名前に“パナマ”とあるが、パナマ帽の発祥は、実はエクアドル。パナマ運河を建設する際に、労働者が愛用していたことから、この名前がついたといわれている。世界中に広まったのは、ルーズベルト大統領がパナマを訪れた際にかぶったことがきっかけだったとも。その頃の日本は、明治時代。当時の紳士たちは、どのように帽子を楽しんでいたのだろうか。
「『西川製帽』が創業したのは、明治27年。当時は、丁稚さんが最初のお給料をもらうと、まず帽子を買いに行ったといいます。パナマ帽は手が届かないので、ハンチングなどを選んでいたとか。つまり、帽子が大人のシンボルだったわけです。昭和になると、イギリス紳士を真似て、冠帽率は90%近くに。終戦後は、とくにパナマ帽が盛んに出回りました。冬はフェルトの帽子、夏はパナマ帽とカンカン帽。それが、紳士の正装だったんです」
ちなみに、パナマ帽とストローハットの違いは素材。パナマ帽は、トキヤ草と呼ばれる植物を用いており、高価だが非常に軽く、涼しいのが特徴。編み目の大きさはまちまちで、細かいほどに軽量で高価になるという。
「すべて手作業でつくられており、うちで扱っているものは、3万円台から30万円台まで。若い人が手軽に手を出せる価格ではありません。それだけに、帽子のなかでも“大人のためのもの”だと思いますね」
帽子職人でありながら、文二郎さんが本格的にパナマ帽を愛用しはじめたのは、50代。オリジナルブランド「BUNJIROW」を立ち上げたのもきっかけだが、「パナマ帽が似合う年齢になった」と感じたのも一因とか。この日も、知的さ漂う冠帽姿を見せてくれた。そんな文二郎さんが考える、パナマ帽の良さとは?
「本当は知的なことなんてないんですが、パナマ帽がエレガントに見せてくれる。レストランに入ったら、ちょっといい席を案内されることも。僕はパナマ帽をかぶると、すっと背筋が伸びて、心の余裕が生まれます。駅で電車を逃しそうになっても、次の電車を待てばいいか…と、ゆったりと構えられるんです」
また、さまざまな装いとマッチするのも、パナマ帽ならではとか。
「ジーンズなどカジュアルな装いでも、パナマ帽子が品よくまとめてくれます。服の色とリボンの色を合わせると、よりお洒落ですね。僕は今日モノトーンの上下なので、帽子もモノトーン。パナマ帽には色のついたものもありますが、最初のひとつならば、白に黒いリボンを合わせたベーシックなものがオススメです。ただ、白いパナマ帽は、盛夏の昼間にかぶるもの。秋口までかぶりたいならば、色の濃い帽子を。そのほかの僕のこだわりは、メガネとヒゲとパナマ帽のコーディネート。この3つは、とてもよく似合うんですよ」
男の格を上げてくれる、パナマ帽。しかし、かぶり慣れないうちは、敷居が高いと感じる人も多いはず。そんなビギナーに向けて、文二郎さんにアドバイスをいただくと…。
「長くかぶっていれば、自然と自分の持ち味のひとつになってくる。僕はもう、帽子がないと落ち着かないぐらいです。身長も、ちょっと得していますね(笑)」
帽子といえば、かぶる際のしぐさも、紳士らしさを演出してくれる。パナマ帽の場合には、どのように扱うのがいいのだろうか。また、帽子職人として思う、帽子の楽しみ方とは?
「パナマ帽は帽子が割れないよう、かぶる部分=クラウンを持ってはいけないんです。かぶるときには、ツバの前後を持ち、まず後ろの位置を決める。その後、前をおろしてきます。ツバで少し、顔に陰影が出る位置にかぶってみてください。
僕は音楽が好きなんですが、貫禄のあるブルースマンたちは、とてもさりげなくパナマ帽をかぶっている。その姿を見ると、本当にかっこいいし、洒落てるなぁと思うんです。“大人の証”のパナマ帽だからこそ、なによりもまず、自信を持ってかぶってみてください。個性の演出を、自らが一番楽しんで欲しいと願っています」