2007年から、ジャパンレザーを使用した高品質のファッションアイテムを作り続けているブランド、ノーノーイエス。2009年には、ジャパンレザーを使用したパンツが国内最大規模のコンペティション「ジャパンレザーアワード」で、もっとも優れた作品に贈られるグランプリを受賞。財布、カードケース、クラッチバッグといった革小物を展開する「所作」シリーズが誕生したのもこの頃だ。
ノーノーイエスでは、「所作」シリーズの前にも革小物を製作していたが、当時はイタリアの革を使用し、海外の軍事工場で生産していたのだとか。橋本さんは、ジャパンレザーアワードで評価を得た日本製のファッションアイテムとのバランスの悪さを感じ、メイドインジャパンの革小物を作りたいと思うようになったという。
「海外の展示会に出展するようになり、革の本場でもあるヨーロッパの革製品を真似した作品では負けてしまうなと考えるようになりました。日本の技術で、日本らしさを感じられるアイテムを考えていたのですが、それと同時に“縫わずに革小物を作れないか”という思いがありました」
レザーという高級素材を扱うブランドだけに、ノーノーイエスには愛着をもって長く製品を使用するユーザーが多い。そのため修理依頼も珍しくないが、その中でもっとも多いのが“糸のほつれ”の修理。使用頻度が高いほど、仕方のない修理ではあるが、橋本さんは「縫うからほつれる=縫わなかったらほつれることはない」という概念のもと、無縫製の革小物を模索した。そこで着目したのが、日本に受け継がれてきた折形や折り紙。一枚の紙を折り重ね、物を包む形に仕上げるディティールだ。
「通常より5倍の時間がかかるピット製法で作られた一枚革を裁断し、折り重ねたら一カ所だけネジで留めて仕上げます。ボンドといった接着剤も使用していません。ジーンズなどに使われるリベットなどで固定してしまうこともできますが、ネジなら外して一枚革に戻してクリーニングしたり、薄い色から濃い色に染め直したり、アップデートすることができますよね。革は長く使える素材なので、育てていく感覚でアイテムを楽しんでいただきたいと思っています」
所作シリーズを、文字通り陰で支えているのがネジだ。発売当初、無縫製によって「ほつれ」のストレスから解放されたが、新たな「ネジのゆるみ」という問題に頭を悩ませていた橋本さん。それを解決してくれたのが、「絶対にゆるまないネジ」で知られる東大阪の町工場のネジだった。神社の鳥居にも採用されているクサビの構造を利用したそのネジを使用するようになってから、修理依頼は一度もないという。
「モノの価値は2つあると思うのですが、ひとつは機能的価値、そして情緒的価値。所作のアイテムは容量がたくさん入るわけではありませんし、機能的価値で言えばそれほど高いとは言えません。でも、所有することでその人自体の魅力が増すという情緒的価値は優れていると思っています。よく手入れされた革靴を履いている人を見ると好印象を受けるように、所作のアイテムが余裕や知性のある人の証と感じてもらえたら、嬉しいです」
所作シリーズは、2013年にミラノで開催されたヨーロッパ最大の皮革製品見本市「ミペル」で受賞するなど、海外でも高い評価を得ている。デザイン性の高いアイテムを揃えたニューヨークのMoMAデザインストアでも取り扱いが始まった。今後、ますます国内外の注目をあびる存在になりそうだ。
「所作には、折形のほかにも、くぎを使わずに木を組む宮大工の技法が取り入れられています。どれも一見モダンな革小物ですが、すべてに日本の伝統的な技法を融合させたジャパンスピリットが込められているんです。そういう意味でも、所作はメイドインジャパンの最高傑作だと思っています。エルメスのバーキンのように、“日本を代表する革といえば?”と聞かれて思い浮かべてもらえる存在にしたいですね」