
撮影:立木義浩
<店主前曰>
オーセンティックバー「LIVET」のオーナーバーマン、静谷和典(32)ほど、数々の輝かしいタイトルを有するバーマンは他にいないだろう。ここにそれらのタイトルを挙げてみよう。
2009年 ウイスキーエキスパート取得
2010年 ウイスキープロフェッショナル取得
2011年 ワインエキスパート取得
2015年 ウイスキー検定2級3級全国1位を達成
2015年 長和町ブラインドテイスティング大会優勝
2016年 ウイスキー検定1級全国1位を達成
2016年 THE GLENLIVETベストアンバサダーとして、スコットランドにて受賞
2016年 長和町ブラインドテイスティング大会優勝
2017年 雑誌「ウイスキーガロア」にてテイスターとしても活躍中
とまあ、見事なものだ。とは言え、静谷バーマンがウイスキーの知識を自慢げにひけらかすことはない。彼はときにはお客さまの人生の悩みにもじっくり耳を傾ける、話のわかるバーマンである。
シマジ:こちらが、かの文豪開高健が「ミケランジェロ」と呼んだ 立木先生です。
立木:よろしく。
静谷:立木先生に撮っていただくかと思うと、今日は朝から緊張しっぱなしです。
シマジ:こちらは資生堂からのゲスト、佐藤里栄さんです。
佐藤:よろしくお願いします。わたしも緊張しています。
シマジ:立木巨匠といえども根は優しいおじさんですから、お二人とも安心して楽にしてください。
立木:このバーはかなり年季が入っているようだね。
シマジ:でも今月でまだ3年目だそうですよ。
静谷:立木先生にそう思っていただいて嬉しいです。古い趣きがある空間にしたくて、内装などいろいろ工夫したんです。狭い店で撮影しにくいかもしれませんが、今日はよろしくお願いします。
立木:大丈夫。シマジのところで5、6年訓練させられたから、狭い場所での撮影は慣れているんだ。安心していいよ。じゃあ、まずカラーで飲み物を撮ろうか。このカウンターの上になにか置いてくれる。
静谷:わかりました。では早速グレンリベット12年のソーダ割りを作りましょう。
シマジ:へえ、伊勢丹の「サロン・ド・シマジ」のスパイシーハイボールと一緒で、サントリー山崎のプレミアムソーダを使うんだね。
静谷:このソーダはスグレモノです。
シマジ:静谷、悪いけど2杯一緒に作ってくれる。
静谷:かしこまりました。
立木:2杯は撮影しないよ。
シマジ:1杯はゲストの佐藤さんに飲んでもらうためです。撮影用の1杯はあとでわたしがいただきます。
立木:そうか。そう言えばこの間から取材中に2杯ずつ作らせていたね。なるほど。ゲストを早く酔わせて面白い話を聞こうということだな。
静谷:はい。できました。ここでいいですか。
シマジ:やっぱり静谷バーマンもソーダをかき回さないんですね。
静谷:このソーダは繊細ですから、かき回すと泡がすぐに飛んでしまうんです。
シマジ:もう1杯は佐藤さんの前に置いてください。
佐藤:ありがとうございます。
立木:うん、いかにも美味そうなハイボールだね。ヤマグチ、しずくがうまく写るようにこの辺にライトを当ててくれ。
ヤマグチ:かしこまりました。明るさはこのくらいでいいでしょうか。
立木:うん、そんな感じでいい。
佐藤:美味しいです!
シマジ:佐藤さん、グレンリベットの意味はおわかりですか。
佐藤:さあ・・・。
シマジ:静かなる谷という意味のゲール語です。ですからこのシングルモルトは静谷のためにあるようなものなんです。と言うか、静谷はバーマンになるために生まれてきたような男なんですよ。なあ、静谷。
静谷:ありがとうございます。店の名前も「リベット」以外は考えつきませんでした。
佐藤:偶然でしょうけど、いいお話ですね。
立木:はい。撮影終了!
静谷:えっ、ずいぶん速いですね。ではこれはシマジさん用ですね。
シマジ:タッチャンの仕事は、速い、巧い、高い、なんだよ。
立木:おい、同じセリフを何度も言わせないでくれる。高い、じゃなくて、安い。シマジに使われると、速い、巧い、安い、になってしまうんだから。さあ、ところで次はなんなの?
静谷:では次は、5種類の年代の違うグレンリベットのミニ樽をうちでバッティングした、自家製のグレンリベットです。まあ割合は18年が多いですが。これはストレートで撮ってください。
立木:樽と一緒に撮ろうか。この樽に沢山貼ってあるメダルはなんなの。
静谷:これはグレンリベット18年のボトルに貼ってあるメダルです。
シマジ:では静谷、佐藤さんにはトワイスアップでシェークして出してくれますか。
静谷:了解しました。はい、どうぞ。
シマジ:わたしの「サロン・ド・シマジ」ではストレートで飲むのは禁止しているんです。:
静谷:どうしてですか。
シマジ:静谷もおそらくご存知のように、スコットランドのバーでは必ず加水して飲んでいるでしょう。それに倣っているんです。それに、もしもお客さまが食道ガンで亡くなってしまったら大変でしょう。
静谷:なるほど。
立木:はい。このミニ樽の撮影は終了!
静谷:次は売り物ではありませんが、グレンリベット21年ファウンダーズリザーブを撮っていただけませんか。じつはこれは、去年グレンリベット蒸留所に招待されてベストアンバサダーの称号をもらいに行ったときに、記念にいただいてきたものです。楯の代わりにミニ樽の底に名前を書いたものをもらいました。
立木:これはミニ樽の上に乗せて撮ろうか。
静谷:シマジさん、1杯いかがですか。
シマジ:そんな貴重なものを飲ませてくれるんですか。ではわたしが代表していただきますか。
立木:光より速く撮るから、シマジ、待ってな。
シマジ:ひと晩でも待ちますよ。
立木:はい、OK!
静谷:シマジさん、まずニートでちょっと飲んでから加水してください。
シマジ:ザ・グレンリベットアーカイブ21年は何度も飲んだことがあるけれど、ファウンダーズリザーブははじめてです。うん、スッキリしているね。ナッツのようなフレーバーを感じる。で、なおかつスモーキーな香りも漂っている。絶品です。
静谷:ありがとうございます。いまシマジさんのバーで売っている山崎のミズナラにはとても叶いませんが、まあまあでしょう。
シマジ:でもグレンリベットはアメリカ市場でいちばん売れているモルトウイスキーなんだってね。
立木:最後はなにを撮るの。
静谷:では最後は「母のカクテル」で締めましょうか。
立木:なになに、「母のカクテル」か。
静谷:これはぼくの母が庭で作って送ってくれる自家製のキウイを使った、特製のカクテルなんです。
佐藤:わあ、飲んでみたいです。
静谷:撮影用に1杯作りますから、立木先生が撮られたら佐藤さんが代表して飲んでください。これは母の自家製のキウイを1個ジューサーで絞り、マリブリキュールとココナツリキュールとパインジュースを入れ、牛乳をちょっと垂らします。立木先生、でき上がりました。どうぞ。
立木:ここに置いてくれる。これは美味そうだ。
シマジ:「母のカクテル」とはいいネーミングですね。
静谷:いつのまにかそう呼ばれるようになりました。
立木:はい。これで飲み物の撮影は終了!あとはみんなの顔を撮るから勝手に喋っていてくれる。
静谷:では佐藤さん。どうぞ。
佐藤:これは美味しいです!キウイのカクテルは生まれてはじめて飲みました。お母さまと静谷さんの愛情まで感じられる気がします。ありがとうございます。感激です!
静谷:こちらこそ。ありがとうございます。