
撮影:立木義浩
<店主前曰>
料理に重要なことはセンスである。「ステーキそらしお」では名物のガーリックライスひとつをとっても、わざわざ一度お櫃に移してから茶碗に盛るというところが、橋本エグゼクティブシェフの優雅なセンスなのだろう。店はアークヒルズ仙石山森タワーの1階にある。これは橋本シェフというよりも高橋治之オーナーの趣味なのだろう。むかしから一流の店にはきちんとしたパトロンがついているものである。たとえばロオジエには資生堂のバックアップがあり、いまや資生堂のシンボルといえるほどの店になった。「ステーキそらしお」と「ソラシオ汐留」は高橋オーナーが全面的にバックアップしている。ほかの仕事で稼いだ資金を惜しみなくこの2軒に注ぎ込んでいるのだろう。料理は立派な文化である。その文化を支えているのが高橋治之であり、橋本聡なのである。
シマジ:高橋はよくここにくるの。
橋本:よくいらっしゃいます。大勢のお客さまと一緒のときもあれば、一人のときもあります。
シマジ:わかるね。究極、美味い食事を一人で愉しむためにはレストランのオーナーになるのがいちばんだろうね。
立木:なるほど、シマジみたいにいろんな店に出入りしてオーナー面して喰っているのは例外なんだ。
加藤:どうしてシマジさんのように、そのようなことが簡単に出来るんでしょうか。
橋本:わたしが思うに、料理人からシマジさんを拝見すると、この方はいままでずいぶんいろいろな美味いものを食べてきたんだろうなと直感的にわかるんです。そこで料理人としては、よし、それならこの人の舌をちょっとビックリさせてやろうじゃないかという闘志が自然に湧いてくるんでしょうね。
加藤:一見してこの方は美食家だとどうしてわかるんですか?
橋本:それはわかりますよ。シマジさんのお顔の肌の艶をみればわかります。
シマジ:悪い、橋本。これはSHISEIDO MENの威力に依るものだと思うんだ。
加藤:シマジさんはSHISEIDO MENを使って何年になりますか。
シマジ:確か11年目に入ったところでしょうか。ヨーロッパの男性は肌の手入れに余念がないですが、日本人は、この連載でかなり浸透してきたとはいえ、まだまだだと思いますね。ここでかなりのイケメンシェフやバーマンと座談会をやっていますが、生まれてこのかた、肌の手入れなどなにもしたことがないという男性がホントに多いですからね。
加藤:連載を読んでいていつもすごいなあと思うのは、立木先生が撮影なさった写真です。男性はみんなイケメンに、そして資生堂の女性はみんな美人に写っています。
立木:いちばん苦労するのはシマジの顔のシミだね。
シマジ:これはゴルフ焼けの結果こうなってしまったんです。でもタッチャン、ご心配なく。いま東京逓信病院の皮膚科部長の江藤隆史先生のところに通っているんです。3ヶ月もしたらピカピカになりますからね。お待ちください。
立木:またえこひいきしてもらう名医をみつけたんだな。
シマジ:そうです。江藤先生はわたしの糖尿病の主治医、久武朋子先生のご紹介でお会いしたんですが、お会いした瞬間にビビッと男同士の友情が生まれました。驚いたことに、江藤先生のお顔は週刊プレイボーイ時代にわたしの可愛い部下だった田中知二そっくりだったんですよ。
立木:たしかに人間は会うべくして会う人っているからね。
橋本:いつもシマジさんが書いていますね、人生は運と縁だと。今回もそれですか。
シマジ:そうですね。タッチャンも高橋治之も田中知二も江藤先生も運と縁で巡り会ったんでしょう。会わない人は縁がなかったんだと思います。
橋本:たしかに、常連のお客さまと店との関係にも、運と縁を感じますね。
シマジ:橋本シェフが高橋オーナーの元で料理を作るようになったのも運と縁でしょう。高橋に引き抜かれて働くようになり、何年になるの?
橋本:お陰さまで6年目に入りました。
シマジ:わたしは高橋と知り合ってもう46、7年になるかな。
加藤:立木先生とシマジさんのお付き合いは何年になるんですか。
シマジ:タッチャンと知り合ってからですか。そうですね、40年は過ぎていますね。
加藤:いまでもお二人でこうして一緒にお仕事をなさっているのは素敵ですね。
立木:シマジはおれがついていないと危なっかしくて仕方がないんだ。
シマジ:タッチャンはわたしの素敵な兄貴分です。毎週水曜日に更新される現代ビジネス「Nespresso Break Time @Cafe de Shimaji」の今月の座談会を読んでください。あの座談会はタッチャンがいなかったら成立しませんでしたね。
立木:だってシマジは黒澤明監督の撮影現場に一度も足を運んでいないんだよ。編集者として最低だよね。それでいて最近評判になった時代劇映画「蜩ノ記」の監督、小泉堯史さんと、撮影を担当した上田正治さんを呼んで、いきなり座談会をやってしまうんだからね。おれは黒澤さんの撮影現場には何度も足を運んで撮影して、写真集も何冊か作った関係から、お二人のことはよく知っていたんだ。だからその日はシマジがいつになく寡黙で、おれは写真は撮るは、お二人とおしゃべりするはで大変だったんだよ。
シマジ:本当にあのときは助かりました。感謝しています。
立木:ホントか。忘れるなよ。
シマジ:一生忘れません。
加藤:男性同士が助けたり助けられたりする関係っていいですね。
立木:加藤さん、言っておきますが、おれはシマジに助けられたことなんて一度もありませんよ。おれがシマジを助けてやるばかりなんです。
橋本:シマジさんの著作のタイトルに「アカの他人の七光り」というのがありますが、シマジさんは立木先生の七光りで生きているんですよね。
シマジ:橋本、なかなか鋭いことを言うじゃないの。だから橋本はオーナーの高橋に可愛がられているんだね。
加藤:「親の七光り」という言葉は知っていますが、「アカの他人の七光り」っていう言葉があるんですか。
立木:そんなものはシマジの造語に決まっているじゃないの。シマジの群を抜いた才能は人たらしなんだ。褒め倒されて気持ちよくなった多くの人がシマジの言うことを聞いてやって、その結果どんなに迷惑してきたことか。
シマジ:本当に申し訳ありませんね。
立木:実際、シマジとする仕事というのは金にはならない。だがまあ、面白いけどね。じつはね、シマジが編集者を引退したとき、おれはホッとしていたんだ。それがいまや毎月2度、下手をすると3度も、顔を合わせて仕事をしているんだよ。
加藤:立木先生、資生堂のこの連載をこれからもよろしくお願いします。
シマジ:加藤さん、心配しなくていいですよ。男同士が相手に惚れこむようになると、なにか一緒に仕事をしたくなるものなんですよ。
加藤:そういう意味では、橋本シェフとオーナーの高橋さんの関係もまた素敵ですね。
橋本:ありがとうございます。加藤さん、これからも是非いらしてください。えこひいきさせていただきますから。
加藤:今日のステーキは本当に美味しかったです。
橋本:うちでは黒毛和牛のA5ランクの肉を使っていますし、遠赤外線でじっくり焼いていますから、脂っぽくないんですよ。
シマジ:そのときはこのタリスカー10年でスパイシーハイボールを飲んでください。
立木:これはシマジの私物なんだろう。
シマジ:加藤さんにはタダで飲んでもらって構いませんので。
加藤:ありがとうございます。