
撮影:立木義浩
<店主前曰>
ちょうど1年前、六本木のアークヒルズにある「格之進F」で、千葉社長に門崎熟成肉のローストビーフをご馳走になったことがある。五島列島で採れたフレッシュな岩牡蠣をのせた、いわゆる生オイスターソースの味は格別であった。岩牡蠣の海のアミノ酸と門崎熟成肉の陸のアミノ酸とのマリアージュにわたしは久しぶりに舌勃起した。
「どうですか、シマジさんが知らない大牢の滋味はまだまだあるんですよ」
とニコニコしながら言った千葉社長の勝ち誇った顔をわたしはいまだに忘れられない。牡蠣と牛肉のマリアージュを考えついた千葉社長は、悪魔と天使の舌を持つ怪物である。
シマジ:千葉社長は牛肉を「お肉」と呼んでいるのがいいですね。
千葉:「お肉」がわたしの人生のすべてだと言っても過言ではありません。
立木:そうだろう。千葉をこんなにド変態にさせたのは「お肉」あってのことだからね。
シマジ:人と人との出会いも人生を変えてくれるけど、人とモノとの出会いも人生を変えるものなんだと今日はつくづく思いましたね。
立木:シマジだってシングルモルトや葉巻との出会いがなかったら、いまのお前は存在しないだろう。
シマジ:たしかにそうですが、千葉社長のあのイッた目にはほど遠いですよ。あそこまで感情移入出来るのは幸せなことですね。
風間:女性からみても千葉さんのあの真剣な眼差しはセクシーですね。お肉を愛している気持ちがこちらにもギンギンに伝わってきます。
千葉:ありがとうございます。それでは、32ヶ月育て上げた処女牛の内股のシンタマの中にあるカメノコをいまからお出ししますが、これはやはりわたしの尊敬する立木先生から召し上がっていただきますか。
立木:いまおれは撮影で忙しいんだが、まあ、いいか。一関の“役所広司”、もう一杯、スパイシーハイボールを作ってくれ。
松本:かしこまりました。
千葉:これはいちばんエロいところですよ。立木先生にピッタリなお肉です。
立木:おや、思ったよりも柔らかいんだね。うーん、これは美味すぎだ。
千葉:次は風間部長、どうぞ召し上がってください。
松本:風間部長にもスパイシーハイボールをお作りしましょうか。
風間:はい、お願いします。このような部位のお肉は生まれてはじめていただきます。うーん、美味しいです。
千葉:それではシマジさん、どうぞ。
松本:シマジさんにはスパイシーハイボールを濃いめにお作りしますか。
シマジ:いやいや、食事のときは薄めがいい。これが処女牛の内股の付け根のところの味ですか。うん、エロい味がする。3ヶ月熟成してもお肉の細胞は生きているみたいだね。
千葉:そこです。お肉の状態になってもお肉の細胞は生きているから美味しさが保たれているんです。
シマジ:でもこんなに千葉社長に見つめられながら焼かれたら、処女牛だって恥ずかしいんじゃないですかね。
千葉:わたしは彼女の全てをしろうとし、長所を引き出そうと向きあっているんですよ。言ってみれば彼女はお医者さんを前にした処女みたいなものです。
シマジ:なるほどね。でも雄の種牛も同じなんですか。
千葉:有能な種牛が一頭で頑張っているんです。
立木:選ばれた雄牛は大変だね。
千葉:そうですよ。Hするのが仕事ですから。
風間:お肉の形が丸いのはどうしてですか。
千葉:風間さん、またまた鋭いご質問です。この部分は股の付け根のところで、トリミングのときに脂を落とすとこういう形になるんです。だから「シンタマ」という名前がつけられたんでしょう。
立木:千葉、このあとはどういう料理が出てくるんだ。元気がモリモリ湧いてきた。ドンドン撮影しちゃおうよ。
千葉:わかりました。このあとみなさまに召し上がっていただくお料理は、お寿司屋さんの軍艦巻きをヒントにある日閃いたものなんです。そうだ、海苔の代わりにお肉を巻いてみよう、と思いつきました。いわゆる特選カルビといわれている部分で巻いていて、酢飯の上には三陸のウニを乗せています。では、どうぞ。あっ、そうだ。まずは立木先生に撮影してもらわねば。でもいいか、人数分握ってありますから。風間さん、どうぞ召し上がってください。
風間:ありがとうございます。今日はランチ抜きで来てよかったです。お肉の軍艦巻きとは、これも生まれてはじめていただきます。うーん、美味しいですね。お肉とウニのコラボってこんなに合うんですね。驚きました。
千葉:ウニの塩気が加味されて、お肉が独特な滋味を醸し出しているんです。
風間:お肉は軽く炙っているんですね。
千葉:お肉は生よりも、炙るとさらにうま味を増します。軽く塩とコショウを振ってあります。
立木:ようし、お肉の軍艦巻きの撮影は終了した。千葉、最後の料理はなんだ。
千葉:これもある日閃いたお料理の一つなんですが、「牛茶漬け」です。
しゃぶしゃぶというお肉のお料理があるでしょう。あれはお肉さまのほうから言わせていただきますと、冷たいお肉を一気に熱湯に入れますね。薄く切ったお肉からまず美味しい肉汁が出やすい状態で熱湯に入れますから、お肉のうま味も香りも熱湯に放出されてしまうんです。わたしから言えばあれは、お肉の「残酷物語」です。わたしはそれを逆手にとったのです。お茶碗に軽くご飯をよそっておいて、全体にご飯の表面がみえないくらいにお肉を並べ、薬味に三つ葉を乗せて、昆布と鰹節の和風出汁を一気に上からかけて完成です。
立木:話を聞いているだけで美味そうだ。
シマジ:そのお肉はどこの部位なんですか。
千葉:今日はいわゆる特選カルビを使いました。風間さん、どうぞ熱いうちに召し上がってください。シマジさんもご一緒にどうぞ。
風間:いただきます。
シマジ:なるほど、こうすればお肉を湯引きしても滋味は逃がさない、巧い料理方法ですね。これはイケますね。人気があるでしょう。
千葉:締めの一品としては絶妙でしょう。大人気ですよ。
シマジ:この量だと4名でくるのがベターですかね。この間わたしが前田日明さんと来たときには、前田さんが700グラムをペロリと召し上がり、わたしが150グラムでしたが、あれでもわたしには多すぎました。ここの「お肉」は美味いからついつい食べ過ぎてしまうんですよね。
千葉:それはよく言われますね。若いお客さまならTボーンを一枚注文していただき、2人でサーロインとヒレを交互に愉しまれるのがいいでしょう。
立木:たとえばおれとシマジでくるときはどうしたらいいんだ。
千葉:簡単です。立木先生とシマジさんでくる場合はわたしが女性の助っ人をご用意いたしましょう。お二人と食事をしたい女性はゴマンといるでしょうから。
松本:そのときはわたしも一関から駆けつけましょう。
立木:うん、“役所広司”がいるほうが華やかでいいね。