いい男のいいこだわり

ネクタイデザイナー 羽田正二×ネクタイへのこだわり

※2015年6月21日をもってプレゼントの応募受付は終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。
国内有数の織物産地で80年の歴史を誇る"羽田忠織物"。代表の羽田正二さんが手がけるブランド"'Olu'Olu(オルオル)"のネクタイは、「かっこ良くて、どこか可愛い」がコンセプト。今回のプレゼントでもある、同ブランドのこだわりを教えていただこう。

時間をかけ空気まで織ることで、風合いが生まれる

羽田正二 インタビュー

羽田さんが代表を務める"羽田忠織物"があるのは、富士山麓に位置する、山梨県東部富士五湖地方。この一帯は、全国でも有数の織物の町だ。江戸時代から昭和初期にかけては、"甲斐絹(かいき)"と呼ばれる高級絹織物で栄えたという。羽織などの裏地に用いられた"甲斐絹"が生産されなくなった後も、その織物文化は廃れることなく、現在、山梨県はネクタイ生産量日本一を誇っている。羽田さんに、その背景をうかがうと……。

「布を織るとき、乾燥していると静電気が起きて糸が切れてしまう。湿度の高いこの地域は、織物に適しているんです。昔は農家ばかりだったので、農閑期の副業として織物が盛んになったそうです。そのため、大規模工場ではなく小さな作業所ばかり。うちも、祖母の代に2台の織り機でスタートしました」

効率重視の時流に飲まれ、大規模な生産を行うほかの産地が衰退していくなか、現在も同地域の織物産業が元気なのは、小規模でコツコツと織り続けてきたからこそとも。とくに同社は、じっくりと時間をかけて織ることを大切にしているとか。

「スピード重視で織ると、布だからこそのしなやかさが失われ、まるで紙のような質感になってしまう。僕は“空気を織る”と表現しているのですが、ゆっくりと仕上げることで、糸の間に空気を含ませ、風合いに優れた布を織り上げることができるんです」

クラシックで、完璧ではないかっこよさをデザインに

ちなみに同社の布地で特筆すべきは、"甲斐絹"の特徴と同じく、先染め糸、細番手・高密度、シルクの3点。織り上げた布にプリントを施すのではなく、織る前に染めた糸を用いることで、鮮やかさや深みのある色表現が可能に。また、極細の糸を緻密に織り上げることで、重厚感ある仕上がりになるという。見た目も軽やかなシルクは吸水速乾性に優れ、ネクタイを締めた際にゆるみにくいというメリットも。羽田さんが生み出すデザインは、それらの特性を存分に活かしたものだ。

「以前はメーカーからの依頼で、スーツに似合うネクタイをつくっていました。でも光沢のあるネクタイって、デートなどのプライベートシーンではフォーマル過ぎる。遊び心があり、気張らずに締められるネクタイが欲しいと思ったんです。それで、7年前にオリジナルブランド"'Olu'Olu"をはじめることに。

こだわりは、ジーンズからビジネスウェアまで似合う、マットな質感。デザインのソースは、自分の好きなもの・形にして残したいと思うものです。例えば僕が好きなのは、ナローポルシェや古いフランスのポスターなど。クラッシックで愛らしく、かっこいいけれど完璧ではない……、そんな佇まいのものばかりです。日々、目に映る景色もインスピレーションをくれる。この近くには、富士山からの湧水池・忍野八海がありますが、そういった自然のなかで、デザインを思いつくこともありますね」

羽田さんが手がけるネクタイは、ヨーロッパ的色づかいでありながらも、日本人の顔を引き立ててくれる。それはデザインのなかに、富士山麓の空気が織り込まれているからなのかもしれない。

羽田正二 インタビュー2

年齢を気負わず、“マインド30”のファッションを

羽田正二 インタビュー3

羽田忠織物のネクタイ愛用者は、30代から60代までと幅広い。羽田さん自身は、現在50歳。しかし自身のことを、“マインド30”と称する。

「僕は30歳の頃から、車や洋服など、周りに置きたいものが変わらないんです。いつまでたっても、子どもなのかもしれません(笑)。うちのネクタイも、年齢を気負わず。自分好みのファッションとして楽しんでもらえれば。休日にお母さんとデートするときに、ネクタイでちょっとお洒落をする。そんな素敵なお父さんに、締めてもらえたらと思っています」

昨今は、ビジネスウェアのカジュアル化により、若者の間ではネクタイ離れが進んでいるという。だが、「シャツにジャケットを羽織ったら、やっぱりネクタイはあったほうがキマる」と羽田さん。羽田さんが思う、大人にふさわしい、着こなしとは?

「ネクタイをゆるく締め、カジュアルさを演出する20〜30代の方もいますが、もっと大人の世代ならば、シャツの第一ボタンをとじ、高い位置で締めるのがオススメ。大人にふさわしい、紳士的な着こなしになると思います。その分、足元をスニーカーにしたり、袖口のボタンを外すと、抜け感が演出できるはず。デザインは、落ち着いたものでもビビッドなものでも、自分の好きなものを選んで欲しい。僕自身は、靴下の色に合わせたり、天気や気分、そんなちょっとしたことで使いわけています」

羽田正二 インタビュー4

左は紗(しゃ)織り、右はジャカード織り。紗織りとは、夏着物や僧侶の袈裟などに用いられる、透け感のある織物。古くは、成人男性の証であった、烏帽子にも用いられたものだ。よこ糸にたて糸を通すだけでなく、絡ませて織り上げていく。特殊な織り方のため、非常に高度な技術が要される。

羽田正二 インタビュー5

「織物でもっとも難しいのは、糸のテンション」と羽田さん。とくに極細のシルク糸で織り上げていくのは、至難の技。その日の湿度に合わせた糸の微調整が、職人の腕の見せどころだ。糸を染色する職人、織り機に糸をかける職人など、布が完成するまでには、約10人もの職人が関わっている。

羽田正二 インタビュー6

50センチ幅の布に、約5,000本ものたて糸を用いる。とくに密度の高い布の場合、1日で織れるのは、5メートルほど。手間ひまかけて完成したネクタイを、「父親と色違いでつけたい」とプレゼントに選ぶ女性、「質感がいい」と買っていく男性の顔を見ると、「喜びもひとしお」と羽田さん。

profile

羽田忠織物

創業80年の老舗企業。富士山を間近に望む小さな自社工場の隣に、バイクやポップなインテリアなど羽田さんの好きなものに囲まれた事務所を構えている。オリジナルブランド"'Olu'Olu"では、“渋い大人のためのかわいいスタイル”を提案。ネクタイのほか、蝶ネクタイや紗織りのストールも手がけている。
http://hadachuorimono.jp

牧野 仁
オンラインショップ