第6回 裏神田 自然生村 統括村長 越田裕之氏 第2章 料理人にえこひいきされる人生はバラ色である。

<店主前曰>

エッセイスト&バーマンのマスターは月産100枚以上の連載をこなし、土日祭日は1:00pmから8:00pmまで新宿伊勢丹メンズ館8Fのシガーバー「サロン・ド・シマジ」でシェーカーを振っている。マスターは年齢不詳を装っているが、じつは72歳である。さすがにときにくたびれることもある。しかしそんなとき、いや、それほど疲れがたまっていなくても、マスターは週に1度は恵比寿の自然生村にやってくる。越田村長がいつも日曜日にカウンターの端にマスターの定席を作って待ってくれている。ぐったり疲れたマスターは何も喋らずスパイシーハイボールを伴走にしながら、黙々と自然薯シマジコースを食べる。まず自然薯を皮ごと擦り下ろしたナマトロダンゴを4個食べ、自然薯の刺身を1人前食べ、ムカゴを2人前たいらげる。その間スパイシーハイボールは3杯飲む。するとどんなに疲れがたまっているときでもたちまち元気が蘇り、自然生村を出て真っ直ぐ女のうちへ駆けつける、なんてことはさすがにいまはない。サロン・ド・シマジ本店に直帰して葉巻を一服燻らせて、それから原稿に対峙する。約2時間執筆に励む。そのあとレアなシングルモルトをチビチビやりながら本を読む。いま夢中になって読んでいるのは柏書房刊の『人生なんてそんなものさ カート・ヴォネガットの生涯』という伝記である。すると毎晩12:30amに必ず電話が鳴る。「生きていますか」という愚妻の声にマスターは「ああ、まだ生きているよ」と軽いアクビをしながら応えて、5メートル離れた母屋に帰る。手を洗い歯を磨いてベッドに横になる。読みかけの本を30分も読まないうちに爆睡に落ちる。老齢なれど10:30amまで眠る。しかも1度もトイレに起きたりはしない。これがマスターの得意技である。元気は正義である。元気はよく眠ることから生まれるようだ。

シマジ 越田村長、おれの元気の源は週に1度自然薯を食べていることだと思うんだ。

越田 いつも毎週ご来店いただきありがとうございます。

シマジ いや、おれの自宅と自然生村が指呼の間にあるというのは、おれはまったく恵まれている。なにしろおれの健康管理を担ってくれている場所だからね。タッチャンも食べてみますか。自然薯はビタミンEやビタミンCのほか、カリウム、コンドロイチン、ポリフェノール、ムチン、食物繊維も豊富で、健康効果抜群だよ。ホントに元気になりますよ。

立木 おれはやめておくよ。妙に若返ったりしていまから間違いを犯したくない。おれって凄く敏感だから自然薯が体に入っただけで性格が変わってしまうかもしれない。いまさらシマジのような人格にはなりたくない。お前はいままで取材したすべての店で、まるでオーナー面して振る舞っているが、おれはそうはなりたくないんだ。

シマジ タッチャン、お言葉ですが、料理人にえこひいきされると人生はバラ色になりますよ。混んでいる店だって裏から入れてくれるから、行列に並ぶこともない。

立木 お前には民主主義という思想はないのか。

シマジ 民主主義から生まれたのはスイスの鳩時計だとグレアム・グリーンが書いていますよ。

立木 永吉さん、シマジは変人ですので、あまり影響されないようにね。

永吉 でもお二人の大人の会話が素敵ですね。うっとりして聞いていました。

立木 それが危ない。お宅の福原名誉会長はシマジの被害者同盟の会長なんですよ。おれは腐れ縁だと思って付き合っていますが、シマジは遠くからみていたほうが身のためです。

越田 でも立木先生、ぼくにとってシマジ先生は恩人です。

立木 恩人だって!?それがいちばん危ないことだよ。

越田 だってシマジさんに紹介記事を書いてもらってから、店が繁盛し出したんですから。

立木 それはシマジが書かなくてもそういう潮が満ちてきたんだよ。

越田 いや、お言葉ですが、ホントに閑古鳥が鳴いていたんです。広島から一連隊引き連れて上京したものの、果たしてどうなるかとじつは心配していた矢先だったのです。

シマジ 恵比寿の自然生村はオープンして3年半だったっけ。

越田 そうです。

シマジ それまで越田村長は何をしていたの。

越田 ファミレスの店長を9年やっていました。あの世界は店長といえどもかなりきつく給料はビックリするくらい安いんです。ほとほとくたびれて転職を考えていたときにいまの中村社長に巡り会ったんです。

シマジ なるほど。やっぱり人生は運と縁とセンスだね。 

永吉 運と縁とセンスですか。

シマジ そうです。越田村長に運が向いてきて中村社長に出会う縁が出来て、社長のいうような店を越田村長のセンスでキリモリしたんだろうね。この2号店もいまに繁盛するよ。この連載はかなり影響があるんだよ。

越田 わかっております。立木先生に写真を撮っていただくことが出来て、この2号店の評判もますます上がることでしょう。

立木 シマジ、録音機が映る。隠してくれ。

シマジ 了解。

越田 いよいよムカゴがきました。これは自然薯の子供です。塩ゆでしただけです。

永吉 懐かしいです。子供のとき山に行ってよく採ってきて家で茹でて食べました。

シマジ そうか、永吉さんは鹿児島出身だもの、わかるよね。東京出身だったらムカゴはわからないね。

永吉 美味しいです。

越田 これは皮ごと食べますからポリフェノールがいっぱい摂れて、美肌にはいいですよ。

シマジ この店が面白いのは、越田が村長で田中が副村長、あとの従業員は胸に村民と名札をつけていることだね。

越田 それからお客さまもみな村民です。シマジさんは大村民です。自然生村に入ってくると一瞬異次元に入った錯覚を覚えるはずです。昭和30年代の村のイメージを作り出しているのです。

シマジ まだギスギスしていなかった日本の、のどかなころのイメージだね。これは誰のアイデアだったの。

越田 社長の中村のアイデアです。

立木 よくこんないろんな古い看板をみつけてきたね。

越田 これは広島のコレクターにお願いして譲ってもらったらしいです。

シマジ タッチャンやおれの世代には懐かしさがあるが、若い人たちにも人気があるんだろうね。

越田 レトロっぽい雰囲気が若いお客さまにも好評で、気分が落ち着くようです。

シマジ 母親のお腹のなかでみたような原風景かもね。

立木 いやまだ卵子にも精子にもなっていないころの原風景なんだろう。

シマジ デジャヴだね。どこかでみたような感覚でみているんだろう。

越田 若いお客さまもみなさん懐かしいといってくれますね。

立木 きっと映画や漫画でみているから、自分がみたと錯覚しているんだろう。

永吉 わたしは鹿児島ですから、このイメージを実体験としてみています。ムカゴはこれで1人前ですか。

越田 そうですよ。

永吉 量の多さもレトロっぽいですね。へえ、これをシマジさんは2人前食べるんですか。

シマジ たまに食べられないときは、テイクアウトにしてもらいうちに帰ってシングルモルトのつまみにしています。

永吉 たしかにスパイシーハイボールと相性がいいですね。

越田 美容のスペシャリストにこんなに気に入っていただき今日はうれしいです。

永吉 今度はわたしも女子会できますね。タイトルは”究極の美肌会”でいきましょうか。

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