第11回 西麻布 HABANA VEGAS 竹中光毅氏 第4章 シガーバーでカストロの一代記を語り合う夜。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

少し前のことになるが、キューバの英雄、フィデル・カストロが享年90歳で亡くなったのをニュースで知った夜、わたしは哀悼の意を込めて彼が愛した葉巻コイーバを吸いながら、キューバン・ラムでひとり献杯した。
キューバは小さな島国であるが、カストロは生涯アメリカと国交を断絶した。自らが権力の座にある間それを貫き通した勇気と信念にわたしは感服した。カストロはまさに信念の共産主義者であった。
ハバナの街にあるようなシガーバー「HABANA VEGAS」でフィデル・カストロの一代記を語り合うのも乙かもしれない。

竹中:ぼくは1年に4度はハバナに行っていますが、キューバ人が貧しいながらも底抜けに明るいのが大好きですね。

立木:たしかに街のなかには音楽も満ち溢れていて陽気だね。旧市街ではミュージシャンがあちこちの路上で演奏しながら、自分たちのCDを売ったりしていたね。

シマジ:わたしがタッチャンのこの前のハバナ写真展でいちばん気に入った写真は、80歳に近い老婆が美味そうに葉巻を吸っていた写真でしたね。貧しくても葉巻は吸うんだという意気込みさえ感じましたね。

高橋:そういえば、たしか去年カストロが亡くなりましたね。カストロってどういう人だったんでしょうか。

シマジ:鋭い質問です。

立木:鋭いというよりもシマジの大好きな質問じゃないの。

シマジ:カストロというのは凄い人ですよ。1959年にそれまでアメリカの傀儡政権だったバティスタ政権を、チェ・ゲバラたちと武力で倒して、いわゆるキューバ革命でキューバの国を社会主義国家にした男です。それから2011年まで、国家主席として君臨したんですからたいしたものですよ。日本ではカストロ議長と呼ばれていましたが、まあ歴とした国家元首です。

高橋:どうしてそんなに長く君臨できたんですか。

シマジ:これも鋭い質問です。カストロ自身、個人崇拝を嫌ったんです。それがよかったんじゃないでしょうか。普通、社会主義国家の独裁者は自分の銅像を建てたり、写真を飾ったりするものですが、ハバナの街にはゲバラの写真はありますけど、カストロの写真は1枚も飾っていませんでした。

竹中:本当ですよ。ゲバラの顔入りのTシャツは売っていますが、カストロのTシャツは売っていませんからね。

シマジ:ハバナにはカストロを美化させるものも、偶像化させるものも一切なかったですからね。

高橋:革命前はなにをしていたんですか。

シマジ:弁護士です。しかも貧しい人たちの弁護士をしていたんです。ちなみにゲバラはアルゼンチン出身で医者でした。革命後、ゲバラはキューバの国立銀行総裁になったりしましたが、それはカストロが彼にキューバ市民権を与えたからです。またカストロは若いころは野球が大好きで、しかも有能な野球選手でもあり、アメリカの大リーガーから嘱望されるくらいだったんですよ。まあ野球はキューバでは国技みたいなものですが。

立木:でも50年以上も国家に君臨したって凄いよね。

シマジ:驚くべきことですよ。アメリカのケネディ大統領と喧嘩したり、ソ連のフルシチョフと渡り合ったりしたんですから。

竹中:先ほど立木先生も仰っていましたが、あんな貧乏な国なのに、教育費と医療費はタダというのも驚きですよね。

シマジ:ですから、カストロの後継者で弟のラウルがオバマ大統領とハバナで会談したとき、オバマが自慢げに「わたしはあなたの国に民主主義という土産を持ってきました」と言ったら、ラウルが「わたしの国では教育費も医療費もタダなんですよ。アメリカではどうなんですか」と返していたのが痛快でしたね。教育費がタダなこともあって勉強のできる子はキューバ大学の医学部に進むらしく、医者の数は世界一だそうですよ。

立木:それはゲバラに対する憧れもあるんじゃないの。

シマジ:そうかもね。ゲバラは格好いいものね。

高橋:キューバは社会主義ですから、個人の私有地はなく、すべて国有地なんですか。

シマジ:そうですよ。革命後、すべてのキューバの土地は国有化されたんです。カストロの実家は元々広大な農園を持っていたんですが、彼はその農園も国有化したため、怒った母親から絶縁状を叩きつけられたそうですよ。カストロの実の娘も父親の体制を嫌い、マイアミに亡命したんですが、それでもカストロは自分の私情を挟まず、信念を生涯貫き通したんです。

立木:カストロもゲバラも意外に親日家だったよね。

シマジ:そうです。彼らは来日したとき、2人とも広島の原爆ドームを訪問して慰霊碑に献花黙祷していますね。

竹中:でもアメリカのCIAやマフィアからいつも暗殺リストNo.1に挙げられていたそうですね。

シマジ:じつに638回の暗殺計画があったそうで、その多さはギネスブックに載っているくらいです。でも1979年、国連総会に出席するためニューヨークに行ったとき、アメリカのジャーナリストが「あなたを暗殺しようと企てている殺し屋はたくさんいます。いつも防弾チョッキを着ているんですか」と訊くとカストロは、「人間は死ぬときは死ぬものだよ。それが運命というものさ。わたしは防弾チョッキなど着ていない。“モラル”というチョッキを着ているけどね」と答え、わざわざシャツのボタンを外して肌を見せたそうですよ。でもよく90歳まで天寿を全うしたと思いますね。

高橋:国家元首ならどんな贅沢もできたでしょうが、贅沢はしなかったんでしょうか。

シマジ:カストロの贅沢はせいぜい葉巻ぐらいだったでしょう。それも70歳くらいで止めていますからね。たしか国家からもらう月給は日本円で8万円でしたか。医者や弁護士が7万円くらいで、タクシードライバーが4万円とか言っていましたね。食べるものはすべて配給です。

竹中:タクシードライバーも国家公務員で、クルマは国有なんですよね。

シマジ:社会主義国家ですからね。でもあの1950年代のアメリカの懐かしい車種のタクシーもそろそろ見られなくなってくるんじゃないですか。

竹中:そうでしょうね。パッカードとかスチュードベーカーなんか見られなくなるでしょうね。アメリカと国交がはじまれば、どんどん近代化していくでしょう。

高橋:観光で行くならいまのうちですか。

シマジ:できるだけ早く行かれたほうがいいでしょうね。

高橋:治安はいいんですか。

シマジ:ビックリするほど治安はいいですよ。

高橋:今度の夏休み行こうかしら。

立木:ハバナは一度は見るべき街だね。時間が止まっているようなところになんともいえない情緒があるね。

高橋:あっ、カストロさんの話に夢中になって、竹中さんのお肌チェックをするのを忘れていました。すみません。こちらにきていただけないでしょうか。

竹中:はい、はい。

高橋:こちらにお掛けください。

竹中:痛くないですよね。

高橋:ただお肌をこのマシーンでチェックするだけです。

竹中:よかった。

高橋:竹中さんの生年月日を教えてください。

竹中:1979年○月○日です。

高橋:はい、判定が出ました。

竹中:どうでしたか。

高橋:Dでした。でも限りなくCに近いDです。

竹中:Dはいいほうなんですか。

シマジ:バーマンはDの方が多いですね。いいほうです。日に当たらない職業だからいいんでしょうね。あとは今日いただくSHISEIDO MENを明日から使ってください。すぐCになりますよ。

竹中:ありがとうございます。

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