OTONA BIBLE

リスクがあっても、好きなことをしたほうがいい

[ファクトリエ]

山田敏夫

vol.2

2018.04.23

高い技術力を持った日本の縫製工場と顧客を結ぶ、まったく新しい形のアパレル・ブランド「ファクトリエ」。実店舗を持たないどころか広告宣伝もほぼ行わない、インターネット中心の営業形態でありながら多くのファンを持つ、そんな「ファクトリエ」を29歳のときに立ち上げた山田敏夫の発想の源には、果たしてどんな思いがあるのだろうか。そのタブーを恐れない行動力とユニークな発想、そして「メイド・イン・ジャパン」へのこだわりについて語ってもらった。

CHAPTER 1

品質が良いのは
当たり前

使命感を形にしたブランド

どうでもいいと思っていることにこだわる

_商品を実際手に取り、試着することができるファクトリエの「銀座フィッティングスペース」。そもそも「ファクトリエ」とは、どんなブランドなのだろうか。

「インターネットでの販売がメインですが、基本的には日本製の服を作って売るという、すごくシンプルなことをやっています。これは、どの世代でも共通していることだと思うのですが、服を選ぶときの基準って3つあると思います。デザインと値段とロゴの3つです。その服がどこで作られているかは、みなさんあまり気にしないんですよね。でも、それって本当にどうでもいいことなんでしょうか? 簡単に言うと僕たちは、他の人たちがどうでもいいと思っていることに、思いっきりこだわっている会社なんです。」

タブーを超える信念

_ファクトリエの商品には、すべてそれを作った工場の名が記されている。それは、この業界では、かなり珍しいことであるという。

「通常のブランドは、その服が作られている工場の名前を出しません。それはどちらかというと、この業界ではタブーになっているんです。そのブランドのイメージを守るために、工場の名前など余計な情報は入れないわけです。そういう考え方はわからないわけではないのですが、僕はオープンにしたいと思ったんです。もちろん、それをやろうとする際には、あらゆるところから横やりが入りました。だけど、僕は全然大丈夫でしたね。信念を持って本気で何かをやろうとしている人に勝てる人はいないと思っているので。そういうところは、ちょっと楽観的なのかもしれないですね(笑)」

洋服に愛着をもってもらいたい

_そんな思いのもと、山田はそれまで勤めていたアパレル関係の会社を辞めて、29歳のときに起業する。まず行ったのは、提携する工場探しだった。

「これまで日本全国600工場ぐらいを自分の足で回りました。最初はいろんな工場の人たちに不審がられましたけど、僕の考えていることを、一生懸命、説明させてもらい、その中から厳選した、高い技術力を持った全国55の工場と、ファクトリエは提携させてもらっています。だから、品質が良いのは、もう当たり前なんです。それよりも、高い技術を持った日本の工場で作られた、大量生産ではない洋服を、愛着をもって長く着続けることの喜びを、多くの人たちに知ってもらいたい。そういう思想を伝えるため、ひとつの使命感を持った活動のようなものが形になったのが、ファクトリエなんです。ですから、一般的なブランドがやっているような広告宣伝を、ほとんど行っていないんです。僕らのお客様は、ほとんどが口コミできてくれています。お客様を熱狂させて感動させる仕組みさえできていれば、広告宣伝をカットしても大丈夫というか。その分の予算を良い商品を作ることに全部投資しているんです。」

CHAPTER 2

ほんの少し、明日を
変える力になりたい

輝ける環境を
探し続けたからこそ抱く想い

自分に「いいね!」を

_熊本の老舗洋品店の息子として生まれた山田。しかし、その少年時代は、必ずしも順風満帆なものではなかったという。

「僕は小さい頃、本当に勉強ができなかったんです(笑)。スポーツも、水泳からバスケ、サッカー、剣道まで、いろいろやってみたんですが、どれもうまくいかなくて。本当に何をやってもダメな子どもだったんです。でも、きっとどこかには、自分が輝ける環境があるはずだ。そう思いながら、本当にいろんなことをやってきたんですけど、なかなか見つからなかったですね。だけど、そういうときこそ、自分を認めてあげることって必要だと思うんです。やっぱり、自己実現欲求の前に、まずは承認欲求が満たされないと、何も立ち行きません。けれど、当時は承認してくれる人がまわりにいなかったので、自分だけでも、自分のことを承認してあげてました(笑)。これは起業してから約2年半、社員が僕ひとりだった頃にもすごく思ったのですが、たとえすぐに結果が出なくても、頑張っている自分を肯定してあげる。今風の言葉で言うなら、せめて自分ぐらいは、自分に「いいね!」をしてあげることって、すごく大切だと思うんです。」

7年間のサラリーマン生活の先に

_灯台下暗し。そんな山田の心を照らしたのは、実家の家業でもある「洋服」の存在だった。

「子どもの頃に、実家の店番をしていたときから漠然と感じていたんですけど、服っていうのは、その人の明日を変えることができるんです。起業する前、サラリーマンを7年やっていたんですが、新しい服で会社に行くときは、少し気分が明るくなるし、服を新調するときって、ちょっとワクワクするじゃないですか。そういう意味で、服はその人の意識や過ごし方を変えることができるんです。もちろん、家業を継ぐことも考えましたが、家業を継いで自分のやり方でいちからスタートさせるのと、まったく新しいことを自分ひとりで始めるのは、結局今の時代とどう向き合いながらやっていくのかっていう意味では同じだと思ったんです。それぞれ、いいところと悪いところがあって。で、結局僕は、アパレル関係の会社に勤めたあと、自ら起業することを選びました。」

ていねいな暮らしを届けたい

_いわゆる「ファッション」は、「流行」と切っても切れない関係にある。けれども彼は、流行よりもむしろ長く残るもの、愛着をもって着続けられるものに、より大きな魅力を感じたという。

「“ていねいさ”って、すごく大事だと思います。今の世の中って、極端な話、どんなものを着て、どんなものを食べても生きていけるじゃないですか。だけど、そういう中で、自分の人生をていねいに生きるために、やっぱりていねいに作られたものを身に着けたいし食べたい。それは、自己表現のひとつだと僕は思っています。髪の毛をていねいにセットしたりするのも、それと同じですよね。そういうのって、必ず相手に伝わると思います。だから僕らは、そのお役に立てるような洋服をしっかり作って、みなさんに届けていきたいと思っているんです。」

CHAPTER 3

「メイド・イン・ジャパン」
を見つめ直して

ストーリーがブランドを
超える日を夢見て

海外で知った日本のすごさ

_「ファクトリエ」が最もこだわっているのは、「メイド・イン・ジャパン」であること。そのこだわりと使命感は、彼が留学先のパリで感じた、ある思いがヒントになっているという。

「大学生の頃、ファッションの本場のことが知りたいと思って、フランスのパリに留学したんですね。そこで驚いたのは、日本製に対する、彼らの信頼度の高さでした。フランス製やイタリア製と並んで、はるか遠くの島国である日本製が喜ばれるって、本当にすごいことじゃないですか。ただ、それはあくまでも、先人たちが作り上げてくれた奇跡的なイメージであって、今の日本の工場は、果たしてどうなのか。そう思ったときに気づいたんです。今、日本の工場のレベルが下がっていると言われてますが、それは大量生産の商品を作らされているからであって、日本の工場は本来、コストを下げることよりも、価値を作ることが得意なんじゃないかって。であれば、そのこだわりを存分に出させてあげられる仕組みを作ればいいんじゃないかって思ったんです。」

視座をあげて見えた日本

_なぜセールをしても儲けが出るのだろう。どうして洋服は、消費して破棄されることを前提に作られているのだろう。業界では当たり前とされている「常識」に対する素朴な疑問。しかし、その疑問にちゃんと答えてくれる人は、業界の内側には誰もいなかったという。

「距離が離れれば離れるほど、視座が上がって物事が見えやすくなると思います。僕は東京に来てから、地元の熊本のことが、よく見えるようになったし、フランスに行くことによって、日本がよく見えるようになりました。それこそ、視座を宇宙まで上げていけば、地球における人類の寿命なんて、ごくわずかなわけです。そう考えると、年間5兆円分もの洋服を、未使用のまま捨てているアメリカの現状は、やっぱりおかしいと思いました。一本のジーンズを作るために、一万リットルもの水を使うとかを続けていたら、それこそ地球がもたないと思うんですよね。」

問われる日本のアイデンティティ

_次から次へと使い捨てられる商品ではなく、長く愛されるものをていねいに作って届けること。その際に、山田が「メイド・イン・ジャパン」にこだわるのは、果たしてなぜなのだろうか。

「留学していた頃に感じたことなのですが、パリには白人の人はもちろん、アジア系からアフリカ系まで、本当にたくさんの人種がいて、そこでは必ず「あなたは何人なの?」って問われるんです。日本は奇跡的に、ほぼ単一民族の国でしたけど、これからどんどんグローバルな時代になっていくにつれ、個人のアイデンティティが、ますます問われるようになってくると思います。そのアイデンティティがどこからくるかというと、文化なんです。その文化は何から生まれるかというと、それは「もの作り」によって生まれると思います。今の時代というのは、もう一回そこをちゃんと見つめ直すべきときなのではないでしょうか。いま僕が考えていることがもうひとつあって。それは、ストーリーはブランドを超えるかもしれないっていうことです。名前の知られた高級ブランドの服と僕らの服を並べたら、恐らく多くの方々は高級ブランドのほうを選ぶでしょう。だけど、僕らの服の背景にある物語を、作った工場のこだわりや技術力の高さを知ってもらえたら、きっと僕らの服を選んでくれる人もいると思うんです。そうやって、知名度や流行ではない、自分しか知らないストーリーを探し当てたり、そこに共感するみたいなことが、いずれはファッションの選択肢のひとつになったらいいなって(笑)」

仕事を私事に!!

人間、10000時間掛ければ、どの道でも一人前のプロになれると言われています。だったら、自分が好きなこと、楽しいことをやったほうがいいと思うんです。そのほうが時間が経つのも早く感じられるし、仮に週5日働くのであれば、その「仕事」が「私事(しごと)」となるほうが、僕は絶対いいと思うんです。もちろん、仕事を私事にすると、オンとオフの切り替えがつきにくくなるなど、それなりのリスクがあると思います。ただ、リスクというのは、好きなことを仕事にするリスクと、好きじゃないことを仕事にするリスクの二種類があるんですよね。みんな、前者のリスクのことばかり心配するけど、後者のリスクは、後悔という形で、いつまでも続くんです。だったら、たとえリスクがあったとしても、好きなことを仕事にしたほうがいい。僕はそう思います。それで大失敗しようが、大成功しようが、きっといつか、その話を肴に、お酒が飲めると思うので(笑)。

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