第9回 南青山 HELMSDALE 村澤政樹氏 第1章 スコットランドにいるような錯覚を起こすパブ。

撮影:立木義浩

<店主前曰>

わたしのマンションから指呼の間にある「ヘルムズデール」は英国風のパブである。駅からのアクセスがいいとは少々言い難く、店内が特別に広いわけでもないのだが、この店のタリスカー10年の売り上げの多さには目を見張るものがある。
週末だけわたしがカウンターに立つ伊勢丹のサロン・ド・シマジにおいて、タリスカー10年の売り上げは全国の数あるバーの中でなんと4位につけている。ところがどうしても敵わない大きなライバルが南青山にいる。それが「ヘルムズデール」なのだ。
オーナーバーマン、村澤政樹が考案したTSPというドリンクがその鍵を握っているらしい。TSPとは、タリスカー10年(T)をソーダ(S)で割り、1パイント(P)のグラス(約570CC)に注いだものである。しかも1杯1,100円と格安だ。これが毎晩飛ぶように売れて、「ヘルムズデール」はタリスカー10年の売り上げ全国第3位の地位を確保しているというわけだ。ちなみに1位、2位の店は名古屋にあるという。

シマジ:TSPはいつごろから売りはじめたんですか。

村澤:そうですね。ハイボールブームが戻ってきた5、6年前からですか。

シマジ:おっと、ご紹介しますね。こちらがご存じ立木先生です。

村澤:先日「タリスカーゴールデンアワー」でお世話になった村澤です。

立木:おお、村澤、元気だったか。

村澤:はい、10月いっぱいまで軽井沢店のほうで頑張っていましたが、気温が3度まで下がって寒かったです。慌てて東京に戻ってきました。

シマジ:村澤、こちらは資生堂からいらした松山美紀さんです。

松山:本日はよろしくお願いいたします。

村澤:こちらこそ。ではまずカラー撮影用にTSPとスコットランドのスタウトビール、ブラックアイルを作りましょう。立木先生、この2つを一緒に撮ってください。

シマジ:ここのTSPはブラックペッパーを使わないんですよね。

村澤:ところがシマジさんがスパイシーハイボールを普及させたお陰で、ピートで燻製させたブラックペッパーをかけてくれないか、と注文されることがうちでも多くなりました。いまこの飲み方を好むお客さまが断然増えていますね。

立木:シマジの影響力もバカにしたものじゃないんだ。

シマジ:もともとタリスカー10年にはブラックペッパーの香りがしますから、そこを特化してやるとますます美味くなるんです。

村澤:うちでははじめはワンショット500円で売っていたんですが、それを1パイントグラスに変えて1杯1,100円で出しています。立木先生、TSPとブラックアイルが出来ました。

立木:じゃあこちらのテーブルに持ってきてくれる。

村澤:かしこまりました。

シマジ:松山さん、撮影が終わったらTSPとブラックアイルがあなたの前にきますから、じっくり味わって飲んでくださいね。

松山:うわ、愉しみです。

シマジ:松山さんは飲めるほうですか。

松山:いえ、たしなむ程度です。ちなみにわたしの好きなシングルモルトはラガヴーリンです。

シマジ:それはかなりの通ですよ。村澤、あとでいいからラガヴーリン16年をトワイスアップでシェークして松山さんに出してくれる。

村澤:承知しました。

立木:はい。TSPとブラックアイルの撮影は完了した!

シマジ:じゃあ、村澤、松山さんの前に運んでくれる。

村澤:松山さん、どうぞ。

シマジ:TSPにはちゃんとブラックペッパーがかかっているじゃないの。

村澤:シマジさんがいらっしゃるからには、かけざるを得ないでしょう。

シマジ:ブラックアイルもかなり冷えていますね。

村澤:いま、スコットランドでも少し冷やして飲むのが流行っているんです。

シマジ:では松山さん、どうぞお飲みください。

松山:シマジさんの分がありませんね。

シマジ:わたしの分はすぐ村澤が作ってくれるでしょう。

村澤:はい、これがシマジさんの分です。

松山:グッドタイミングですね。

シマジ:じゃあ、作り立てのほうを松山さんが飲んでください。

松山:いいんですか。

シマジ:もちろん。ではスコットランド式の乾杯をやりましょう。スランジバー!ゴブラー!と、ご一緒に。

松山、シマジ:スランジバー!ゴブラー!

シマジ:一回で覚えたのはたいしたものですよ。

松山:どういう意味なんでしょうか。

シマジ:スランジバーは“あなたの健康を祝して”、ゴブラーは“あなたの成功を祈って”という意味です。スコットランドのバーでは毎晩言われています。松山さん、この2つを交互に飲むといいですよ。

松山:はい、わかりました。では黒ビールから飲んでみますね。うーん、美味しい!

立木:村澤、撮影が終わったらおれにもブラックアイルを1杯作ってくれる。

村澤:喜んでお作りしましょう。

立木:シマジ、この次はなにを撮ればいいんだ。

シマジ:いま村澤がキッパーを焼いていますから、もうちょっと待っていてください。

村澤:はい、キッパーが焼き上がりました。立木先生、どうぞ。

立木:この向きでいいんだな。このお粥みたいなのは何だ。

村澤:向きはそれでいいです。お粥みたいなのはポーリッジと言って、カラス麦の粉をお湯で溶いたものです。それに塩とミルクと砂糖とハチミツを少々入れて味付けしたものです。このポーリッジが、塩気が強いキッパーに合うんですよ。

松山:このビールは美味しいですね。いままで飲んだことがない味がします。

シマジ:いますぐキッパーがきますから全部飲まないでTSPを飲んでいてください。ブラックアイルとキッパーがこれまた合うんです。

松山:キッパーってなんですか。

シマジ:北海で捕れたニシンの燻製です。塩がかなり利いてしょっぱいですよ。

松山:TSPも美味しいですね。ブラックペッパーが利いていて口当たりが刺激的です。

立木:キッパーとポーリッジも終了!

村澤:では最後はハギスといきましょう。今日は特別に羊の胃袋に入れて出しますね。立木先生、どうぞ。

立木:これは迫力あるね。

村澤:松山さん、お待たせしました。これがキッパーです。ブラックアイルを飲みながら食べてください。食べやすいようにキッパーをほぐしましょう。ポーリッジも間に召し上がってくださいね。

松山:これは生まれてはじめて味わう食感です。美味しいですね。

立木:ハギスも撮影終了!あとは銘々を撮影しよう。じゃあ3人でレンズを見てくれる。OK。あとはカメラを意識せずにしゃべっていてくれればいいよ。

松山:たしかにブラックアイルが合いますね。

村澤:ハギスもどうぞ召し上がってください。キッパーとハギスは当店自慢の人気料理です。

松山:ハギスってなんですか。

村澤:ハギスなくしてスコットランドは語れないと言われている料理です。この羊の胃袋に入ったミンチは、羊の肉、レバー、心臓、それにタマネギ、アンチョビ、オートミール、大麦、塩・胡椒、にタリスカーを練り込んで蒸したものです。さらに食べるときにもタリスカーをかけます。どうぞ、これにはうちのTSPが合いますよ。

松山:これもはじめていただきます。うーん、臭みがまったくなくて美味しいです。

シマジ:よかった。松山さんが食べられなかったらどうしよう、と少し心配していました。

村澤:この胃袋の部位は、あとでもう一度フライパンで焼いて出しますね。硬いけど美味しいですよ。むかしはラクビーのボールに羊の胃袋を使っていたそうです。

松山:そうなんですか。こんなにおいしいお料理とお酒をいただいて、今日は本当にシアワセです。

もっと読む

新刊情報

神々にえこひいきされた男たち
(講談社+α文庫)

著: 島地勝彦
出版: 講談社
価格:1,058円(税込)

今回登場したお店

HELMSDALE

東京都港区南青山7-13-12 南青山森ビル 2F
Tel:03-3486-4220
>公式サイトはこちら (外部サイト)

商品カタログオンラインショップお店ナビ
お客様サポート資生堂ウェブサイトトップ

Copyright 2015 Shiseido Co., Ltd. All Rights Reserved.