
撮影:立木義浩
<店主前曰>
グランメゾンといわれる一流レストラン、ロオジエは気鋭のシェフ、オリヴィエ・シェニョン氏をフランスからエグゼクティブシェフとして迎え、2013年10月、新しい資生堂銀座ビルのオープンとともに、リニューアルオープンした。新しいロオジエのデザインは、世界的デザイナー、ピエール=イヴ・ロション氏が手がけた。ロション氏はロンドンのザ サヴォイや上海のザ・ペニンシュラなど世界の名だたるホテルや高級レストランをデザインして高い評価を得ている。ロオジエの今回の内装には、資生堂に対する彼のイメージが隈無く発揮されている。モダンでありながらどこかクラシックで、ピュアでシンプルでありながら威厳をたたえた重厚感がある。それでいてガラスと光の透明感ある演出が堪らない。そしてメインダイニングの9メートルにも及ぶ吹き抜けのダイナミックさは、開放感とくつろぎに満ちている。
これだけのラグジュアリーなグランメゾンを誕生させた立役者は、1986年にエグゼクティブシェフに就任した、ジャック・ボリー氏である。彼の才能と努力なしにはそれは語れまい。そして福原義春名誉会長の強力なサポートがあってのことである。だからロオジエは世界最高、唯一無二のレストランと絶賛されているのだ。
シマジ 今日は世界的なグランメゾン、ロオジエに合わせて資生堂からは執行役員の関根近子さんにきていただきました。
ボリー 最高です。ラグジュアリーなロオジエの雰囲気に関根さんはよくお似合いです。
関根 みなさんであまりわたしにプレッシャーをかけないでください。
立木 背も高いですね。
関根 これがわたしの子供のときからのコンプレックスだったのです。母にいつも猫背にならないように注意されました。
シマジ 資生堂の丹頂鶴という感じですかね。
関根 やめてください。いまでも上背のことは気になっているんですから。
シマジ わたしは関根さんを徹底的に取材したNHKのドキュメント番組をちゃんとみているのですよ。
関根 恥ずかしいですわ。あれは2年も前のことです。
シマジ いろいろ感動しましたが、山形県の新庄に旦那さんと息子さんを残して単身東京で一人住まいをしながら仕事している姿には、胸が打たれるものがありました。
関根 畏れ入ります。
シマジ 一人住まいのマンションのなかまでカメラを入れさせたのには驚きました。
関根 そうですか。
シマジ しかも関根さん自ら、スッピンからバリッと化粧するまでの過程を撮影させたのにも驚き感動しました。
立木 それは関根さんの自信でしょう。
関根 いえいえ、資生堂の化粧品がどんなにいいか、証明したかっただけです。
シマジ 60歳にしてこんなに美しいのは資生堂の大宣伝になりますね。
関根 いえいえ、シマジさんの年齢不詳の男の魅力のほうがSHISEIDO MENの大宣伝になっております。
シマジ でもいま2万人以上のビューティーコンサルタント(BC)の頂点に立っているのですから関根さんは凄いです。オーラを感じます。若いBCは、自分も関根執行役員を目指そうと思うでしょうね。本当はどの会社にもそういう存在が必要なのです。
関根 ありがとうございます。お洒落なシマジさんに褒められるなんてこんな嬉しいことはありません。
立木 一介の若いBCからここまで登り詰めるには、一冊本を書けるくらいの物語があったんだろうね。
関根 いえいえ、ただただみなさまに支えられてここまできたのです。今日はわたくしのことはこれくらいにして、ボリーさんやシェニョンシェフのお話を聞きましょうよ。お店は大変繁盛していますね。わたしは内覧会のとき以来、ロオジエは今日で2回目です。
シマジ 福原名誉会長でも予約がなかなか取れないとこぼしていましたからそうでしょうね。
ボリー お陰さまで大盛況でございます。ロオジエはパリの一流レストランと同じレベルの最高級の食材を、国内外から調達し、素晴らしい料理に昇華させているのです。
シマジ それは資生堂という文化レベルの高い企業のバックアップがなければ成り立たないことでもあるしょう。
ボリー たしかにその通りです。
シマジ ここの定価表をみてもそう思います。だってランチコースが一人10,000円と14,000円で、ディナーコースは22,000円、28,000円、38,000円ですものね。ワインは別にしてもリーズナブルです。しかも美味い。わたしは2回ランチコースとディナーコースをいただきましたが感動しました。そうだ、ここにボリーさんがシェフとしてロオジエを引退するにあたって福原名誉会長が書かれた資生堂のパンフレットがあります。これにこう書かれています。
「ジャック・ボリー氏をシェフに迎える前にも『ロオジエ』はあったが、このグランドメゾンの名を、パリにまで轟かせたのはまさしく彼の功績である。厨房の設備や広さ、絵画や美術品、生花などの装飾、客席の数より多いスタッフなど、ロオジエは、世界中のシェフが羨む、レストランのひとつの理想形であるといえよう。そのすべてをディレクションする彼の才能と努力は尊敬に値する。
経営者の視点から見ると、ロオジエは十数年かけて資生堂の数ある象徴のひとつとなった。こうしたレストランのオーナーであることは、金に飽かせてできることではない。『ロオジエというブランドを持っている会社』ということが、資生堂全体のイメージにどれだけ寄与しているかということはパリの新聞記事になっている。」
ボリー フジタさん、いやシマジさん、このようなパンフレットまで読んでいただきありがとうございます。
シマジ わたしは福原さんが書かれたものは何でも読んでいます。ボリーさんと福原さんの相性がよかったんでしょうね。リッチな美意識で共鳴し合ったからこそロオジエというグランメゾンが生まれたんでしょう。
ボリー たしか1999年でしたか、並木通りに面する資生堂本社ビルにロオジエが移転する際、日本の大手建設会社が設計を手がけたんですが、わたしはその設計図をひと目みるや、「これはフランス料理を供する空間の設計ではない」と経営陣に直訴したんです。「それならあなたの好きなようにやってください」と白紙委任状を手に入れて、フランス人の建築家とアールデコを基調に店作りを行ったんです。当時会長だった福原さんが誰よりも先にわたしに感謝の言葉をかけてくださり「やっと完成しましたね。さあ、ここは、もうあなたのレストランですよ」といって、わたしに建物の鍵を渡してくれました。あのときの感動は一生忘れることは出来ません。
シマジ ボリーさんは妥協を許さない職人気質の一流のシェフなのです。2012年11月、わたしのサロン・ド・シマジが伊勢丹新宿店にオープンしてほどなくして、あなたの名を冠したレストラン「1ル サロン ジャック・ボリー」がオープンしましたね。これも何かのご縁です。さっそくわたしはボリーさんのお得意の料理、「オマールのテリーヌ・ソースコライユ」や「ピエ・ド・コション」などを食べに行きました。懐かしい味でした。
ボリー レオナール、ありがとう。いや、ムッシュ・シマジ、ホントにありがとう。
シマジ タッチャン、今日はいつになく無口だね。
立木 当たり前だろう。お前がこんなヘンテコな変装しているからいつもの調子が出ないんだ。
関根 あっははは、でもレオナール・フジタもとても素敵です。