オーダーメード紳士傘ができるまで

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Part 2職人技

制作工程のうち、傘のたたずまいを最も大きく左右するのが、「傘張り」と呼ばれる作業。今回この工程を見せてくれたのは、『前原光榮商店』が厚い信頼を寄せる、樋口完さん。傘張り職人歴60年以上の大ベテランだ。熟練の技と数々の工程を知れば、普段使う“傘”にこだわりたくなること、うけあいだ。

愛情を注げば、自然と手間を惜しまなくなる

樋口さんが「6年修行してやっと一人前になれる」というほど、こまやかな技術を要する作業が多いのが、「傘張り」の工程。とくに『前原光榮商店』の傘づくりは、手間を惜しまないのが特長だ。例えば、「三角裁断」は通常4枚の生地を重ねて行うところ、ズレをなくすため2枚重ねでカット。「ダボ布」「ロクロ巻き」など、安価な傘にはないパーツも、取り付けていく。

「ほとんどが手作業ですし、1本に時間がかかる。1日に12本が限界ですね」と樋口さん。「その分、つくった傘には愛着が湧く。街でさしている人を見たら、自分のだなとわかるんですよ」とも。『前原光榮商店』の傘が、凛としつつも優しさを感じさせるのは、匠の技とともに、温かな心まで注がれているからといえよう。

「前原光榮商店」の傘ができるまで

■ 三角裁断 —シルエットを決める要—

生地に手づくりの木型をあて、ナイフでカットする。木型をよく見ると、二等辺三角形の二辺がわずかにふくらみを帯びている。これは、傘を開いた際、骨と骨の中央にあたる生地部分が、軽くくぼむようにするため。滑らかなカーブを生むよう、職人は試行錯誤して木型を作成するとか。
樋口さんが今までにつくった木型は、100種以上。さらに、刃物により摩耗した木型は、こまめにつくり替えているという。正確さが求められる、重要な工程なのだ。

手元

■ 中縫い —たった2ミリの縫い代で仕上げる—

縫い合わせには、上糸だけで鎖編み状に縫うことができる専用ミシンを用いる。縫い目に伸縮性があり、開閉を行う傘に適しているのだそう。仮止めをせず、わずかな縫い代で仕上げられるのは、熟練した職人だからこそ。慣れないうちは、三角形の先端同士を縫い合わせるのが難関だという。
ちなみに、樋口さん愛用のミシンは、半世紀以上使い続けてきたものだ。「もうミシンが身体の一部のようになっている」と樋口さん。

中縫い

■ ダボ布つけ・つつみ
 —快適さと美しさのために—

「親骨」と「受骨」をつなぐ部分=「ダボ」に、「ダボ布」をつけていく。これは、生地に骨があたるのを避け、ダメージやサビの移りを防ぐため。「つつみ」では、「受骨」が集まる「ロクロ」と呼ばれる場所を、布で巻いていく。開閉時に指が触れる箇所なので、手触りがよいようにとの配慮だ。「ダボ布」と「ロクロ巻き」があることで、内側の見た目も格段にアップする。
ここまで済んだら、やっと骨に傘布を合体。「天紙」をつけ、外側から上部をかがる。

ダボ布つけ・つつみ

■ 先玉つけ・中とじ
 —張りのある傘を目指す—

「親骨」の先端部分に、「先玉」を縫いつけていく。かんたんそうに見えるが、生地を縫い込み過ぎると、シワの原因に。きちんと縫わなければ、すぐに「先玉」が外れてしまう。長年のカンが、ものをいう作業だ。
「先玉」をつけ終えたら、「親骨」1本につき2カ所を縫い付ける「中とじ」を行う。

先玉つけ・中とじ

■ 菊座作成・陣笠つけ
 —仕上げまで入念に—

「菊座」をつくって先端に取り付け、その上から金属製の「陣笠」で固定。ラストはアイロンをかけながら、生地の張りをチェックする。
「新たな生地を使うときは、試作品をつくったのち、一晩置いてもシワやたるみができないかを確認します」と樋口さん。生地の種類により、ベストな手加減が異なるためだ。ベテランといえども、細かな見極めを怠らない。これもまた、至高の傘を生み出すために、不可欠な要素といえそうだ。

菊座作成・陣笠つけ

プレゼント・取材協力

樋口完 Kan Higuchi

1936年生まれ、傘張り職人。東京都江戸川区で『樋口洋傘製作所』を営む。社長が先代の頃から、『前原光榮商店』の傘張りを担っている。

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