第10回 恵比寿 言の葉 渡邊直樹氏 第1章  洋食か和食か迷ったら。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

ひとり外食派のわたしが今夜は洋食にしようか和食にしようかと迷うとき、そんな悩みをたちどころに解決してくれる店が恵比寿にある。ここは鉄板焼きのカウンターで洋食を出し、もう1つのカウンターで和食を出している。店の名前は「言の葉」という。1月はこの名店「言の葉」から、洋食を担当している店長の渡邊直樹料理人に登場していただこう。続けて2月は和食担当の田村誠料理人が登場する予定である。
また、資生堂からの今回のゲストは、デパート担任としてBC(ビューティー・コンサルタント)の教育を担当しておられる犬丸結美子さんだ。

シマジ:渡邊店長はどうして料理人の道を選んだの。

立木:今回はじつに月並みな質問からはじめたな。

渡邊:父が帝国ホテルでフランス料理のシェフをしていましたので、子供のときから食事は美味いものを食べていたんです。

シマジ:なになに、お父さんが帝国ホテルの料理人だったの。じゃあ、あの有名な村上信夫料理長の下で働いていたんだね。

渡邊:はい。父はすでに定年で引退しましたが、当時は村上料理長に大変お世話になったようです。わたしも高校を卒業して料理専門学校の生徒だったときに、講演にいらした村上先生にわざわざ声をかけていただいて感激したことがありました。「渡邊君、いつでも帝国ホテルで君を待っているからね」といわれたんです。

シマジ:それは心強い言葉をいただいたね。鬼に金棒とはこのことをいうんだろうね。村上料理長はお父さんの料理人としての才能を認めていたからこそ、その遺伝子を受け継ぐあなたを帝国ホテルで採用しようと直感的に決めたんでしょう。

立木:でも、どこの世界でも息子がオヤジを追い抜くというのは至難の技だよ。

渡邊:じつはわたしもフレンチの道は避けて、イタリアンの道を進もうかなとうすうす考えてはいました。

シマジ:普通、息子はオヤジと勝負しても叶わないと本能的に思うんだろう。

渡邊:そういえば、子供のときから武道の稽古をしていたんですが、父が柔道をやっていたせいか、わたしは合気道を選びましたね。でも高校生になると相撲部に入部しました。東京学園高等学校に入学して相撲部の部室を覗いたら、顧問の先生がわたしを見るなり、是非君に入ってもらいたいと熱心に誘うんです。どうしようかと思っているうちに廻しのプレゼントまでされてしまい、入部するしかありませんでしたね。あとで聞くと、その年1人も入部者がいなかったら相撲部は廃部にする、と学校側からいわれていたそうです。

シマジ:渡邊はまさに相撲部の救世主だったんだ。ほかに部員は何人いたの。

渡邊:3年生が2名で、1年生のわたしを入れて3名でした。それでも相撲部は存続したんです。もしわたしが入部しなかったら、あの稽古場の土俵は駐車場になっていたでしょう。

立木:若いときにそういう人助けをしていると後々きっといいことがあるはずだよ。

シマジ:でも相撲をとるには渡邊は小柄だよね。

渡邊:ですから腰を痛めてしまいました。いまでも、料理を作っているときは夢中になっているので痛くないんですが、そうではないとき、特に冬はいつもうずくように痛むんです。これはもう持病みたいなものですね。でも高校時代に相撲の関東大会に2回出場出来たのはいい思い出でした。一応2段になって高校を卒業しました。

シマジ:それはたいしたものだ。あっ、そうそう。こちらの美人は資生堂の犬丸結美子さんです。

犬丸:どうぞよろしくお願いいたします。

シマジ:今日はランチを抜いていらしたでしょう。

犬丸:はい、そういわれておりましたので。

シマジ:では早速渡邊店長に料理を作ってもらいましょうか。

渡邊:かしこまりました。では最初にクロアワビの鉄板焼きからいきましょう。

犬丸:このクロアワビはさっき後ろの水槽から出されたものですか。

渡邊:そうです。いまでも活きていますよ。鉄板焼きというのは簡単なようでじつは難しいんです。このクロアワビも火加減が難しいんですよ。生だとかたいし、焼きすぎてもかたい。焼いているわたしが食べてみるわけにもいかないですし。

立木:わかるね。単純なものほど誤魔化せないんだ。

シマジ:これはどこでとれたクロアワビなの。

渡邊:今日のは青森産です。

犬丸:美味しそうな香りが漂ってきました。

渡邊:この香りはバターとニンニクを煮込んだクラリフェというもので、香りだけ摘出したもので焼いているんです。さあ、これで完成です。ではどうぞ。

シマジ:まずは巨匠に回してくれる。撮影したあと犬丸さんが全部食べてくださいね。

立木:お嬢、ちょっと待っていてね。うん、たしかにこれは堪らない香りだね。読者のみんなにはこの香りが届かないのが残念だ。はい、撮影は完了。どうぞ。

犬丸:食べてよろしいんですか。

シマジ:どうぞ、どうぞ。でもわたしにも一切れいただけますか。原稿を書くときの参考にします。

犬丸:柔らかくて美味しいです。磯の香りがします。これにはソースは要らないですね。

渡邊:はい、そのままで召し上がっていただくのが一番だと思います。では次は水槽のなかの伊勢エビを鉄板の上で焼きながら料理しましょう。

シマジ:伊勢エビをおがくずに入れて置いているところもあるよね。

渡邊:おがくずはどうしても匂いがつくので、わたしは水槽に入れています。

犬丸:伊勢エビ1匹を丸ごと焼くんですか。豪華ですね。

シマジ:これを犬丸さん1人で召し上がってください。

犬丸:食べられますかしら。

シマジ:美味しいから大丈夫です。その前に伊勢エビの記念撮影があります。ちょっと待ってくださいね。

立木:はい、一丁上がり!

シマジ:はい、どうぞ。

犬丸:ではいただきます。うーん、美味しいです。堪りません。

渡邊:でもいよいよ「言の葉」の名物、山形県の尾花沢牛の鉄板焼きです。

シマジ:これはサーロインだね。見た目にも美味そうだ。

渡邊:先日、尾花沢牛を生産している山形県尾花沢市の牧場に見学に行ってきたんです。牧場には900頭ほどの牛がいましたが、驚いたことに牧場の牛舎のなかでモーツァルトの「魔笛」が流れているんですよ。牛にクラシック、特にモーツァルトを聴かせるとストレスがなくなるそうなんです。

シマジ:牛もモーツァルトを聴いて涙が追いつかないんだろうか。

立木:そんなバカなことをいう前にステーキを焼いておれのほうに持ってきてくれ。

シマジ:失礼しました。

渡邊:そこの牛舎はとても清潔でした。糞尿に汚れながら寝そべっているような牛舎で育った牛だと、やはり肉の色が悪くなるそうですが、その点は心配ありません。あとは井戸から湧き出る美味い水を牛に飲ませていることと、エサには米を粉砕したものを混ぜているそうです。それから睡眠時間が長いほうがいい肉になるそうです。とにかく環境がよく管理されているのがわかりましたし、生産者の努力を実際に目の当たりにして、すっかり感動して帰ってきました。うちではこれからずっと尾花沢牛でいきます。うちの店で尾花沢牛公認店舗が全国で29軒目になりました。はい、焼き上がりました。

シマジ:まず立木先生のところに持って行って。タッチャンは遅いとイライラしてしまうから。

渡邊:尾花沢牛は味のバラツキがありません。

立木:はい、撮影終了。お嬢、召し上がれ。

犬丸:いただきまーす。

シマジ:ここにきたお客さんで最高何グラムを注文した人がいたの?

渡邊:そうですね、700グラムを注文されて、ペロッと食べていかれたお客さまがいらっしゃいましたね。

シマジ:プロレスラーの前田日明さんじゃないだろうね。

渡邊:いえいえ、普通のサラリーマンでした。

シマジ:へえ!

立木:凄い才能が在野には隠れているものなんだよ。

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