
<店主前曰>
現在わたしが物書きの端くれとして暮らしていられるのは、まだ現役の編集者だった65歳のころ「東京スポーツ」の太刀川会長に「シマジ君、こうして酔っ払って話している君の内容はじつにユニークで面白い。是非うちの新聞に来月からコラムを週1のペースで連載してくれないか」と夢のような依頼があった。それから5年半、わたしは直腸癌で2週間入院したり、心臓冠動脈のバイパス手術で3週間入院したが、一度も連載を休んだことはなかった。それからしばらくして、この連載のエッセイが纏められて、わたしの処女作『甘い生活』と『知る悲しみ』が上梓された。しかしすべてのことに時があるように、今年の3月末で「東スポ」の連載は幕を下ろした。その連載「グラマラスおやじの人生智」の担当者が今回のゲストの古川泰裕である。
「シマジさん、連載は終了しましたが、これからもっと頻繁にお付き合いしてください」と連載が終わった夜、酒を飲みながらしみじみ言った。このセリフはどこかで聞いたような気がした。あっそうだ。若かったわたしが「週刊プレイボーイ」の柴田錬三郎先生の人生相談の連載が終わったとき、同じセリフを吐いたことがあった。フルカワ、おまえ、泣かせるじゃないか。
フルカワ 立木先生に写真を撮られるなんて夢のようで緊張しますね。
シマジ フルカワ、おまえ、今日はそんなに汗をかいてどうしたんだ。
フルカワ こちらのお嬢さんはまたどうしたんですか。
シマジ こちらは資生堂のビューティーコンサルタント(BC)のBC稲葉さんだ。一流デパートのSHISEIDOの売り場からおまえのために駆けつけてきてくれたんだ。
BC稲葉 本日はよろしくお願いいたします。
フルカワ こちらこそ。
シマジ おまえの玉のような汗がとまらないなあ。冷房を入れよう。
立木 シマジ、こいつは可愛いヤツだね。おれ、好きになった。シマジ、おれにフルカワをくれないか。
シマジ それは太刀川恒夫会長に相談しないとちょっとまずいだろうな。
立木 えっ、あの怖い太刀川さんに。
シマジ 泣く子も黙るあの太刀川さんですよ。
立木 一度、ああいう怖い人の顔を撮ってみたいな。いま軟弱な男ばかりがはびこっていて面白くない。
シマジ それじゃおれが怖いと感じて、尊敬している太刀川さんを紹介しようか。
立木 勘弁してくれ。おれはとても1人では撮影できない。シマジ、付いてきてくれ。
シマジ 巨匠は意外と意気地がないんだね。太刀川さんはああ見えてもこころは繊細で優しいかただよ。なあ、フルカワ。
フルカワ 殿上人のことは知りません。今日は立木先生に撮影してもらうというので、バリッとスーツを着てこようと思ったんですが、シマジさんから面白いTシャツを着てこいという注文だったので、Tシャツ5枚持参してきました。
立木 こいつ、いまどき珍しい純情な可愛い男だね。気に入った。お色直しの写真も撮ってあげる。
フルカワ ありがとうございます。ぼくもセオさんみたいに遺影にします。
立木 セオに言っておけ。遺影は別注文・別料金でいつでも撮ってやるから、簡単に流用しないでくれって。
シマジ 遺影写真がTシャツっていうのはいかがなものかな。
フルカワ 今日はぼくは何をやればいいんですか。
シマジ あっ、そうだ。こんな可愛いお嬢さんの存在を忘れていた。まず、この器械でフルカワの肌チェックを稲葉さんにやってもらわなければ、この鼎談ははじまらない。稲葉さん、フルカワをよろしくお願いします。
BC稲葉 はい。
シマジ それにしてもおまえの汗は尋常じゃないね。どこか具合が悪いんじゃないか。
フルカワ ぼくは水やお茶を最低1日5リッターは飲みます。だから深夜必ずトイレに1回は起きます。
シマジ 5リッターは凄いね。カッパだってそんなに飲んでいないだろう。チェックの結果が愉しみだ。おまえはセオ派で生まれてこのかた、何も肌の手入れはしてこなかったんだろう。
フルカワ そうです。シマジさんに送っていただいたSHISEIDO MEMのサンプルは一回しか使いませんでした。
シマジ 本当かよ。おまえの判定を早く知りたい。
フルカワ やっとシマジさんのこの連載の魂胆がわかりました。
シマジ 何だって。
フルカワ 第1回はメンズプレシャスのハシモトさんでしょう。バリバリの洒落男です。第2回目はセオさんでしょう。凄腕のジャーナリストで愛妻家で有名ですが、お洒落とはほど遠い人です。しかし、今回、いい男に撮れていましたね。ぼくは嫉妬と驚きを同時に感じました。それで第3回目はこれまたイケメンのPenのサトーじゃないですか。それで4回目がぼくです。1回と3回、2回と4回がセットになっていませんか。
シマジ 別にそんな魂胆はなかったが、たまたまそうなっただけだよ。ねえ、タッチャン。
立木 急におれに振るな。可愛いフルカワをセオ以上にいい男に撮ろうといま必死なんだ。
フルカワ ありがとうございます。嫁も喜びます。うちの嫁は某化粧品会社に勤めています。
シマジ えっ、資生堂のライバル会社じゃないか。
フルカワ 天下の資生堂と比べたら、うちの嫁が可哀想です。第一、メンズものの化粧品はやってはいるけど、それほど・・・。
シマジ そろそろ肌の人間ドックの結果はどうですか。
BC稲葉 はい、出ました。総合評価はDです。
シマジ えっ、フルカワがDだって!何にもしないフルカワがですか。
フルカワ えっ、71歳のシマジさんと同じDなんですか。ショックです。
シマジ フルカワ、何を言ってるんだ。おれは大金を肌に投資してDなんだ。おまえは投資ゼロでDってどういうことなんだ。
フルカワ 嫁にはいつもあなたの肌はスベスベしていて、うらやましいってよく言われています。
シマジ 某化粧品会社の嫁がおまえの肌を褒めてるのか。
BC稲葉 フルカワさまには失礼ですけど、何歳でいらっしゃいますか。
フルカワ 42歳です。
BC稲葉 せっかくご両親から強いお肌をさずかったのですから、これからが正念場です。
シマジ セオはおまえの歳まではDだったかもしれないな。40代の後半になってEになったかもしれない。「男の顔は40までは両親の作品だが、40からは自分の作品だ」とよく言われているんじゃないか。
フルカワ そうですか。あれは格言好きなシマジさんの創作とばっかり思っていました。
立木 フルカワ、おまえは可愛い。シマジにガンガン言ってやれ。
BC稲葉 でもフルカワさまはこれから年々老化は進みますから、このチャンスに肌のお手入れをおすすめします。
シマジ 一日でも早くはじめないと、おれくらいの歳になったとき汚いジジイになっているぞ。フルカワ、おまえは嫁にも見捨てられて孤独死が待っているぞ。
立木 シマジ、可愛いフルカワをそんなふうに脅迫しないでくれる。フルカワ、嫁はいくつになった。
フルカワ 33かな。
立木 嫁が33歳だって。ヨダレが出ちゃうほどうらやましいけど、末永くお幸せに。
フルカワ 嫁はぼくの顔をまんざらでもないように毎日見てくれていますが、一度居酒屋でこの間まで阪神の監督をしていた真弓に「おまえはよくそんな顔して生きてこられたな」って言われたことがありました。
シマジ 真弓はいまでも自分がイケメンと思っているのかな。
たしかにタッチャンみたいに若いときもイケメンで、いまでも味がある初老のイケメン紳士って珍しいかもな。
立木 シマジの例のほうが珍しいよ。シマジはだんだん歳を取ってきて見られるようになったよな。
シマジ それこそSHISEIDO MENのお陰だね。
立木 そう。福原義春さんとのお付き合いもかなり影響しているな。
シマジ わたしは”アカの他人の七光り”で生かさせていただいているんです。
立木 こころにもないことを言うんじゃない。シマジは自分がいちばん好きな男だからな。でもおまえは自分で努力して独特の妖しい魅力を身につけたと思う。写真を撮ってつくづくそれがわかった。
フルカワ シマジさんは面白いですよ。だから連載が終わってもこうして会いたくなるんです。
シマジ おれのことはいいから、フルカワの肌を分析してください。
BC稲葉 フルカワさまはこれからが勝負です。
フルカワ じゃあ、セオさんに負けないようにやってみますか。
シマジ 稲葉さんのいるお店のSHISEIDO MENの売れ行きはどうなんですか。
BC稲葉 それがここのところ毎月売り上げを伸ばしております。たとえば先月などクレンジングフォームだけで300本も売れました。
シマジ 凄い!一日平均10本は売れているんだ。
BC稲葉 それと合わせてトーニングローションもよく売れています。
立木 シマジ、よかったね。これで福原さんに合わせる顔ができたね。自慢出来るんじゃないか。
シマジ よかった。たしかにクレンジングフォームで顔を洗うと、普通の石けんはもう使えなくなるよね。「知る悲しみ」を感じる。
立木 シマジの宣伝で日本全国の男たちがSHISEIDO MENを使い出したかもね。社会現象としてちょっぴり明るい話かもしれない。
フルカワ ぼくも一式買いますか。稲葉さんのコーナーから買わせてください。
立木 フルカワ、某化粧品会社の嫁は大丈夫か。
フルカワ もちろん、嫁と一緒に稲葉さんのコーナーに行きます。
シマジ フルカワ、今度こそ真弓を見返してやんな。
立木 フルカワ、そろそろTシャツのお色直しと行こうか。
フルカワ はい。いま着ているのはシマジさんとお揃いのハイドロゲンのTシャツです。ぼくのは楽天で5,000円で買った代物です。同じドクロマークですが、シマジさんのは高そうですね。
シマジ 大したことはない。日本ではハイドロゲンと言われているが、イタリアではHを発音しないから、イドロゲンって言われているんだ。