
撮影:立木義浩
<店主前曰>
年末の日本人の第九好きはかなりのものである。聴くだけではない。ちょっと喉に自信のある人ならば、1度や2度どこかの舞台の上で「ベートーヴェン交響曲第9番 合唱」の『歓喜の歌』を歌った経験があるのではないか。ある人は町の公民館だったり、またある人は上野の東京文化会館だったり、そのステージはいろいろだろう。だが星野哲也のように、ヴァチカンのサンピエトロ大聖堂において、法王ヨハネ・パウロ2世の前で堂々と『歓喜の歌』を歌った男はそうはいないだろう。いまから3年ほど前のことである。しかも星野はそのとき合唱団の一員としてではなく、団長として日本からローマに赴いたのだ。たとえそれが星野のバーに遊びにやってくる女流指揮者西本智実のえこひいきによるものであったとしても、なかなかに豪華な話ではないか。そんなわけで、星野の音楽の趣味の領域は、ジャズからクラシックまでと幅広い。
今年1月22日に開催された「酒肆ガランス」のオープニングパーティーには錚々たる人たちが駆けつけた。名優、大女優、音楽家、そしてなんと、大御所小澤征爾の姿もあった。小澤は店の楽器で即興的な演奏まで披露したという。
バーマン星野は、東京という大都会の“夜光虫”とも言うべき文化的なセレブからも好かれているようである。190センチ、100キロの頼もしい体格とハンサムな風貌が人を引き付けるのかもしれないが、その割にどこか可愛い、憎めない魅力があるからなのであろう。
シマジ:坂上さんのように資生堂が大好きで、BC(ビューティーコンサルタント)を自分の天職だと誇りを持って言える人は、幸せですね。
坂上:はい、お蔭さまで。資生堂の社内にはジョブチャレンジ制度というのがありまして、以前それを活用して海外派遣に応募したんです。入社してちょうど7年目のことですが、願いが叶って2005年の7月から12月まで韓国資生堂に派遣されました。そのあと大阪のデパートでSSM(ショップサブマネージャー)として勤務して、2008年6月から11月まで再び香港資生堂に派遣されました。 その後大阪のデパートに戻ってからはSM(ショップマネージャー)として勤務しました。そして2014年10月から本社のグローバルプレステージ事業本部SHISEIDOブランドユニットに異動してまいりました。
星野:凄いですね。自分から進んで韓国と香港に働きに出たんですか。
坂上:はい、韓国でも香港でも、はじめは文化の違いに戸惑うことも多く、すべてが新鮮で刺激的な毎日を過ごすことができました。この活動を通じて感じたことは、文化や習慣に違いはあっても、美しくなりたいという女性の気持ちは、まさに万国共通なのだと確信できたことです。また現地のBCに資生堂の化粧品の正しい知識をお伝えできたこともよかったと思います。
立木:若いときに長期にわたり外国で働くことはいいことだね。
坂上:そうですね。他国で同じ気持ちで頑張っている仲間がいるということを知っただけでも、また日本に帰ってきてさらに頑張ろうという気持ちになり、逆に励まされました。
シマジ:キャリアを積んでBCからSM(ショップマネージャー)になった心境はどうなんですか。
坂上:後輩育成や指導の仕事が大部分を占める役職になったときは、人に教えるということの難しさを痛感しました。それと同時に、それまでわたしを教育してくださったすべての先輩たちに感謝の気持ちでいっぱいになりました。なにごともその立場にならないと実際にはわからないものです。わたしにとってこの役割は、自分の成長につながったかけがえのない経験だったと思います。
シマジ:そしていま、本社で働いているんですね。
坂上:はい、去年からプレステージ事業本部SHISEIDOブランドユニットに所属しております。いままで店頭で販売していた商品が、実際にどのように作られて、どのように世の中に送り出されているかを知ることは、とても興味深いことです。いままでのBCとしての経験を活かして、少しでもお客さまや、現場のBCの活動をサポート出来ればと思っています。日々精進していかなければいけませんが、大好きな資生堂で働けることの幸せを噛みしめております。
シマジ:働いている会社を大好きだといえる坂上さんは幸せな人ですよ。大概のサラリーマンは多少の不満を持って働いているんですから。
立木:そうだね。いまや日本も転職の時代に入ったようだね。
シマジ:若い人はどんどん転職していますね。わたしの時代には考えられなかったことですね。星野の場合は、いずれ一国一城の主になるのが夢だろうから別でしょうが、普通のサラリーマンで自分の勤める会社をこころから愛せるということは、まず1つの大きな幸せですよ。
坂上:ありがとうございます。
シマジ:そういえば坂上さんと同じBC出身の関根近子さんは、いまや輝ける執行役員常務ですからね。坂上さんも頑張ってくださいね。
坂上:とんでもないです。関根常務はわたしにとってただただ仰ぎ見る存在です。
シマジ:関根さんには一度この連載に登場してもらったことがあるんです。
坂上:たしかロオジエのときでしたよね。
シマジ:そうです。背が高くてオーラのある女性ですね。伊勢丹のわたしのバー、サロン・ド・シマジにもたまにフラリと1人で飲みに来てくれるんですよ。あそこにはSHISEIDO MENを使っている常連が沢山いますから、関根さんも居心地がいいみたいです。
立木:思い出した。そのとき関根さんとシマジのツーショットを撮ったよな。彼女はシマジより上背があったよね。
シマジ:タッチャンからいただいたあの写真は、サロン・ド・シマジの本店にちゃんと飾っていますよ。
坂上:わたしも一度伊勢丹のサロン・ド・シマジに遊びに伺います。
シマジ:是非是非。SHISEIDO MENのシリーズも陳列して売っていますよ。
星野:シマジさん、是非、ここの店にも関根さんをお連れください。そんなに背が高くてオーラがある女性にお会いしてみたいです。
シマジ:それに美人だよ。
星野:ますますお会いしたいですね。
シマジ:そうだ、関根さんにこの蓄音機でSPレコードを聴いてもらおうかな。
坂上:わたしも今度はプライベートで、友達と来てもいいですか。
星野:どうぞ、どうぞ。お待ちしています。
シマジ:そうだ、星野、ベイシーの正ちゃんにフランス製で80年前のデッドストックのメガネをこの前プレゼントしたんだ。べっ甲のフレームで、新しい菅原正二のイメージができたと思うんだ。きっと写真の撮り甲斐があるよ。
星野:それは嬉しいですね。じつはいま「ドキュメント 菅原正二」という映画を撮ろうかという壮大な計画があるんですよ。
立木:そいつは面白そうだね。
シマジ:正ちゃんのためならなんでも協力するよ。監督は誰がやるの?
星野:及ばずながら、わたしがやらせてもらおうと思っています。
立木:それはいい。菅原正二にいちばん惚れている星野がやるんだから。
シマジ:わたしもそう思うね。星野の情熱とセンスにすべてかかっているけど、こう見えてなかなかの粘着質だからきっといい映画が撮れるよ。全編カウント・ベイシーのサウンドを流したりして。
星野:シマジさん、最近発売になった菅原正二さん監修の「カウント・ベイシー ルーレット・コレクション」はお聴きになりましたか。
シマジ:いま毎日聴いている。そして伊勢丹のサロン・ド・シマジでも売っているんだ。あれは1枚ずつバラ売りしているところもまたアイデアだね。
立木:カウント・ベイシーのルーレット時代といえば、1950年代後半から1960年代はじめのころの名盤揃いだぞ。
星野:そうです。それが初めてCD化されたスグレモノなんです。