから、うちのサイトは、物件の掲載基準がないんですよ(笑)。『なんでこの物件を紹介するの?』って聞いて、それに答えられるなら、どんな物件でも掲載します。そこが『R-STORE』のユニークなところなんです。」

CHAPTER 3

泊まれる本屋
「BOOK AND BED
TOKYO」

発想と組み合わせが生んだ
新しい形のホテル

専門家に頼らずユーザー目線で作り上げた

_世界でも話題のBOOK AND BED TOKYOでは本を読みながら寝落ちできる、そんな至福の「寝る瞬間」が提供されている。新しい宿泊の形はどのように生まれて行ったのか。

「あるときからR-STOREで外国人向けの賃貸事業を始めました。日本に仮の家がない人は多いんですよ。いきなり日本にきて、ホテルに住んでるとか、友だちの家に転がり込んでるとか。だったら、家を探しているあいだは、ここに泊まれますよっていう場所があれば、ちょっと新しいかなと思いました。それなら不動産事業とも組み合わせられるし、東京オリンピックに向けて、ホテルが足りないと言われている状況もあったから、これはありなんじゃないかって。ただ、ホテルの専門家を入れて考えるのは、やめようと思っていました。専門家を入れると、何室以上ないとペイできないとか、セキュリティ用のカメラは必要ですとか、従来の業界慣習みたいなことを言うだけなのでそれは違うかなと。だったら、敢えて素人集団で、あくまでもユーザー目線でやってみようと思いました。そのうちに、だんだんホテルについて考えることが楽しくなって、不動産事業とのリンクはむしろいらないってことになりました。」

全然違うアプローチで、「泊まる」を考える

「結局、ホテルっていうのは、寝るところじゃないですか。寝るというところに重きを置くと、マットレスを進化させるとか、羽毛布団を入れるとか、そういう発想になりますよね。でも次の新製品が出たらもうアウトなんです。そういう消耗戦みたいなことをするのは僕らはやめよう、それとは全然違うアプローチで、泊まるとか寝るとかを考えようとしました。そこでいちばん最初に思いついたのが、『何々しながら寝ちゃった』っていう、いわゆる『寝落ち』体験でした。じゃあ、何をしながら寝落ちすることが多いのかを考えて……バーでお酒を飲みながら、クラブで音楽を聴きながら、いろいろスタッフと話し合ったんですけど、やっぱりまわりがうるさかったら、安眠はできませんよね。そんななかで、『本』に落ち着いたんです。実は『本』という発想は、いちばん最後に出てきたんですよ。」

心地よく寝落ちする空間づくり

「『本』に決まってからは、『読みながら寝ちゃった』みたいなことができるように、ソファーの奥行も広めにして、いかに快適な空間を作るかを考えました。ホテルっていうのは、ベッドがあればいいっていうものではないんです。そこでの体験が面白いかどうかがやっぱり大事なんです。たまに、ビジネスホテルに泊まったりすると、すごく味気なかったりするじゃないですか。本当に、ただ寝るだけの空間というか。個人的には、すごい無駄な時間を過ごしてしまった感じがします。そうじゃなくて、そこにいること自体が体験として楽しいとか、何か特別な感じがあったりするほうがいいんじゃないかっていう試行錯誤のもとに生まれたのが、『BOOK AND BED TOKYO』です。僕もお客さんとして何度か泊まりにきていますけど、なかなかいい感じだと思います。ロビーのソファーで、そのまま寝てしまって大丈夫なホテルって、他にないじゃないですか。」

考えないことこそリスク。

「いろんな物事に関してみんなが『それは絶対、そうに決まってるでしょ』っていうようなことも、自分なりに腹オチしないとできないというのは、昔からあったと思います。周囲に対する自分の見せ方もそうですね。もちろん、考え直してみたら、その通りだったということもあるんですけど、自分で噛み砕いて、理解しないことには、気持ちも身体も動きません。
僕は就職活動のときも、7社しか受けてません。他の人は50〜100社とか受けていたけど、よくよく聞いてみたら、全部が行きたい会社ではないっていう。それが尋常ではない事態だっていうことを理解しているならいいんですけど、みんながやっているからっていう理由だとしたら、それは問題です。だから僕は、マーケティングもあまり信じていないというか、自分で考えたものをアウトプットとして、どう評価されるのかを知るほうが大事だと思います。言われた通りにやって失敗したら何の学びにもならないけど、『再考』した上で失敗したなら、それは自分の経験になるじゃないですか。
僕は学生時代も別にエリートではなかったし、入った会社も倒産してしまったし、見かたによっては全然うまくいっていません。でも、僕はその都度その都度、自分なりに考えた上で、結論を出してきたつもりです。だからこそ、そのすべてが無駄じゃなかったと言えます。僕にとっては考えないことが、何よりもリスクなんです。考えないことが、いちばん怖い。それは今も思うことですね。」

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