
撮影:立木義浩
<店主前曰>
「浅井」は日本料理店だが、雰囲気は洋モノっぽい。だから料理も和食でありながらフレンチの要素が入っていたりする。器も和物というより西洋の凝った器が使われている。ロイヤルコペンハーゲンの器はもちろんのこと、ギリシャの「GlassStudio」というお洒落なガラスの器が使われている。
シマジ: このガラスのお皿は美しいね。じつに洒落ている。
浅井: 「GlassStudio」のガラスの器はまだ新しい工房の製品です。ギリシャのアレキサンダー大王の生誕地、テッサロニキ郊外でアナとバジリスというギリシャ人夫婦によって制作されているものです。1日たった4個しか生産されないとても小さなガラス工房です。
鈴木: とっても可愛いです。いつごろ出来た工房なのでしょうか
浅井: 「GlassStudio」の会社の設立は1992年と聞いています。
鈴木: あまりみたことがないですね。
浅井: まだ世界の有名レストランやホテルで使われている段階ですから、一般にはそんなに出回っていません。むしろいまはプロフェッショナルキッチンで使われていますね。
鈴木: 「GlassStudio」は東京にもお店があるのですか。
浅井: 東京にはありません。京都には専門店がありますが。あっ、そうだ。たしか伊勢丹新宿店に最近入ったようですよ。
シマジ: さすがはわれらが伊勢丹だね。
鈴木: わたし、この「GlassStudio」をシリーズで揃えてみようかしら。
立木: うん、それはいい考えだね。みんなが持っていないモノを揃えるのは賢いし、飽きないと思うよ。
鈴木: わたし、必ず女子会で近々ここに参ります。お料理だけでなくお店のなかもセンスがいいですね。
シマジ: ここは8人の女子会でもOKですよ。料理はコースで毎日変わるんですが、1人12,000円でこの味ですから格安です。
立木: シマジ、おれたちも男子会をここでしようよ。
シマジ: いいかもね。タッチャンの誕生日会をここでどうだろう。
立木: お前はおれの誕生日をいつだと思っているんだ。
シマジ: 知ってますよ。10月25日、ピカソが同じ日に生まれている。
立木: その通りだけど10月まで待たせるのか。じゃあ、シマジの誕生日はどうだ。
シマジ: おれの誕生日は4月7日でもう過ぎてしまった。まあ、理由は後から貨車でやってくるものだとして、とにかく早くやろう。
鈴木: この椅子も座り心地がいいですね。
浅井: 嬉しいです。これは「よねむら」の大将からの開店祝いの贈り物です。わたしの頭のなかで最後まで椅子が決まっていなかったのです。そこへ「よねむら」のオーナーシェフから電話があって「浅井、なにか困ったことはないか」と訊かれたんです。「じつは椅子がまだ決まらないんです」と正直にいいますと「それなら椅子はおれに任せな」といって送られてきたんです。
鈴木: 重厚にみえていてセンスがいいです。
立木: ここのアンプは真空管なんだね。だから音が柔らかいんだ。
浅井: これは父親からのプレゼントです。趣味でオーディオを組み立てているんです。
シマジ: 遺伝的に手先が器用なんだね。
浅井: そうかもしれませんね。
鈴木: さっきから飲んでいるコーヒーが美味しいですね。これはどちらのコーヒーなんですか。
浅井: これはシマジさんにご紹介していただきましたミカフェートのコーヒーです。
鈴木: えっ、あの川島さんのところのコーヒーを入れているんですか。美味しいはずです。コーヒーハンターの川島さんには以前SHISEIDO MENの連載に出ていただきました。
シマジ: そうだったね。コーヒーは川島、紅茶はシマジなんですよ。
鈴木: それはどういうことですか。
シマジ: わたしは紅茶を長いこと研究したんです。その結果、いまではサロン・ド・シマジ・ブランドが完成し、伊勢丹のサロン・ド・シマジで発売しています。浅井、パッケージを鈴木さんにみせてあげてくれる。
浅井: はい、これです。
鈴木: これまたお洒落なパッケージですね。この銀色にスカイブルーが合いますね。「上質な紅茶はひとつの知る悲しみである」と書いてありますね。それから「シングルモルトはシングルで、紅茶はブレンドで-----SHIMAJI BLEND」と書いてあります。あれ、裏側に切手を貼ると郵便として出せるようにデザインされているんですね。すべてシマジさん自ら作ったものなんですか。
シマジ: その通りです。センスというのはすべてに通じるものなのです。
立木: それがシマジから郵便で送られてきたんだが、文句のひとつもいってやろうと飲んでみると、じつにいい香りと味がした。
鈴木: 立木先生にそういわれると飲んでみたくなりました。
浅井: どうぞ、どうぞ。でもこれは10分間蒸らさないと飲めませんがいいですか。
鈴木: どうしてそんなに時間がかかるのですか。
浅井: それはシマジさんに説明してもらいましょうか。
シマジ: この紅茶は5種類の茶葉をブレンドしたものです。10分蒸らさないとポットのなかで完璧にジャンピングしないんです。
鈴木: このネットに入ったままポットに入れるんですか。
シマジ: ちがいます。そのネットをハサミで切って茶葉だけ入れるのです。ブレンドされていますから葉っぱの開き方にタイムラグが生じるのです。浅井、鈴木さんにシマジブレンドを淹れて差し上げて。
浅井: かしこまりました。10分間お待ちください。
鈴木: はい、何分でも待ちます。
シマジ: ここではコースに含まれていますからタダ同然ですが、伊勢丹のサロン・ド・シマジでは川島のコーヒーが一杯2,000円で、シマジの紅茶は1,500円で売っています。シングルモルトは一杯800円ですがね。
立木: それらすべて税抜きだろう。
シマジ: そうでした。タッチャン、いろいろ心配してくれてありがとうございます。
立木: お前はあきんどにはなれないな。まず金勘定が出来ない。
シマジ: おれは伊勢丹のバーで、お金と水は触らない、という条件でバーマンを引き受けたんだ。
立木: まあ71歳からバーマンになったんだからそれは許そう。
シマジ: あっ、そうだ。「あきんど」で思い出したが、あきんどは「飽きない」からきているらしい。お客さまを飽きさせないということだ。その伝でいえば、おれは立派なあきんどだね。あきんどは商人と漢字で書く。
浅井: 鈴木さん、シマジブレンドの紅茶をどうぞ。
鈴木: 香りがスゴイですね。うん、柑橘系の香りがする。うーん、美味しいです。いままで飲んだことのない紅茶です。シマジさん、これはどういう種類がブレンドされているんですか。
シマジ: それは鈴木さんといえども企業秘密ですべてはいえませんが、ラプサンスーチョンで全体の味を締めています。
鈴木: なるほど、これはイケますね。このパックはおいくらするんですか。
シマジ: ここでは売っていませんが伊勢丹のサロン・ド・シマジで売っています。税抜きでワンパック3,000円です。ワンパックには10袋入っています。だから一袋で3杯としてワンパックで30杯飲めることになっています。
立木: よく出来ました。おれ、心配したよ。
鈴木: どうして心配されるんですか。
立木: シマジはゴルフのスコア以上の大きな数字は数えられない男なの。
鈴木: ステキ!です。