樋口さんが「6年修行してやっと一人前になれる」というほど、こまやかな技術を要する作業が多いのが、「傘張り」の工程。とくに『前原光榮商店』の傘づくりは、手間を惜しまないのが特長だ。例えば、「三角裁断」は通常4枚の生地を重ねて行うところ、ズレをなくすため2枚重ねでカット。「ダボ布」「ロクロ巻き」など、安価な傘にはないパーツも、取り付けていく。
「ほとんどが手作業ですし、1本に時間がかかる。1日に12本が限界ですね」と樋口さん。「その分、つくった傘には愛着が湧く。街でさしている人を見たら、自分のだなとわかるんですよ」とも。『前原光榮商店』の傘が、凛としつつも優しさを感じさせるのは、匠の技とともに、温かな心まで注がれているからといえよう。