第12回 ゲスト講談社 生活文化局 局次長 原田 隆氏 第2章 シマジに「こいつ使える」と思われたら大変だ

<店主前曰>

この連載の担当者編集者シリーズは今回で終了する。トリを飾る講談社のハラダ・タカシは、今月28日発売するわたしの第3弾目のエッセイ集『アカの他人の七光り』を編集中である。今度の作品はバラエティに富んでいる。第1章朝シャーリー・バッシーの恍惚。第2章良心なき正直者たちが大暴れ。第3章賢人の遊び場。第4章今日の異端は明日の正統。
と、可笑しいエッセイから泣かせるエッセイまで。また思わず舌鼓を打ちたくなるような食のエッセイがあり、ゴルフジョークの満載があり、最後はシマジ流英雄伝で締めている。
 ハラダがいった。「今回はとくに面白いです。やっぱりシマジさん、本をたくさん読んで勉強することで、人生を愉しく生きるための技が身につくんですね」
「ハラダ、この歳になってわかった人生の真実は、独学でもいいから、勉強することが、唯一愉しくて飽きないことなのだ、ということかな」
「この本を読んだ若い人たちに一般教養というものに、興味を持ってもらいたいですね。日本人の教養のなさは世界的に評判ですからね」
「でも先週だったか、伊勢丹新宿店メンズ館8階のサロン・ド・シマジにグレンファークラスの5代目オーナーがやってきたんだ。たまたま居合わせていたお客さまがみんな英語でペラペラしゃべりかけているのには驚いたね」
「ただ英語がしゃべれるのではなく、話の内容が肝心なんですよ」

シマジ ハラダはこのリップトリートメントは使ったことがあるのか。

ハラダ そこまではやっていませんね。どうも男は唇をおろそかにしますね。そういうシマジさんは使ってるんですか。

シマジ 風の強い日に外出するときはよく使うよ。おれは寒いときはゴルフをしないから、結局あまり使わないかな。

水井 シマジさん、お部屋に1日中いて原稿を書いているときも使ってください。お役に立てると思います。

シマジ それじゃ、季節に関係なく一年中使えってことですか。

水井 そうです。とくに冬は外も内も乾燥していますから、一ぬり二ぬりしてください。

ハラダ これはほかの化粧品を全部使って、いちばん最後に使うんですか。

水井 そうですが、ときどき思い出したように使っても構いません。携帯用に持っていて使ってください。

立木 トイレでしげしげと自分の顔を眺めながらぬっていたら、口紅をぬっているとまちがえられて、そちらの方面の男に抱きつかれたりしないだろうか。

シマジ タッチャン、それは考えすぎだよ。たとえばセオがトリートメントリップを公衆トイレでつけていたとしても、ゴリラが何をお洒落しているとしか思いませんよ。

水井 その例はセオさんが可哀想です。セオさんは12人の各出版社のシマジさんの担当編集者のなかではイケメン中のイケメンだとわたしも思いますわ。

立木 やっぱりおれが魔術をかけすぎたかな。

シマジ 水井さん、ぜひ、資生堂の女子社員にこの連載をみてもらって、12人中だれがイケメンか訊いてみてください。

立木 それは面白いぞ。トリでハラダも入ったことだしな。それは公平だね。

シマジ でも今回の1年の連載でいちばん得したのはセオかもしれないな。

立木 まだわからない。ハラダがラストスパートをかけるかもしれない。

シマジ そうだね。ハラダ、ゴメン。

水井 ハラダさんの肌はハリがありますよ。会社で疲れたなあと思ったら、リップトリートメントをぬってください。

シマジ でも部長席で口紅をぬってるみたいに見られるのは、いかがなものかな。

水井 もちろんトイレでぬってください。

シマジ ハラダが会社のトイレでぬっていて、後ろからセオに抱きつかれたらどうするんだろう。

立木 あいつはそんな多趣味ではないだろう。第一、そんな芸術的センスはゼロの男だからね。

水井 セオさんは出版業界きっての愛妻家とお聞きしていますが。

シマジ それはまちがいありません。だってサロン・ド・シマジの本店で飲んでいても「ぼく、今夜はシングルモルトを10杯飲んだんだけど、もう一杯飲んでいいかな」って愛妻に電話を入れるんだぜ。

ハラダ それはアリバイ造りかもしれません。なんだかんだいっても、シマジさんはセオのこと可愛いんですね。

シマジ そりゃおれは担当者全員が可愛いよ。ハラダもセオも変わりなく可愛い。

立木 ハラダ、ヤキモチ焼くな。おまえにはおれがついている。安心しろ。

ハラダ 天下の立木先生にそんなふうにいわれるなんて光栄です。すぐ出雲の実家に電話で伝えます。親父もオフクロも喜ぶことでしょう。

シマジ セオは男4人の兄弟で、末っ子のセオを除いて全員医者だそうだ。正月実家に帰ると「おまえだけが編集者で可哀想だな」ってよくいわれるらしい。

ハラダ そうか、だからあいつは地頭がいいんだ。

シマジ そうだろうね。遺伝子はほとんど一緒だろうからね。

ハラダ でもセオがEでぼくがDでよかった。これが逆転だったら釈然としないところでしたね。

シマジ ハラダはもう少しちゃんと使えば、Cは軽くゲット出来るよ。とくに冬場は肌は乾燥してあまりいい成績が出ないらしい。

水井 そうなんです。肌は乾燥や寒さに敏感なのです。またお肌は内外ケアといって、食べ物も影響しますね。

シマジ それはハラダは大丈夫だね。なんせクジラの肉が大好きな男だから。

ハラダ 四の橋に「うずら」というクジラ専門店があるんです。そこのクジラのベーコンは秀逸です。水井さん、今度ご一緒しましょうか。

立木 ハラダ、そんなに鼻の下を長くしてどうするんだ。おれを忘れちゃ困るぞ。おれも連れて行け。

ハラダ 失礼しました。当然ご一緒させていただきます。

水井 うれしいですわ。クジラのお肉が内からお肌をケアしてくれます。外からはSHISEIDO MENで内からはクジラでよろしいのではないでしょうか。

シマジ そうか。ハギワラのC判定は、口からホルモン焼きを入れて内から肌にコラーゲンを運んでいたんだな。なにもぬらなくて生まれたまんまでCだったから、みんな驚いたんだよね。あれでSHISEIDO MENを毎日使えば、Bになるだろうに。全品奥さんにやってしまったらしい。

ハラダ それは何か後ろめたいことがあるんじゃないですか。
たしかに以前はSHISEIDOの売り場に行ってSHISEIDO MENをくださいっていうのは、男はかなり勇気が必要でしたよね。

水井 よく奥さまとご一緒にいらしてSHISEIDO MENを買われて行く男性のお客さまはおりますわね。

シマジ それを堂々と男が1人で買えるように、伊勢丹メンズ館のサロン・ド・シマジに置くようにしたんだよ。

水井 それはシマジさんの功績ですね。

シマジ 結構売れていますし、リピーターも増えていますよ。

ハラダ シマジさんが凄いのはシェーカーを振りながら、カウンターに運ばせてSHISEIDO MENは売るわ、万年筆は売るわ、ですからね。

水井 敏腕セールスマンですわ。

ハラダ 自分で愛用しているから、自信を持って薦められるのでしょう。

水井 シマジさんの健康そうなピカピカのお肌をみたら、迷わずSHISEIDO MENはお買いになるでしょう。

シマジ ありがとうございます。今月28日発売のわたしの新刊『アカの他人の七光り』には素敵な食事処が20店載せてあります。水井さん、どこでもご案内しましょう。お店を選んでくださいね。

立木 シマジ、おれを忘れるなよ。

シマジ もちろん、この4人で行くのです。

水井 まあ、うれしいです。必ず選んでお知らせしますわ。

シマジ しかし男のほうが一度肌測定をするとランキングを上げようと必死になるみたいですね。

水井 どこの売り場でもそのようです。

シマジ サロン・ド・シマジの常連には、妻のクレ・ド・ポー ボーテをこっそり盗んで使ったりしているのがいますからね。

ハラダ クレ・ド・ポー ボーテって25グラムで5万円するあれですか。

シマジ 世の中にはお金持ちがごまんといますよ。この間も伊勢丹で500万円するライカのカメラが売れたと話題になっていました。

立木 それはライカとエルメスのコラボで作った機種だな。

シマジ さすがはタッチャンだ。よくわかるね。

立木 翌日おれが残りの1台を買った、なんていいたいところだが、そんな夢をみたことにしておこう。

シマジ 儲けてタッチャンこれ使ってよって、500万円のライカを贈りたいね。

立木 シマジ、そういう夢でもいいからみてくれ。ところでセオはまだこないのか。

シマジ セオは今日の仕事は関係ないからきませんよ。あれはネスプレッソでこれは資生堂だよ。

立木 あっ、そうか。なぜおれはあのゴリラが気になるんだろう。

シマジ タッチャン、病院に行ってカウンセリングを受けたほうがいいんじゃないの。

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