第9回 六本木 CASK strength 伊藤新氏 第3章 人生を謳歌する秘密は仕事にあった。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

どんな人間でも仕事をしなければ食べていけないものである。もしその仕事がピッタリ自分に合っていて、自分が大好きなことだとしたら、最高の人生ではないだろうか。
CASK strengthの伊藤新バーマンにしろ、資生堂の杉山亜弓さんにしろ、自分のいまの仕事に生き甲斐を感じているようだ。だから2人の顔はキラキラ輝いているのだろう。

シマジ:杉山さんは幸せな結婚生活を送っておられるようですが、伊藤バーマンは独身貴族を謳歌しているんですよね。

伊藤:独身貴族かどうかは別ですが、人生を自由に愉しんでいるとは言えるかもしれません。休みがとれれば1人で海外に飛び、レンタカーでフランスの葡萄畑へ行ったり、スコットランドの蒸留所へ行ったりしています。

シマジ:旅好きはやっぱり一人旅がいいと言いますね。

伊藤:それは旅先で同行者に気を使わなくて済むからでしょうか。一人旅は自由で、自分のことだけ考えていればいいんですから楽ですよ。

立木:シマジは一人旅なんてしたことはないだろう。

シマジ:ないですね。いつも誰かと一緒でしたね。

立木:お前には無理だろうね。アカの他人の七光りで生きている男に一人旅はできないだろう。

シマジ:実際一人で旅する気はまったくありませんね。タッチャンだってそうではないですか。

立木:まあ海外はいまはほとんど仕事で行くからアシスタントのヤマグチと一緒だし、それに79歳ともなると1人は怖いよね。

シマジ:75歳のわたしでも怖いですよ。ところで伊藤バーマンのお父さんはわたし達の少し下ぐらいの年代かもしれませんが、どんな職業についていらっしゃるんですか。

伊藤:わたしの父は静岡で電気製品等の小売業をしています。

シマジ:町の電気屋さんなんだ。

伊藤:はい、自営業です。

シマジ:杉山さんは資生堂に入ってからの経験で、自慢できるというか、誇りを感じたお仕事ってなんでしたか。

杉山:なにか業績を残したとか、自慢できるような話ではないのですが、アウター向けに発行した美容雑誌の企画・編集を担当したことがありました。その業務では、被写体の沢山の女優さんやモデルさんから美容についてはもちろん、仕事やライフスタイルについての考え方を取材する機会も多く、とても貴重な経験でした。彼女たちの外見の磨き方を完全に模倣することは到底できませんが、仕事をする上でのポジティブなマインド・ライフスタイルにおける秘訣はわたしにも参考になる内容が多かったんです。先々自分自身がどのように仕事を続け、貢献ができるのかを、再考する機会にもなりました。また、憧れる要素を持つ女性でも家庭と仕事の両立に工夫したり、美容に対するストイックに努力する姿を間近で拝見し、改めて人を美しくする仕事に就けた楽しみを感じました。今後も、美容を通して生活を豊かにするきっかけづくりを続けたいと強く感じました。

シマジ:人間はそうして人に出会って知恵を学ぶものですよ。わたしはいまSHISEIDO MENを売りながらバーマンとして伊勢丹8階のシガーバー「サロン・ド・シマジ」のカウンターに毎週末立っていますが、お客さまから教わることは本当に多いですよ。

伊藤:シマジさんのバーではなにが一番売れているんですか。

シマジ:それはやっぱりスパイシーハイボールでしょうか。タリスカー10年をサントリーの山崎プレミアムソーダで割って、ピートで燻製したブラックペッパーをかけているものです。

伊藤:一日何杯くらい売れているんですか。

シマジ:少ないときでも30杯は売れていますか。多いときはタリスカーのボトルが1日2本空くときがありますよ。バーにいらしたお客さまには、まずこのスパイシーハイボールで喉を潤していただいております。あっそうそう、タリスカー10年の売り上げとしては、全国に3万軒以上あるバーのなかでなんとうちがベスト4なんですよ。

伊藤:ベスト4ですか。それは凄いですね。

立木:スパイシーハイボールってシマジが発明したのか。

シマジ:これは伊勢丹のシガーバーを作るときに、MHD(モエヘネシーディアジオ株式会社)のサカモトという男と合作したんです。いまでは方々で流行っていますよ。熟成肉で有名な「格之進」ではいまや定番メニューになっているようです。スパイシーハイボールはどんな食事にも合うんです。ブラックペッパーというのは、粘膜から血液に吸収されて食欲を増進させてくれるんですよ。

伊藤:どうしてまたブラックペッパー入りのハイボールを考えついたんですか。

シマジ:タリスカー10年の説明書を読んでいたら、ブラックペッパーの香りというフレーズがあったんです。そこを強調してみようかと思ったわけです。

伊藤:ピートで燻すということは?

シマジ:それはスカイ島のタリスカー蒸留所に行くと、仕込み水にピートの香りが少しするんですよ。そこを強調しようと思ったんです。ですからスコットランドからピートを輸入して横浜燻製工房でわざわざ作ってもらっているんです。ある日お客さまが、「自分の家でスパイシーハイボールを見よう見まねで作ってみたが、どうしてもここの味が出ないんだ」と言われましてね。そこでお客さまのためにバーと同じピートで燻製したコショウも売ることにしたんです。プッシュミルも一緒にね。

杉山:プッシュミルを使うとどう違うんですか。

シマジ:いい質問です。グラインダー式でやると砕けたコショウが均等なんですが、プッシュミルですと大小大きさが違っていて、口に入れたときのアタックが全然違うんです。

杉山:お料理するときにも使えそうですね。

シマジ:そうです。片手でフライパンを持って、もう一方の手でプッシュミルを使えますからね。ステーキやサラダに合いますよ。

立木:シマジ、いかにもお前は料理をしたように言っているけど、それは料理した人に聞いた話だろう。

シマジ:ご明察です。

立木:シマジの話はよく聞いてないと騙されるから、注意しないといけないよ。セオはそれをなんとかと言っていたなあ。

シマジ:過剰なるリアリズム、ですよ。ところで杉山さん、資生堂に入ってから仕事で失敗したとか、いま話すと笑える話などありませんか。

杉山:あります・・、ここで言うんですか。

シマジ:ぜひわれわれ男性を笑わせてください。

杉山:笑ってもらえるかどうか自信はありませんが、資生堂に入社してまだビューティーコンサルタントの時代でした。配属されていたデパートで年に数回、お手入れ会やメーキャップイベントなどを開催していたんですが、ある日モデルが来られなくなってしまい、たまたま手が空いていたわたしがイベント会場のステージに上がり、メーキャップアーティストに半顔をメークされることになってしまったんです。お客さまにはベースメーキャップ、ポイントメーキャップとも左右の違いを見ていただくことが目的でした。そのときのイベントがお客さまの入りが凄くよくて、気がつくと沢山のお客さまが接客待ちの状態になってしまいました。ステージを降りたわたしは半顔メークを直す暇もなく、やむを得ずその日1日その顔で接客をしたんです。アシンメトリーどころか半顔はスッピンでしたし、私の顔を見た時のお客さまの反応を思い出すといまでも恥ずかしい気持ちになりますが、ステージよりも近くでお客さまにBefore / Afterを見ていただいたわけで、説得力はすごかったと思います。

シマジ:面白い!可笑しいです。

立木:そのときの写真はないの。

杉山:お客さまが撮っていれば、あるかもしれません・・・!。

シマジ:使用前使用後がひと目でわかるってそれは戦略としていいかもね。杉山さん、今度そのアイデアを会社に提出したらどうですか。

杉山:考えておきます。

<次回 第9回第4章 12月23日更新>

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