現在、古山さんのカバンコレクションは約500。そのラインナップは、実に幅広い。オーダーメードの革カバンはもちろん、カバンの歴史を調べるなかで手に入れたという大正時代のランドセルまで、そろっている。古山さんが、ここまでカバンに惹かれる、そのきっかけとなったのは……?
「カバンに開眼したのは、イタリアのローマに行ったとき。ふと気がつくと、街にいる人たち全員が、革カバンを持っていたんです。しかも、みんながみんな異なる、自分なりの形・デザインのカバンを持ってるの。どのカバンも、いい飴色になっていて。それを見たとき、こういう文化って日本にはなかったな、革のカバンっていいなと思って、カバンに開眼したんです。
カバンって、パッと人を見たときに視界に入ってくるものでしょ。出会った人がいいカバンを持っていて、そこからいいモノが出てきたりすると、
『あぁ、この人と話してみたいな』って思いますね。みんなが自分に合ったカバンや面白いカバンを持っていたら、街が華やかになるし、もっといい世の中になると思うんです」。
また古山さんは、カバンの魅力について、「いいカバンには孤独を癒す力がある」と語る。いつも傍らにあるカバンは、日々のパートナーというわけだ。
「人間のいちばんの苦しみって、孤独だと思うんです。四国でお遍路するときに、一番札所で杖を売っているんですが、その杖には『同行二人』と書いてある。これは、杖に弘法大師が宿って、あなたとともに歩いているんですよという意味。人間て、傍らになにかあることで安心するんですよね。ちょうど自分の隣に持つカバンにも、孤独を癒してくれる力があると思うんです。
そこで、自らの友とするにはどんなカバンがいいかと考えると、やっぱり、自然素材で使い込むほどによさが出てくる革が、いちばんいい。僕は、カバンをつくるときには、形と革にこだわるんです。いい革を見ると、うれしくなって、ジワーッと体が熱くなりますね。それを使い込んで行くと、トロトロの飴色になる。するともう、手放せなくなるんです」。
カバンとともに、万年筆も約400本コレクションしている古山さん。カバンと万年筆、一見別ものに思えるふたつだが、そこに共通しているのは、職人の心が宿っていることという。
「オーダーして職人につくってもらった万年筆は、ペン先に仕掛けがしてあったりするんです。例えば、僕の運筆を知っていながら、わざと、それとは違った運筆をしたときに、滑らかな線が描けるようにつくってあったり。そうすると、万年筆に影響されて、自分のスタンスが変わってくる。そういう、モノを介した職人とのやりとりが、すごく面白いんです。カバンも、職人にオーダーするのは楽しいですよ。僕とは違う感覚の人間とやりとりしながら、ひとつのモノをつくり上げていくんだから。
オーダーではなく、見知らぬ職人がつくったものであっても、いいカバンは見ていて感動しますね。きちんと作られたカバンは、凛としている。型くずれしにくくて、ハリがあって、置いておくだけで気品がある。職人が、細かい工程まで丹誠込めてつくったモノが発する力って、全然違うんです。
いいモノは、その背後に人の心があり、生活を豊かにしてくれる。だからこそ、カバンや万年筆には面白さがあるんだと思います」。