
撮影:立木義浩
<店主前曰>
さまざまなチョコレートと蒸留酒とをマリアージュして愉しむことのできるオーセンティックバー「ドンナ・セルヴァーティカ」は、2009年11月28日にオープンした。ちなみに2008年の11月28日は、古屋敷バーマンが長年働いた建築設計事務所を退職した日であった。その後1年間の準備期間を経て、満を持して店をオープンさせたのである。じつはそのオープンの日は古屋敷バーマンの記念すべき50歳の誕生日でもあった。「開店の日はどこか動かしがたい日に決めたかったんです」と古屋敷バーマンは胸を張った。
古屋敷:では次はうちの店名にもなっている「ドンナ・セルヴァーティカ」を飲んでみてください。これは「ロマーノ・レーヴィ」のグラッパに描かれている女の子の呼称です。「野生の女の子」という意味です。トワイスアップでお出ししましょう。
立木:それじゃ、まずこっちに回してくれない?撮影しちゃおう。
古屋敷:わかりました。ではどうぞ。これぞ天使のグラッパといわれているものです。
シマジ:津田さん、どうぞ。わたしはタッチャンの撮影を待ってから飲みますから。
津田:ありがとうございます。うわ、美味しい!
古屋敷:この天使のグラッパに合わせるチョコレートは、タナリヴァ・ラクテ、ヴァローナのミルクチョコレートです。
シマジ:野生の女の子が口に入れたミルクチョコレートを愉しむ感じでしょうか。
古屋敷:そうです。ミルクチョコレートを口に入れておいて、「野生の女の子」を飲んでください。これぞ天使のマリアージュです。
立木:はい、シマジ、撮影は終わった。ゆっくり飲んでくれ。
シマジ:うん、いつも飲んでいるシングルモルトとはまったくちがうタイプの飲み物だけど、香りがとてもフルーティーで美味いですね。またこの味にミルクチョコレートがよく合っています。
古屋敷:よかった。それでは最後の一杯は、シマジさんのバー「サロン・ド・シマジ」で売られている紅茶を使った飲み物にしました。はじめにタリスカー10年を紅茶カップのなかに少量入れて、その上から10分間よく蒸らした「シマジブレンド」をこのように注ぎます。するとタリスカーとシマジブレンドが絶妙なハーモニーを醸し出してくれるんです。これにはヴァローナのホワイトチョコレートのイボワールをマリアージュしてみてください。
立木:なになに、シマジは自分でブレンドした紅茶も伊勢丹で売っているのか。
シマジ:はい。紅茶はあるとき英国人に徹底的に教わったんです。このシマジブレンドは大人気で、よくバーでも売れていますが、古屋敷さん、ちょっとそのパッケージを取ってくださいませんか。
古屋敷:はい、はい。
シマジ:ここを見てください。210円の切手を貼れば全国どこへでも送れるようになっています。
立木:でもこの大きさだとポストに投函するのは無理じゃないの。
シマジ:さすがにタッチャンは鋭い。これは郵便局の窓口から発送してください。
津田:フルーティーな香りが凄く立っています。飲んでいいでしょうか。
古屋敷:どうぞ、どうぞ。立木先生が撮影するためにもう1杯作ってありますから、ご安心ください。
シマジ:日本人はダージリンとかアッサムを単品で飲む習慣がありますが、英国人は最低5種類の紅茶の葉をブレンドして飲むようです。そして最後にラプサンスーチョンを少し入れてアクセントをつけるんです。
津田:これは美味しいです。大人が飲む紅茶ですね。
古屋敷:この飲み方はうちでも人気がありまして、ここの大家さんもよくこれを飲んで行かれます。
シマジ:うん、タリスカー10年を入れることで、おれのブレンドした紅茶がますます美味しくなったような気がする。これは古屋敷バーマンの偉大なる発明ですね。よくあなたはサロン・ド・シマジに来てくれるけど、この発明は凄い。うちでもこれをメニューに入れて売ろうかしら。
古屋敷:どうぞやってみてください。
立木:はい、撮影終了だ。カルバドスをリンゴの炭酸ジュースで割った最初の1杯をおれにも飲ませてくれる?
古屋敷:お疲れさまでした。ではただいまスパークリング・カルバドスを作ります。・・・お待たせしました。こちらをどうぞ。
立木:うん、これははじめて飲んだが喉越しが最高だね。もう一杯もらおうかな。これは女性のお客にも人気があるだろうね。
古屋敷:ありがとうございます。
シマジ:こんなに褒められて、一級建築士の仕事を辞めてバーマンになった甲斐があったね。さきほどから見ていても、古屋敷バーマンの笑顔がじつにいいね。
古屋敷:ありがとうございます。
立木:今日はあなたの笑顔を沢山撮ったからね。
古屋敷:お恥ずかしい。
シマジ:でもまたどうして建築の仕事を辞めてバーマンになったんですか。
古屋敷:40代前半までは建築設計に集中して仕事をしてきました。不満もなくほかになにか仕事をしようという気持ちもありませんでした。ところが45歳を過ぎるころから、50歳を目前にしていままで自分が蓄積してきた経験を発信出来るスペースを持ちたいと思うようになったんです。お酒が好きだったということも大きな要因でしたね。
シマジ:たしかにバーマンという職業はフェイス・トゥ・フェイスの商売だから、バーマンの人柄がもろに出ますよね。
古屋敷:そうなんです。そこが面白いんですね。シマジさんも毎週末あんなに長い時間カウンターに立っておられて実際どう思われているんですか。
シマジ:わたしはにわかバーマンで、グラスも洗わなければお金にも触らない横着な仕事をしているんですが、毎回どんなかたがお客さまとしてやってくるのか、それが愉しみですね。「バーカウンターは人生の勉強机である」と、うちのコースターにも書いてありますが、はじめはわたしがバーカウンターの先生だと傲慢に思っていました。が、いまではお客さまのほうが先生に見えてきましたね。
立木:ホントか。それはシマジも人間として少しは成長したということだよ。じゃあ、おれにもシマジブレンドの紅茶にタリスカーを入れたのを飲ませてくれる?
古屋敷:畏まりました。これはシマジブレンドの上からタリスカー10年を注ぐと凄みが出てこないのです。はじめにカップのなかに少量のタリスカー10年を入れて、そのあとでシマジブレンドを注いでこそ美味しくなるんです。またいろいろなシングルモルトで試したんですが、やはりタリスカー10年が最高です。多分タリスカーのほのかなピーティーさがシマジブレンドの芳醇な味わいを引き立ててくれるんでしょうか。完璧に出来ました。どうぞ。
立木:うん、お世辞じゃなくてたしかに美味い。体が温まってくるのがよくわかる。
津田:あっ、そうだ。古屋敷さんのお肌チェックをまだしていませんでした。
シマジ:そうだったね。それじゃ、いまからやればいいですよ。
津田:古屋敷さん、そこのテーブルまでお越しくださいませんか。
古屋敷:はい、はい。
津田:この季節にしては古屋敷さんのお肌はしっとりしていますね。結果が出ました。Dでした。
シマジ:乾燥する時期にDは凄いですよ。あとで津田さんからいただくSHISEIDO MENのセットを明日から使えばCとかBにいけるかもね。
古屋敷:ホントですか。いままでなにもつけたことがないですが、さっそく明日から使わせていただきます。