
撮影:立木義浩
<店主前曰>
10年ほど前にナポリを訪れたとき、ピッツァの本当の美味さを知った気がした。これほど美味いピッツァを作れるところは世界中でここしかないと確信したほどであった。驚いたことに、ローマまでの帰途の新幹線のなか、ローマ人たちが手に手にピッツァの土産を持っているではないか。ローマ人もナポリのピッツァにはひれ伏しているということなのだろう。
そのピッツァに勝るとも劣らないピッツァを作る職人が日本に誕生した。その名を小原直といい、最高のピッツァが食べられる店は神宮前の「ケベロス」である。だがそこに行き着くには少々、迷路のなかを探さねばならない。名付けて「ラビリンスのピッツァ」と呼ぶことにしよう。しかし迷路の先には舌勃起するピッツァが待っているのである。
今回、資生堂からはピッツァ好きの今西友梨子さんが来てくれた。
シマジ:「ケベロス」という店名にはどんな意味があるんですか。
小原:これは俗にいう「ちょっぱや」、つまり「超速い」という意味のスペイン語なんです。わたしの作ったピッツァを食べてもらった瞬間、脳のシナプスが素早くその美味さを伝えるというイメージでつけたんです。
今西:先ほどから見ていますと、ピッツァができ上がるまでの時間もあっという間ですね。驚きました。
小原:生地を出して伸ばしてトッピングをして釜で焼く行程を入れて、約3分で仕上げています。
シマジ:凄い早業だね。
立木:みんなこっちを見てくれる? シマジ、なにか言ってみんなを笑わせろ。
シマジ:じゃあみんなで「ピッツァ!」と言いますか。
小原:ピッツァ!
今西:ピッツァ!
立木:OK!
小原:では最初になにを焼きましょうか。
シマジ:ここのピッツアはどれを食べても美味いけれど、まずは店でいちばん人気のピッツァをお願いしたいね。
小原:それではマリナーラでいきましょう。
今西:わあ、わたしマリナーラが大好きなんです。
シマジ:一応読者諸君のために具材などを説明してもらえませんか。
小原:これにはチーズが入っていません。ニンニク、バジル、オレガノ、塩、オリーブオイルで焼きます。
シマジ:その赤いソースはなんなの。
小原:これはトマトソースです。
立木:生地がとろけるような柔らかさだね。
小原:はい、わたしはこの生地に命をかけているんです。
立木:小麦粉は国産品を使っているの。
小原:そのほうが材料として安定しますので国産を使っています。
シマジ:まるで生き物みたいにくねくねしているね。
小原:どんな女性のオッパイよりも柔らかい弾力があるんですよ。
シマジ:わかりやすい、いい表現だね。
小原:はい、出来上がりました。
シマジ:まず立木巨匠に渡してくれますか。
小原:了解しました。
立木:お嬢、「ケベロス撮影」で光より速く撮っちゃうからね。1分待っててね。
今西:アッハハハ。「ケベロス撮影」ですか。ではそのようにお願いします。
立木:はい、どうぞ。
今西:ありがとうございます! 美味しそう! 香りがたまりませんね。
シマジ:どうぞ、召し上がれ。
今西:美味しいです! 生地の柔らかさがなんともいえません。これなら1人で1皿イケてしまいますね。
シマジ:この生地を仕込むのは大変なんでしょう?
小原:まず、小麦粉、水、酵母菌、シチリアの塩を混ぜてミキサーにかけています。
シマジ:手ではこねないんですか。
小原:手でこねると手の温度が伝わってしまうのでよくないんです。こねたあとは生地をピンポン球の2倍くらいの大きさにして、ワインクーラーに24時間寝かせます。するとちょうどあんパンくらいの大きさに膨らんできます。
立木:なるほど、酵母を発酵させるということは、生地の仕込みと管理に結構気を遣うんだろうね。
小原:その通りです、美味しいピッツァができるかどうか、その85%は生地にかかっています。言ってみれば最高のオッパイを作るために、わたしは店が休みの日でもここに来て、生地の状態を観察しています。生地はまさに生き物なんです。
シマジ:ここの休みはたしか火曜日だったよね。
小原:はい、美容室と一緒です。
シマジ:今西さん、凄い! 1皿ペロリといきましたね。
今西:あまりに美味しかったので、夢中で食べてしまいました。
シマジ:では次はなんにしますか。
小原:定番のマルゲリータといきましょう。
立木:それは釜から出した瞬間を撮らせてくれる?
小原:わかりました。これはトッピングはマリナーラとほとんど変わりませんが、モッツァレラチーズを使っています。
シマジ:生地を台の上に乗せて、伸ばして、トッピングが終わるまでホントに2分ですね。そのあと釜に入れて1分焼くだけなんですね。この釜のなかの温度はどれくらいあるんですか。
小原:500度はあります。この高温で一気に焼くんです。はい出来ました。
立木:OK! 素晴らしい。
今西:わたしはマルゲリータも好きなんです。
シマジ:どうぞ、召し上がれ。お昼は当然抜いてきたんでしょう。
今西:当然です。シマジさんが日本一美味しいピッツァ屋さんだと仰っているとスタッフから聞いていましたから。
シマジ:裏切られなかったでしょう。
今西:裏切られるどころか、感動しています。うん、このマルゲリータはまた最高に美味しいです。モッツァレラチーズも上等ですね。シマジさんもいかがですか。
シマジ:では1切れいただきます。
小原:次はシマジさんのお好きなロックフォールと、パルメジャーノとモッツァレラのチーズ3種をトッピングした豪華ピッツァを焼きましょう。これは蜂蜜にリンゴを漬け込んで煮詰めた自家製のシロップをかけながら召し上がってください。
今西:それも美味しそうですね。
小原:今西さんくらいの若い女性は3枚か4枚ぺろっと食べて行かれる方がときどきいらっしゃいますよ。
シマジ:今西さんなら十分いけるでしょう。
今西:頑張りまーす。でもいけるかしら。
シマジ:ロックフォールのかかった次のピッツァはわたしも半分くらいお手伝いしますよ。
今西:お願いします。
小原:はい、焼けました。
立木:これは細かく切り分ける前の状態で撮ろうか。
シマジ:どうぞ、最初に撮影してください。
立木:すぐにシマジに食われると思うと、意地悪してゆっくり撮影したくなってきた。
シマジ:どうぞ、どうぞ。ここのピッツァは冷めても美味いんですよ。小原さん、最後はなにを焼いてくれるんですか?
小原:季節限定のピッツァで、ポルチーニ茸と日本のキノコ4種類をトッピングしたものをお出ししましょう。
今西:わあ、秋らしい具材でそれも美味しそうですね。
立木:はい、撮影終了!
シマジ:ありがとうございます。うん、このチーズ3種のピッツァはチーズと蜂蜜の組み合わせが抜群だね。
今西:いただきます。ああ、これも美味しいですね。
シマジ:今西さん、資生堂に入ってよかったでしょう。こんな役得があったんですよ。
今西:ありがとうございます。本当に今日は幸せです。