第11回 恵比寿 言の葉 田村誠氏 第4章 100組の夫婦がいれば、100色の夫婦の色がある。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

最近やまどりを30年ぶりで食べた。ことの詳細はわたしのメルマガに詳しく書いてあるので(第111回 2月16日配信)、ご興味のある方はそちらを読んでくだされまじくや。
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わたしがいまのところ最後の晩餐として考えている特別料理を挙げると、やまどりの刺身、キジの刺身、スッポンのモモの塩焼き、そしてヒグマの左モモのステーキである。しかしそのうち「言の葉」のシェフ、渡邊と田村にはこの4品に勝るとも劣らない絶品料理を考えてもらえるのではないだろうか。
今月のイケメンシェフ田村誠のだし巻き玉子にはいつも舌勃起する。なにしろ田村はいままでに千回ほどもだし巻き玉子を焼いてきたという。

立木:田村はこうして見る限り立派なガタイをしているけど、学生のころはなにかスポーツでもやっていたの?

田村:こんなに大きくなったのは、単に子どものころから食べることが大好きだったからでしょう。運動は中学高校を通して卓球をやっていました。

シマジ:へえ、卓球をやってそんな体になったの。

田村:卓球はああ見えて実際はかなり激しいスポーツなんですよ。それからスキーもやりました。1級まで行きました。はまると夢中になるたちなんですが、勉強だけはダメでしたね。ほとんどオール1でした。

立木:なるほど。スキーは体を鍛えられるだろうね。おれは高校生のころはバレーボールを夢中になってやったもんだが、シマジはなんかスポーツをやったのか。

シマジ:恥ずかしながら、わたしはスポーツ音痴です。子どものころから学生時代に至るまで、とにかく本を読んでばかりいました。編集者になってから柴田錬三郎先生に中古のゴルフクラブをいただき25歳でゴルフを始めましたが、毎週のようにプレーしてもハンディ16までしかいきませんでした。子どものころに野球でもなんでも、なにかしらスポーツの経験があれば、ゴルフの腕前もハンディ9くらいのシングルにはなったはずなんですが。

立木:おれはゴルフはやらなかったが、シマジのゴルフは見たことがあるんだ。

目黒:どうしてですか。

立木:シマジに頼まれて青木功プロの写真集を作ったことがあってね。撮影の仕事が一段落してスターティングホールに戻ってくると、シマジと青木プロがいまからティーオフしようとするところに出くわしたんだ。ところがシマジのティーショットのボールが、ラフを歩いて戻ってきたおれを目がけて飛んできてね、「シマジ、おれを殺す気か!」と怒鳴ってやったものだ。

シマジ:そんなことがありましたね。低いミスショットでOBだったと思います。生まれてはじめて天下の青木プロと回るとあって、わたしもすっかりあがってしまったんでしょう。まあ、わたしの話はそのくらいでいいでしょう。田村の「はまると夢中になる」という性格は、料理人の素質として重要なことだと思うね。いつでも探究心を忘れないということが大切だろう。

田村:そうかもしれませんね。ここで働く前、ある友人が経営している会社の社員食堂の厨房を任されたことがありました。100人位の社員が利用していました。

シマジ:へえ、その社員たちは田村が作る昼食を毎日食べたんだ。幸せな社員たちだね。

田村:社員食堂ですから、いちばん高いメニューで750円のトンカツでした。ソバが300円でしたか。平均は1人500円でしたが、わたしはその社員たちを外に食べに行かせないようにと味は吟味しましたよ。するとだんだん、本来の社員以外のお客さんが外部から食べにきてくれるようになったんです。そこは5社くらい入っている大きなビルでしたから、別の会社からの人たちも結構な数になりました。

シマジ:どんな条件でも美味しいものを作ろうとする田村料理人はたいしたものだ。

田村:いかに原価を安くして美味いものを作れるか、そこが料理人として面白いところなんですよ。どんなお客さまでも裏切ってはいけないと思っています。

シマジ:なんでもやってみようとする田村の根性があっぱれだね。そこでどれくらい働いたの。

田村:半年くらいでしたか。そうそう、わたしは仕事のあとバーに飲みに行くのが好きなんです。いまは赤ん坊が産まれたばかりで一緒に行けませんが、女房ともよく行きますよ。外で食事も一緒に行きます。すると女房の料理も美味くなりますね。

立木:聞いたか、シマジ。お前も田村の真似をしたほうがいいぞ。

シマジ:そう言われても、田村の場合、田村の友だちが家に遊びにくると奥さんが料理を作るというじゃないですか、わたしの場合は友だちが遊びにきても、仕事場のバーのほうにやってくるので、家で食事をすることはないですからね。それに女房は料理が大嫌いな女ですから仕方ないですよ。掃除洗濯は天才的に巧いんですがね。

立木:たしかにおれは毎月現代ビジネスの対談( Nespresso Break Time @Cafe de Shimaji)でシマジの狭い仕事場を訪れているが、掃除は行き届いているね。そうか、奥さんにやってもらっているのか。

シマジ:はい。グラスの洗いものから部屋の片付けから灰皿まで、それからトイレ掃除もやってもらっています。別料金ですけどね。

立木:たいした奥さんではないか。

シマジ:でも料金を支払っているんですよ。

立木:それは当たり前だろう。いくら払っているんだ。

シマジ:トイレを含めて3000円ですか。

立木:それは安すぎないか。

目黒:シマジさんの奥さまはこの連載を読んでいらっしゃらないんですか。

シマジ:わたしの女房の唯一の美徳は、わたしの書いた原稿を1行たりともいままで読んだことがないことです。幸いなことに、わたしの書くものにまったく興味をもっていないんです。

立木:だからお前は女のことでもなんでも赤裸々に体験談を書いているんだな。

シマジ:女房に読まれてしまう作家は遠慮しいしい書いているんでしょうけどね。

目黒:そういうものですか。作家の方も大変なんですね。

シマジ:しかも、その奥さんがヤキモチやきときたら目も当てられません。大変だったのは開高文豪でしたね。奥さまが牧羊子といって有名な詩人でしたからね。夫の書いたものは当然読んでいました。ですから文豪はエッセイで女のおの字も書いていません。小説は自分の体験を昇華させて作品にしていますから、奥さまからみればそれが透けてみえるんでしょう。よく夫婦喧嘩をしていました。奥さまが詩人で旦那が作家とくれば、言葉のケンカはしないですぐに取っ組み合いになるそうです。開高文豪みずからわたしにいった話だと、小さくて細い奥さまが太った開高さんと四つに組んで、開高さんが牧さんの首を絞めると、今度は牧さんがたっぷり脂の乗った開高さんのお腹にかじりついてくるそうなんです。そして顔を上げて「殺人豚!」と言うんだそうです。「殺人鬼」ではなく「殺人豚」、開高さんが太っていたからそうなったんでしょう。さすがの文豪もそのときは力が抜けて笑ったそうですよ。まあ常識的にみて、そもそも詩人と小説家が結婚しちゃいけませんよね。

目黒:でもよく開高先生はシマジさんと『水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス; 蘇生版)のような際どいジョーク対談ができましたね。

シマジ:あれはジョークですからできたんですよ。
でも世のなかに100組の夫婦がいれば、100色の夫婦の色があるんではないですか。

立木:ここで夫婦のジョークを1つやってくれよ。

シマジ:ではお言葉に甘えてやりますか。
「相思相愛の真面目な夫婦がいた。臨終の床で老いた夫が最愛の老妻を呼んで、蚊の鳴くような弱い声で言った。
「死ぬ前に、お前に、告白しておきたいことが、ある。わたしは、1度だけ、浮気をしたことが、あるんだ。どうか、許しておくれ」
すると妻がニッコリ笑って言った。
「そんなこと気になさらずに安らかにお眠りください。わたしも2度ほどありますのよ」

立木:アッハハハ。面白い!よくできている。舌好調だ!

田村、目黒:アッハハハ。

シマジ:どうもジョークの世界でも女性のほうがしたたかなんですよ。

目黒:あっ、いけない。田村さんのお料理があまりに美味しかったので、お肌のチェックを忘れていました。すみません。すぐやりましょう。

田村:どうですか。

目黒:限りなくDに近いEでした。

シマジ:アッハハハ。田村、相棒の渡邊と一緒でよかったね。

<次回 第12回第1章 3月4日更新>

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