第1回 ゲスト広尾 オステリア・ルッカ オーナーシェフ桝谷周一郎氏 第4章 モルトはシングル、ブラックティーはブレンドで。

<店主前曰>

料理人は、まずきれい好きでないと務まらない。だから料理の道に入った新人は便所掃除からはじまるのである。人生で大切なことの一つは「自分がこうなりたい」と思う信念である。好きこそものの上手なれだ。だが、食べることが大好きなわたしだが、料理を作ることまでは手が出なかった。そのわけは、整理整頓のセンスがからっきしなかったからである。料理人は整理整頓が上手く、きれい好きでないと話にならない。桝谷周一郎の厨房をみたことが何度もあるが、鍋もフライパンもピカピカだった。これでないと一流のシェフにはなれないのである。もう一つある。それはデザートのケーキが巧みに作れないと一流とは認められない。周一郎のデザートは抜群である。

シマジ シュウちゃんは高輪プリンスのトリアノンでも働いていたんだってね。

桝谷 はい。働いていました。

シマジ 高輪プリンスは柴田錬三郎先生の定宿だったので、よくトリアノンでご馳走になった。タッチャンもシバレン先生にご馳走になった1人だよ。

立木 おれはシマジほど頻繁じゃなかったね。シマジがひどいのは柴田先生から「おまえが代わりにサインしておけ」といわれると、柴田先生そっくりのサインをしちゃうんだよ。先生は「おれのサインにそっくりだ」なんて笑いながら、「悪用するなよ」なんていって目を細めているんだ。おれはみていて呆れたね。

桝谷 シマジさんは文豪のサインを真似られるんですか。それはひどいというより凄いですね。

シマジ おれが何度もいっているように、人生の要諦は尊敬する人の真似から入ることだよ。シュウちゃんだって素敵な先輩の真似をしただろう。そしてその魅力を盗んだだろう。

桝谷 たしかにそうですね。

シマジ でもシュウちゃんの話を聞いていると、先輩たちに可愛がられたんじゃないの。

桝谷 その通りです。いろいろあったけど、節目節目で先輩たちはぼくを助けてくれました。日比谷にあった「こむろ亭」では小室社長からレストランの経営を教えてもらいました。

シマジ シュウちゃんは外国で修行はしたの。

桝谷 イタリアかフランスに行こうと思っていたのですが、北京で知り合いの芸能関係の人が店を出すことになり、そのイタリアンレストランを任されてやっていました。

シマジ どうしてこの店は「ルッカ」って名前をつけたんだい。

桝谷 それは偶然閃いたんです。

シマジ ルッカってイタリアの地名だよね。

桝谷 それはあとで知ったんです。それから友人のアドバイスであたまに「オステリア」とつけたほうがいい、ということになり、「オステリア・ルッカ」になったんです。そして人生の設計通り、25歳のとき、代官山にたった10席の「オステリア・ルッカ」をオープンしたんです。バブルの波に乗って流行りました。でもお店をもう一軒持ったのが失敗して、何千万円の借金を背負うことになったんです。それで代官山のルッカを畳んで、たまたま親父の知り合いだった人が、ここの広尾の店の営業権を持っていたんです。だからいまもその人と共同経営の形を取らせてもらっています。

シマジ 捨てる神がいれば拾う神あり、だね。いま満席状態だろう。

桝谷 まあ、そういうときもたまたまありますが。

野口 今日のデザートはなんですか。

桝谷 おっと、忘れていました。これもシマジさんとの合作です。自家製のアップルパイです。

シマジ 野口さん、ここのアップルパイを食べるとほかのアップルパイは食べられなくなるよ。普通はアップルパイの生地を作るのに 器械で作るところが多いんだが、ここは手作りなんです。ちょうど手打ちそばと器械で打ったそばのようなちがいあるんだが、この味はそれ以上の大きなちがいがあると思うね。付け合わせのアイスクリームとブルーベリーのジャムがこれまた秀逸。熱い、冷たいと感覚を交互に感じながら、味わってください。

桝谷 それに出色なのは、シマジスペシャルの紅茶でしょう。

立木 シマジはどこにでもシマジスペシャルを作っているんだな。

シマジ おれは英国人からじきじきに紅茶のお手前を教わったんだよ。

立木 本当か。

シマジ 日本の高級ティールームに行くとメニューにダージリンとかアッサムとか単品で書いてあって、薄い紅茶を1杯1,500円くらいで飲ませているだろう。あれは大いなるまちがいで、英国人は決して単品では飲まないんだ。最低でも5種類の葉っぱを混ぜて真っ黒な色にして飲んでいる。「モルトはシングルで、ブラックティーはブレンドで」という格言まであるくらいなんだ。よく缶で売っているモーニングティーとかアフタヌーンティーを子細にみるとダージリン、アッサム、アールグレー、キーマンなどが多種類で混交している。それに英国人はラプサン・スーチョンを混ぜるんだ。このラプサン・スーチョンが肝だね。おれがシュウちゃんのお父さんに教えてあげてそれをここで「シマジスペシャル・ブラックティー」としてメニューにも載っている。お父さんの話によれば、結構この味にやみつきになるお客さまが多くいるらしい。

野口 ホントですわ。シマジコースは一番目に載っていますね。

桝谷 お待たせしました。これがうちの自慢のアップルパイです。ブラックティーと一緒に召し上がってください。

野口 なにこれ!?いままで飲んだことがない香りの紅茶ですわ。美味しいです。口のなかがさっぱりします。

シマジ このブラックティーは消化を助けます。アップルパイはどうですか。

野口 新鮮なリンゴを使っていらっしゃるんでしょうね。風味が生きています。美味しい!わたし、こんなに美味しいものがいただけるなら、毎月の専属になりたいですわ。ダメかしら。

シマジ 福原名誉会長に頼んでみるけど、無理かもね。

立木 野口さん、これからの連載をチェックしてその店に行けばいいんじゃない。シマジスペシャルは誰でも食べられるメニューだし、1人で行きにくいなら、おれと行こうか。

野口 それは畏れ多いですわ。友達を誘って参ります。

シマジ タッチャンと2人で食事するのは畏れ多いんじゃなくて、ただ怖いだけでしょう。

立木 野口さん、シマジと2人っきりで食事をするほうが怖いよね。デザート代わりに食べられちゃうかもしれないよ。

シマジ いまはもう歯も弱くなってそんな迫力はありません。それにしてもこのアップルパイの生地が美味いね。

桝谷 これが叩いて叩いて作った手作りのパイなんです。

野口 桝谷シェフの気持ちがこもっています。

シマジ おれは土曜日の8:30pmには毎週このカウンターに座って今日のシマジコースのすべてを愉しみながら、スパイシーハイボールを飲んでいるんですよ。

立木 よく飽きないね。

シマジ 美味いものは何度食べても新しい発見があるんだよ。そしてもっとこうしたらいいかなと思ったときには、シュウちゃんを呼び出してそう頼むんだよ。

立木 こんなうるさいシマジを相手にシェフも大変だね。

桝谷 結局料理人は、お客さまに鍛えられていくんです。いまシマジさんには宿題をお願いしています。シマジコース・パート2を考えていただいているんです。

シマジ そうなんだ。今度は魚介類で決めようかと思案している最中なんだ。

野口 是非シマジコース・パート2のいちばんの客になりたいですね。

桝谷 それでは完成したら、こちらから野口さんに連絡してもいいですか。

野口 どうぞ、お願いします。

桝谷 あっ、そうだ。新宿伊勢丹の本館地下1階でルッカの出店をやるんです。期間は5月8日から5月28日までで、ぼくがいるのは12日と19日の日曜日です。その日はぼくもサロン・ド・シマジに寄らせていただきます。

シマジ シュウちゃん、待っているよ。うちの常連さんを紹介するよ。

野口 わたしも行きますわ。

桝谷 そのときはシマジコースも売らせていただきます。

シマジ シュウちゃん、ありがとう

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今回登場したお店

オステリア ルッカ
東京都渋谷区広尾1-6-8 第2三輪ビル1F
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