
<店主前曰>
わたしは、ヨネダのことは親友のSM作家館淳一に紹介されるまでまったく知らなかった。そのときヨネダはわたしに書き下ろしの単行本の仕事を依頼してきたのである。わたしのいままでの作品を読み込んだヨネダが面白いアイデアが閃いた、というのだ。「シマジさん、あなたの文章のなかに輝ける名言、格言がいっぱい埋蔵されています。それだけ抽出してエッセイを書くだけで1冊の本に纏められます。題して『はじめに言葉ありき おわりに言葉ありき』でいきましょう。100本は軽いでしょう。名言、格言100本をまず選んでいただいて、一本につき700字のエッセイを書いてください」
そのアイデアにそそのかされて、わたしは翌日からせっせせっせと書きおろした。10本が溜まったところでヨネダに送稿した。ヨネダは優秀な編集者である。一本、一本に2重丸、一重丸、三角の採点とコメントをつけて送り返してきた。わたしは全部が二重丸を獲得するまで何度も書き直した。気がついたら、人間の煩悩と同じ数字の108本になっていた。でもこの本を丁寧に読んだ読者は気がつくことだろう。じつは109本あるのだ。
シマジ ヨネダ、今日、おまえは緊張しすぎじゃないのか。もっとリラックスしなさい。
ヨネダ 立木先生に写真を撮られると思うと、やっぱり緊張しますよ。立木先生、ぼく、素人でスミマセン。
立木 素人を撮影するのはこの連載でもうなれた。
シマジ 今日の資生堂の出演者は、国際事業部 国際マーケティング部の狭間さんだ。いかにヨーロッパでSHISEIDO MENが売れているか、またお洒落な男たちがどうのように使っているか、お話を聞かせていただこうという趣向だ。
立木 いくらシマジが頑張ってもヨーロッパ市場には売り上げは負けているんだろう。
シマジ タッチャン、まあ、みててくれ。2年すれば必ず追いつけるさ。
狭間 シマジさんのお陰でいま日本市場でSHISEIDO MENの売り上げは躍進中です。
シマジ 国際的にみれば、日本の男性化粧品はまだまだ発展途上国だからね。
ヨネダ 告白しますと、ぼくは顔専用の石けんでは洗いますが、いままで男性化粧品などつけたことがありません。
シマジ それがいまの日本男児のゆゆしき現状なんだ。
立木 シマジ、日本の男たちに、”お肌革命”を起こすのは大変なことだよ。
狭間 それではヨネダさんのお肌のチェックをさせてください。
ヨネダ 怖いですね。
シマジ ヨネダ、痛くも痒くもないから安心しろ。
狭間 結果が出ました。Eでした。
ヨネダ Eですか。Dくらいかなと淡い期待はしていたんですが、残念でした。夕べあまり眠れなかったのが要因ですかね。
シマジ それはあまりに虫がよすぎるよ。生涯何もつけてなくてDはないぜ。
ヨネダ 先月のハギワラさんは何もつけていなくてCだったじゃないですか。
シマジ あいつは毎晩ホルモンを喰らい、浴びるほど飲んでいるからなんだろう。それにまだ若い。おまえはいくつになったんだ。
ヨネダ 54歳です。
狭間 54歳としてはお肌に張りがありますね。シミもまったくありません。
ヨネダ ありがとうございます!!
シマジ ヨネダ、今日からSHISEIDO MENを使えば、その肌のコンディションなら2ヶ月くらいでDに昇格することは受け合うよ。
ヨネダ ホントですか。
立木 当たり前だ。いままで何もやらなかった畑に上質な肥料をまくようなもんだ。そうでしょう、狭間さん。
狭間 その通りでございます。ヨーロッパの男性はデートに行くとき、わざわざ家に帰ってシャワーを浴びて、それからSHISEIDO MENを丁寧にぬり直して外出するそうです。
シマジ それは職住接近のミラノやフィレンツェの話だろうな。
立木 たしかに東京は広いし、それに茨城県に住んでいたら、そう簡単にデートのために仕事が終わって、いちいち家に帰れないんじゃないか。
狭間 たしかにその通りでしょうね。
ヨネダ でもその執念が凄いですよね。
立木 結婚している男はさらに難しいよな。シマジくらい自由なお方は別にして・・・。
狭間 わたしも結婚している男性がわざわざ家に戻ってきて、シャワーを浴びて化粧をしてから出ていったら、奥さまに疑われると思いますね。
立木 それってわざわざ墓穴掘るようなものだよな。
シマジ いくらおれだってそんなことはしないよ。
ヨネダ でもお洒落の身だしなみとしては、ヨーロッパの男性は進んでいますね。
狭間 たしかに女性からみれば、男性のお肌の状態のよさは気になります。
ヨネダ 肌の状態は健康状態にも現れますね。
立木 金遣いが荒いのも現れるんじゃないか。シマジなんて浪費家そのものの肌だぜ。
ヨネダ でもシマジさんは71歳になったとは思えないほどモチモチ肌です。やっぱりSHISEIDO MENのお陰ですか。
シマジ もちろん。ここ9年間、1日もこの化粧品はつけなかったことがない。
立木 ウソつけ。大病にて入院していたときは、さすがにつけなかっただろう。正直にいいなさい。
シマジ そんなことはない。看護師に顔をタオルで拭いてもらったあと必ずつけてもらっていた。
一同 ・・・・・・・。
立木 シマジはホントに世話がやける患者だね。
ヨネダ それはまさに執念でしょう。
シマジ 頭を洗ってもらうときも、ちゃんと資生堂のアデノゲンのシャンプーとコンディショナーを持参して行って、それで洗ってもらったんだ。そうしたら「このシャンプーの泡は凄くキメが細かいですね。わたしが使っているより上質です」っていわれたんだ。
立木 シマジは髪が伸びたって、専属の美容師を病室まで呼びつける男だからね。
狭間 そうなんですか。
シマジ おれって、1週間に1度は美容室に通い、髪をカットしてもらわないと気持ち悪いんだ。
立木 女性でも1週間に1度は行かないんじゃないの。
シマジ その美容院には資生堂の化粧セットを全部置いてあるんだ。最後はSHISEIDO MENのヘアワックスでヘアを固めておしまいなんだよ。
ヨネダ ボトルキープじゃないんですから、自分の化粧品一式を美容院に置いてる男性って聞いたことがありません。
シマジ あとはスポーツクラブのロッカーにも一式入っている。
狭間 シマジさんならヨーロッパの男性に負けていませんね。
ヨネダ でも現実に実行されて結果をこうして目にみえる形で出しているんだから、シマジさんは凄いですよ。
立木 いやいや、シマジも1人になると、背中が曲がっていることがあるんだ。この間、伊勢丹でそれを目撃したからおれが注意してやった。「シマジ、油断するな。背中をシャキンとしろ」てね。
シマジ こうして何歳になっても忠告してくれる真の友がいることは幸せなことなんだ、とおれはいつもタッチャンには感謝しているよ。
立木 ウソをつけ。すぐ忘れるくせに。
シマジ そんなことはない。あのときはハッとした。あっ、そうだ。狭間さん、おれは最近、クレンジングフォームは使わずに毎回ディープクレンジングスクラブで洗顔しているんですが、いいですよね。
狭間 シマジさんくらいテカテカなお肌ならかまわないと思います。
立木 シマジの面の皮は厚いから、ちょうどいいんじゃないか。
ヨネダ ディープクレンジングスクラブって何ですか。
狭間 洗顔用にSHISEIDO MENシリーズには2種類あります。普通はクレンジングフォームでお顔を洗っていただき、4日に1回くらいのペースでディープクレンジングスクラブを使うんです。スクラブは3種類の形状の植物性のツブツブが入っているのです。
シマジ それがまたたまらない快感なんだ。SM作家の館に教えてやりたいくらいだ。肌をこすっているうちにツブツブが消えてなくなるから、おれは最近これ専門になってしまった。
立木 シマジはMっけがあるんじゃないの。
ヨネダ 今日いただけるというセットにはそれが入っているんですか。
シマジ 残念ながら、ヨネダ、それは自前で買ってくれ。伊勢丹新宿メンズ館8階のサロン・ド・シマジで売っている。
ヨネダ そいいえば先日、サロン・ド・シマジのバーに行って驚きました。シマジさんが書いてぼくが編集した『はじめに言葉ありき おわりに言葉ありき』にある名言、格言から取った美しいコースターがたくさんありましたね。
シマジ あれは富澤さんというバイヤーのアイデアなんだ。飲んだお客さんが面白いってみんな持ち帰る。そこでまた富澤さんのアイデアで12枚セットにして箱入りで売り出したんだ。
立木 いくらで売ってるんだ。
シマジ 税抜きで2,000円かな。
ヨネダ それは売れますよ。地方からきたお客さんがお土産に買って行きますね。ぼくも来週買いに行きます。「バーのカウンターは人生の勉強机である」なんて洒落ていますよ。
狭間 「人生でいちばん愉しくて飽きないものは勉強である」もあるんですか。
ヨネダ どきっ!狭間さんはあの本のなかに同じ名言が2つあることをご存じなんですか。
狭間 どうしてまた同じ名言を2つ載せたのですか。
ヨネダ それは、はじめシマジさんが間違えて同じタイトルで異なる内容のものを、2つ書いてしまったのが実情です。どちらの文章も捨てがたく、両方をぼくの特権で使ったんです。でもこれは人生に大切で素敵な名言です。
シマジ じつはこれはちゃんと読んだ方にしかわからないイタズラでもあるんです。タッチャン、やっぱり資生堂の社員は福原名誉会長に似て、才媛でよく本を読み込んでいるんだね。
立木 当たり前だ。おまえたちのイタズラなんてすぐバレるさ。