
撮影:立木義浩
<店主前曰>
わたしは毎週末伊勢丹メンズ館のバーに立っているが、1年を通していちばん売れるのはスパイシーハイボールである。この人気のスパイシーハイボールは、タリスカー10年にサントリーの山崎プレミアムソーダを注ぎ、その上からピートでスモークされたブラックペッパーを振りかける。
今月紹介する銀座コリドー街にあるバー「ロックフィッシュ」もハイボールで勝負しているユニークな店である。どんなこだわりがあるハイボールなのか、そしてどんな人物がどんな思いでそれを作っているのか、じっくり話を聴いてみよう。
シマジ:間口バーマン、こちらの老イケメンは立木義浩先生です。
立木:よろしく。
間口:存じ上げております。今日はよろしくお願いします。
シマジ:こちらは本日の資生堂からのゲスト、高橋由香さんです。
高橋:高橋です。よろしくお願いします。
シマジ:早速ですが、間口バーマン、どうしてお店の名を「ロックフィッシュ」と名付けたんですか。
間口:ぼくは愛媛県南宇和郡城辺町という海辺の町の生まれでして、小学校1年のころから海で魚釣りをやって遊んでいました。よくカマボコをエサにしてカサゴを釣っていたんです。田舎では「カサゴ」のことを「ほご」と言っていましたが、カサゴは生命力が強く、ひと晩クーラーに入れておいてもちゃんと生きているんです。海のなかの奥まった岩場に棲息している魚です。そのカサゴを英語でいうと「ロックフィッシュ」になるんです。
シマジ:なるほど、生命力が強くて、しかも隠れた岩場に棲んでいるというそのイメージが、バーの店名としてピッタリですね。ロックフィッシュという音の響きもいいです。
間口:ありがとうございます。
シマジ:そういえば、サンドフィッシュというのもありますね。あれはなんでしたか。
間口:キスですね。
シマジ:やっぱり、ロックフィッシュのほうが凄みもありますね。
立木:日本語で「カサゴ」だと和食の店みたいだものね。
シマジ:ここは場所もいいですね。
立木:たしかこの下に有名なバー「クール」があったような気がするんだけど。
間口:ありました。ぼくは大阪で修行していたので銀座のことはなにも知らないまま借りてしまったんですが、あとで知ったところによると、ここはクールの2階ということで、恐れ多い神聖な場所とされてなかなか借り手がつかなかったようです。
高橋:わたしからするとここは汐留の資生堂本社から近いので、今日は歩いてきました。
シマジ:このバーは年中無休ということですが、午後3時からオープンしているんですよね。この取材は3時前には終わる予定だけど、すぐにもお客さまがドッと来るはずです。
間口:はい、そうですね。だいたい3時ちょうどにお客さまがドッといらっしゃいますね。
高橋:なにがそれほど魅力なんでしょうか。
シマジ:いい質問です。ここの売りはハイボールなんです。
立木:まさかシマジの「スパイシーハイボール」ではないよね。
シマジ:違います。間口式ハイボールでして、独特の個性がある人気のハイボールです。間口バーマン、ハイボールの中身を説明してください。
間口:うちのハイボールはサントリーの角を使っているんですが、普通に売られている角のアルコール度数は40度なのに対して、うちの角は43度あるんです。
シマジ:どうしてここの角だけが43度なんですか。
間口:それはシマジさんの好きな「えこひいき」のおかげです、サントリーさんからの。なんちゃって。たまに43度の角も市販されているんですよ。うちでは大量に買って大量に消費しているんです。
シマジ:ソーダはアサヒのウィルキンソンですか。やっぱり山崎プレミアムソーダでは弱いんですか。
間口:うちのハイボールは43度の角をダブルで入れて、ウィルキンソンのソーダで割ってレモンピールを絞ります。
立木:美味そうだ。撮影が終わったころに1杯お願いしたいね。
間口:喜んでお作りいたします。
シマジ:それとは知らず普通のハイボールだと思って、それに口当たりがいいから先日はついつい3杯も飲んでしまって、帰りにここの階段を降りるときにはクラクラしてしまいましたよ。それで1杯いくらでしたっけ。
間口:税抜きで1,000円です。
シマジ:伊勢丹のサロン・ド・シマジではタリスカー10年を使い山崎プレミアムソーダで割ってピートでスモークしたブラックペッパーをかけているんですが、税抜きで800円で出しています。
間口:ぼくもシマジさんのバーで飲みましたが、あれはスパイシーで美味しかったです。
シマジ:では高橋さんの分とわたしの分の「ロックフィッシュ」のハイボールをお願いします。
間口:承知しました。
シマジ:へえ、ウィルキンソンのソーダはそこの冷蔵庫に大量に保管してあるんですね。
間口:はい。ここに257本のソーダが入るんですが、これが売り切れると、スープがなくなったラーメン屋みたいに「ハイボール売り切れのため閉店させていただきます」となります。そのときこころのなかでは喝采を上げていますね。
シマジ:この親指の爪くらい大きなレモンピールがいいですね。
間口:これくらい大きくないと香りが立たないんです。
シマジ:どうですか、高橋さん。
高橋:はい。コクがあって美味しいハイボールですね。こんなに美味しいハイボールははじめてです。
シマジ:そうだ。このハイボールの写真を撮ることになっていたよね。
間口:では撮影用にもう1杯作りましょう。
立木:お願い。
高橋:このハイボールは氷が入っていないんですね。
間口:はい。角のボトルそのものを冷蔵庫に入れて冷やしてあるので氷は不要なんです。立木先生、お願いします。
立木:よし、撮ろう。あとでおれが飲む分はこれでいいよ。
間口:そうですか。よろしければいつでもお作りしますよ。
高橋:たしかに飲みやすいですからスイスイ飲めてしまいますよね。でもあとから効くかもしれませんね。
シマジ:高橋さんはどちらの出身なんですか。
高橋:わたしは盛岡出身なんです。
シマジ:どうりでお酒が強いはずですね。
高橋:いえいえ、嗜む程度です。
シマジ:このハイボールを一番多く飲んだお客さまは、何杯飲みましたか。
間口:3時のオープンから閉店の9時までいて、15杯を悠々と飲んで行かれた方がおりましたね。
立木:ハイボールの撮影は終了!次はなんなの。
間口:次はオイルサーディンをお願いします。この缶詰は京都の日本海側、天橋立のある宮津市にある竹中缶詰です。ぼくは工場まで行ってきましたよ。ご覧ください。きれいに小さなイワシが縦に並んでいるでしょう。これを直火で温めて、つまみとして出しているんです。油を半分くらい捨てて醤油で味付けして大阪の山椒の佃煮を添えるんです。
最初に写真を撮るんでしたよね。
シマジ:そうです。タッチャンお願いします。
立木:うーん、美味そう!
シマジ:高橋さん、ちょっと待ってくださいね。
高橋:はい、わかっております。わたしはこの連載の熱狂的なファンなんです。
シマジ:それは嬉しいです。大感謝です。