第13回 恵比寿 ゴロシタ. 長谷川慎氏 第2章 おまかせコースの隠し味は信頼です。

撮影:立木義浩

シマジ:長谷川シェフの営業方針みたいなことを聞きたいんですが。

長谷川:はい。「golosita.」はオープンして3年半になりますが、初めの頃はアラカルトメニューを中心に料理を提供してきました。ですが最近はありがたいことに、予約の際に「料理はシェフのおまかせでお願いします」というオーダーをいただくことが多くなってきています。それで、アラカルトとおまかせを両立させながら、お客さまに満足していただく料理やサービスを提供することが難しくなってきているなと感じるようになりました。

シマジ:シェフのおまかせでちょっとずつ出すのは、わたしはいいアイデアだと思いますね。

長谷川:そうなんです。うちにいらっしゃるお客さまは食通の方が多く、豊富な食体験をお持ちで、本物の味がわかる方、食に厳しい方ばかりだなあとつくづく思います。そんなわけでここ半年ほどは、うちの料理の出し方を見つめ直そうと思ってきました。

シマジ:お客さまは、その日の食材の仕入れで長谷川シェフが手がける美味い料理が提供されれば満足してくれるんではないですか。

長谷川:はい。誰もがハッピーになれるのは、美味しい料理を最も美味しい状態で食べてもらうことだと思っています。これをもっと突き詰めて、さらに高めようという結論に達したわけです。

シマジ:それはいい結論に達しましたね。お客さまも喜んでくれるのではないですか。それをもっと具体的に聞きたいです。

長谷川:材料を吟味して作る料理を日に10品から15品前後用意して、それぞれを少しずつ最高の状態で召し上がっていただけるスタイルに変更させていただくことになりました。それはお寿司屋さんのおまかせのようなイメージだと思っていただければわかりやすいと思います。

シマジ:たとえば今日のおまかせ料理はどんな感じなんですか。

長谷川:いまの季節ならではの桜エビ、フランス産のホワイトアスパラ、金目鯛、ホタルイカ、など10品以上があります。

シマジ:桜エビのパスタなんて受けるでしょうね。

服部:それはぼくも食べてみたいですね。

長谷川:いまからお作りしましょうか。

服部:いえいえ、今日はもうたっぷり頂いてお腹がパンパンですので、次回にいたします。

シマジ:常連のお客さまの好みは、長谷川シェフが重々理解しているでしょうし、いいやり方だと思いますね。お値段はどれくらいに設定しているんですか。

長谷川:二通りありまして、12,000円と15,000円でそれぞれ税別・席料別です。当然ですが、価格によって食材や料理の内容は異なります。シマジさんのお好みはおおよそ理解しているつもりですから、予約のときに食べたいものをリクエストしていただければ、ほとんどご用意出来ます。いままでのように、いらしたときには売り切れで食べられなくてガッカリ!ということはなくなり、確実に食べられます。

シマジ:たしかにこれは能率的なシステムですね。いつか天然の舞茸が食べたいですね。

長谷川:シーズンになったらご用意いたしましょう。また同行させるお連れさまがアレルギーや宗教上の理由などから召し上がれない食材がございましたら事前にお知らせください。

立木:たしかに日本もこれだけ国際的になってくると、宗教上の理由で食べられないものがある外国人もくるだろうね。

長谷川:はい。そういうこともよくあります。

シマジ:平凡な質問で申し訳ないんですが、長谷川シェフはどちらの料理学校を卒業されたんですか。

長谷川:わたしは大阪生まれなので、大阪の辻調理専門学校を卒業しました。専攻コースはフランス料理科です。

シマジ:大阪出身なんですか。でも関西弁が出ませんね。

長谷川:いえいえ、関西弁のお客さまと話すと、ついついこちらも関西弁になってしまいますね。

シマジ:卒業してどちらに勤めたんですか。

長谷川:大阪のリッツカールトンホテルでした。

シマジ:リッツカールトンでフランス料理の調理場で働いたんですか。

長谷川:いえ、それがオープンしたばかりの地中海料理の「スプレンディード」でした。わたしがホテルを選んだ理由は、一流の料理の基礎を学ぶには最適と思ったからです。

シマジ:なるほど。

長谷川:当時わたしもまだ若く、漠然と、外国に行って活躍したいと思っていたんです。それでリッツカールトンの面接で志望動機を訊かれたときに、「アメリカのリッツカールトンで働いてみたいです」と答えた記憶があります。

シマジ:春秋に富む青年らしい志望動機ですね。

長谷川:そのために社則を英語で覚えたり、テストを受けたりして、アメリカのリッツカールトンに行けることになったんです。ところが2001年、例の9.11が起こったんです。それでアメリカ行きはなくなってしまいました。

シマジ:それからどうされたんですか。

長谷川:それから“さすらいの料理人”になりましたね。イタリアにはいままで7回旅しています。

シマジ:帝国ホテルの名物料理人、村上信夫さんのことを書いた『人生はフルコース』(佐藤陽著:東京書籍)を読むと、名料理人になるには鍋の底にへばりついたソースをなめることと、一流のレストランの食べ歩きがいちばんだと書いていますが、長谷川シェフも方々食べ歩きをしたんですね。

長谷川:あの本は名著ですね。わたしも愛読したものです。そうですね、イタリアを放浪しながら各地の料理を食べているうちに、だんだんわたし自身がイタリア料理に傾いていきました。最初は30日間かけてイタリア中をさすらったんですが、イタリア人にはいろいろと世話になりました。彼らは最初こそ警戒するけど、仲がよくなると親切に面倒をみてくれましたね。小さなレストランでちょっと働かせてもらったこともありますよ。従業員相手のカードゲームに勝ちまくった思い出もあります。当時わたしはまだ20代半ばで、自分の店を持とうとは思っていませんでした。ですから日本で半年か1年くらい働いてはイタリアに行く、ということを繰り返していました。

シマジ:長谷川シェフ、あなたのお名前を聞いたのは広尾のナショナルマーケットの近くにある「クリオーゾ(curioso)」、好奇心という意味の店のシェフになられた頃です。「クリオーゾ」のチーフシェフになられたのはいつごろですか。

長谷川:あそこはスポンサーがいて料理人兼社長の形で働いたのですが、2009年わたしが32歳の頃でした。

シマジ:「クリオーゾ」では何年働いたのですか。

長谷川:5年半ですか。

シマジ:そして恵比寿に「golosita.」をオープンしたんですね。

長谷川:その前にお世話になったお店は数々ありますが。

シマジ:たとえば?

長谷川:グランドハイアットのイタリアレストラン「フィオレンティーナ」や中目黒の「ラ・ルーナ・ロッサ」などいろいろお世話になりました。

シマジ:そうですか。ところで、いまはイタリア料理の食材もほとんど輸入されたり、日本で栽培されたりするようになったので、手に入れるのが楽になったでしょう。

長谷川:その通りです。むかしはイタリア独特の黒キャベツなんてとても日本では手に入らなかったですからね。

シマジ:パルマ産のハムも、サルデーニャ産のカラスミも、日本でいつでも手に入るようになったのは凄いことですよね。

長谷川:輸入専門業者がすべて用意してくれる時代ですからね。

シマジ:日本では禁鳥として食べられませんが、スコットランド産の雷鳥だって、時期になればいくらでも食べられますものね。

長谷川:そうです。いまや世界中のいろいろな食材が空輸で入ってくるようになりましたからね。

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新刊情報

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今回登場したお店

六本木 Restaurant Ryuzu

東京都港区六本木4-2-35
Tel:03-5770-4236
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