
撮影:立木義浩
<店主前曰>
いま注目を浴びている料理人山田チカラの料理の真髄は、茶道の世界に繋がるものがあるようだ。「削ぎ落とす」「潔さ」などいわゆるミニマリズムの世界を、彼は料理を通じて模索している。店舗「山田チカラ」は靴を脱いで上がるスタイルで、別に茶室も備えられている。そして山田チカラ創作料理の盛りつけは、とりわけ清麗である。JALの国際線ビジネスクラスの機内食も山田が担当しているという。
六角:資生堂の六角と申します。よろしくお願いいたします。
シマジ:六角さん、今日はランチを抜いてきましたか。
六角:はい。わたしはこの連載の大ファンですので、美味しいお料理をいただくために準備万端で参りました。とくに今日は有名な「山田チカラ」さんのお料理ですから。
山田:ありがとうございます。頑張ります。
立木:その前に肌チェックをするんだろう。
六角:そうです。まず最初にお肌チェックをいたしましょう。生年月日を教えてください。山田さんは何年のお生まれですか。
山田:1971年5月の生まれで、44歳になったばかりです。
シマジ:いちばん脂が乗っているころですね。
山田:シマジさんが44歳のころはなにをなさっていましたか。
シマジ:週刊プレイボーイの編集長をやっていましたね。
立木:そのころすでにシマジはおれをこき使っていたんだよ。
山田:長い仲なんですね。
立木:おれたちの話はいいとして、山田チカラの話を聞こうじゃないの。ここはなかなか雰囲気のある店だね。
六角:山田さんのお肌チェックの結果が出ました、なんとB肌でした。
シマジ:それは凄いね。いままでどんな男性化粧品を使っていたんですか。
山田:なにも使ったことはありません。
シマジ:それでは明日の朝からSHISEIDO MENを使ってみてください。山田さんならAも夢ではないですよ。
立木:『オー・ギャマン・ド・トキオ』の木下シェフもBではなかったか。
シマジ:さすがはタッチャン、よく覚えていますね。
山田:肌判定はAからどこまであるんですか。
六角:AからFまでのレベルがあります。E肌の方が多いですね。毎日SHISEIDO MENを使っていただいていると、だいたい3ヶ月くらいで効果がメキメキ出てきてD、Cと上がっていきますが、なかなかB肌に到達するには時間がかかりますね。それを山田さんはいきなりB肌ですからね。
山田:もしもAを獲得したら、表彰状でもいただけるんでしょうか。
シマジ:表彰状よりも実のあるものを差し上げます。
山田:それはなんですか。
シマジ:資生堂名誉会長の福原義春さんとランチを一緒に愉しむ時間を差し上げますよ。
山田:それは凄いご褒美ですね。
シマジ:しかも、福原さんのオゴリなんですよ。
山田:素敵ですね。頑張ってみます。
立木:そのときはおれが記念撮影に呼ばれることになっているんでよろしくね。
山田:えっ、立木先生もいらしていただけるんですか。ますます頑張らねば。
シマジ:山田シェフ、そろそろ今日の一品目を作っていただけますか。
山田:でははじめに「バラのマティーニ」をお出ししましょうか。
シマジ:えっ、「バラのマティーニ」ですか。飲んだことがありませんね。
山田:そうでしたか。では立木先生の撮影用と六角さんとシマジさんの分をお作りしましょう。
立木:気が利いているね。撮ったらおれも飲んでいいんだね。
山田:どうぞ、どうぞ。
シマジ:作る前にレシピを教えてください。
山田:ブルガリア産のローズウォーター、それにウォッカを使います。ジンですと折角のバラの香りが消えてしまうので、敢えてウォッカを使うのです。それにガムシロップを少々と、バラの香りを引き立たせるためにライチリキュールを入れます。
シマジ:それらをミキシングするんですね。
山田:そうです。うちではこれを懐石料理の食前酒としてお出ししています。さあどうぞ。
シマジ:普通はオリーブの実がマティーニのなかに入っていますが、ここでは別皿にオリーブが添えてあるんですね。
山田:そのオリーブを食べてみてください。
シマジ:うん、まったくコリコリしませんね。
山田:それはアルギン酸ナトリウムと塩化カリウムで加工しているためなんです。
シマジ:これは驚きです。柔らかくて美味しいですね。
山田:美しい女性を連れていらして、これで驚かしている男性のお客さまもいらっしゃいます。
立木:なるほどね。驚かせるのは最高のプレゼントだものね。
立木:美しいカクテルだね。撮り甲斐がある。
六角:美味しいです。この味も驚きですね。
山田:ありがとうございます。次の料理はいわゆる「お造り」です。
六角:きれいな盛りつけですね。
立木:お嬢、ちょっとおじさんに貸してくれる?撮影したらすぐ戻すからね。
六角:存じ上げておりますので、お先にどうぞ。
シマジ:このなかに入っている食材はなんですか。
山田:生タコ、マグロ、サイマキエビ、サヨリ、ホタテ、タイ、それにプチトマトとキュウリが入っています。その上に醤油のヌーベを添えています。ヌーベとはスペイン語で雲という意味ですが、醤油のヌーベと同様のものが京料理でもむかしから使われていました。生醤油を使うよりも料理の美しさを損なわないイメージがあったんでしょう。また醤油にゼラチンを加えてふわっと固めることが、舞妓さんの着物を汚さないためにも好都合だったようです。
シマジ:ヌーベは雲ですか。ロマンティックな響きがありますね。
立木:はい、お嬢、召し上がれ。
六角:ありがとうございます。さっぱりしていて美味しいです。
山田:これは1.5人分の量がありますから、シマジさんもどうぞ召し上がってみてください。
シマジ:醤油まで料理しているんですね。
山田:次は「キノア」というペルー産の穀物です。日本でいうアワですか。マイナス196度の液体窒素で瞬間冷却した粉末状のフォアグラに、温かいコンソメスープを上からかけています。いつも思っているんですが、西洋料理はお皿の上で完成しますが、和食は口のなかで完成するんではないでしょうか。
シマジ:それは凄い観察力ですね。そう言われてみるとそうかもしれません。
立木:「キノア」をこっちに貸してくれる。
シマジ:了解。
立木:お嬢、どうぞ。
六角:もう撮ったのですか。
立木:光より速く撮らないとシマジに怒られるんです。
山田:今日の最後の料理はうちの定番の「スペイン風オムレツ」です。材料は10種類入っていて、上からサマートリュフがかかっています。
シマジ:いまトリュフは一年中あるんですね。
山田:北半球のヨーロッパで採れないときは、南半球のオーストラリアで採れるんです。
立木:では撮ってしまうね。お嬢はそのあとゆっくり食べてね。
六角:光より速い撮影の技でお願いします。トリュフはやっぱり豚が探すのですか。
山田:地中のトリュフを豚が探し出すんです。
立木:はい、お嬢。
六角:わあ、嬉しい。どれもこれも美味しいです。全部生まれてはじめて食べたものばかりです。わたし、明日からどうしよう。
シマジ:お金を貯めて「山田チカラ」にくることですね。