いい男のいいこだわり。

「いい男」は、自分なりの美学を持っているもの。
常に身の回りにあるモノに対しても、然り。
モノをこよなく愛する男たちに、その楽しみとこだわりを教えていただきました。

いい男のいいこだわり。

万年筆画家として活動するほか、熱心なカバンと万年筆のコレクターとして知られる、古山浩一さん。とくにカバンは、約30年の間、収集と研究をし続けているとか。そんな古山さんに、革カバンの面白さ、モノを愛する楽しさをうかがった。

カバンは、“その人らしさ”を表すものになり得る

古山幸一さん インタビュー

現在、古山さんのカバンコレクションは約500。そのラインナップは、実に幅広い。オーダーメードの革カバンはもちろん、カバンの歴史を調べるなかで手に入れたという大正時代のランドセルまで、そろっている。古山さんが、ここまでカバンに惹かれる、そのきっかけとなったのは……?

「カバンに開眼したのは、イタリアのローマに行ったとき。ふと気がつくと、街にいる人たち全員が、革カバンを持っていたんです。しかも、みんながみんな異なる、自分なりの形・デザインのカバンを持ってるの。どのカバンも、いい飴色になっていて。それを見たとき、こういう文化って日本にはなかったな、革のカバンっていいなと思って、カバンに開眼したんです。

カバンって、パッと人を見たときに視界に入ってくるものでしょ。出会った人がいいカバンを持っていて、そこからいいモノが出てきたりすると、

『あぁ、この人と話してみたいな』って思いますね。みんなが自分に合ったカバンや面白いカバンを持っていたら、街が華やかになるし、もっといい世の中になると思うんです」。

ともに日々を歩む友。だからこそ、革のカバンにこだわりたい

また古山さんは、カバンの魅力について、「いいカバンには孤独を癒す力がある」と語る。いつも傍らにあるカバンは、日々のパートナーというわけだ。

「人間のいちばんの苦しみって、孤独だと思うんです。四国でお遍路するときに、一番札所で杖を売っているんですが、その杖には『同行二人』と書いてある。これは、杖に弘法大師が宿って、あなたとともに歩いているんですよという意味。人間て、傍らになにかあることで安心するんですよね。ちょうど自分の隣に持つカバンにも、孤独を癒してくれる力があると思うんです。

そこで、自らの友とするにはどんなカバンがいいかと考えると、やっぱり、自然素材で使い込むほどによさが出てくる革が、いちばんいい。僕は、カバンをつくるときには、形と革にこだわるんです。いい革を見ると、うれしくなって、ジワーッと体が熱くなりますね。それを使い込んで行くと、トロトロの飴色になる。するともう、手放せなくなるんです」。

古山幸一さん カバンコレクション

背後に人の心が見える。それが職人のつくったモノの魅力

古山幸一さん インタビュー2

カバンとともに、万年筆も約400本コレクションしている古山さん。カバンと万年筆、一見別ものに思えるふたつだが、そこに共通しているのは、職人の心が宿っていることという。

「オーダーして職人につくってもらった万年筆は、ペン先に仕掛けがしてあったりするんです。例えば、僕の運筆を知っていながら、わざと、それとは違った運筆をしたときに、滑らかな線が描けるようにつくってあったり。そうすると、万年筆に影響されて、自分のスタンスが変わってくる。そういう、モノを介した職人とのやりとりが、すごく面白いんです。カバンも、職人にオーダーするのは楽しいですよ。僕とは違う感覚の人間とやりとりしながら、ひとつのモノをつくり上げていくんだから。

オーダーではなく、見知らぬ職人がつくったものであっても、いいカバンは見ていて感動しますね。きちんと作られたカバンは、凛としている。型くずれしにくくて、ハリがあって、置いておくだけで気品がある。職人が、細かい工程まで丹誠込めてつくったモノが発する力って、全然違うんです。

いいモノは、その背後に人の心があり、生活を豊かにしてくれる。だからこそ、カバンや万年筆には面白さがあるんだと思います」。

ゴジラの卵入れのようなカバン

古山さんが世界に冠たる職人と称する、『FUGGEE』の藤井幸弘氏にオーダーしてでき上がったカバン。わずかに丸みを帯びたフォルムがユニークでかわいらしい。古山さん曰く、「ゴジラの卵入れのようなカバン」。

牛が走ってきて、そのままカバンになったようなイメージ

小林哲夫氏が制作したカバンは、厚手の革を手縫いで仕上げたもの。古山さんは、この重厚で圧倒的な革の存在感に魅了されたそう。「まるで牛が走ってきて、そのままカバンになったようなイメージ」。

お道具箱的なカバン

万年筆専用のカバンは、デンマークの職人ハンスオスター氏にスケッチを送り、制作してもらったそう。「中に仕切りやポケットがあったり、ガチャっと開いたり。お道具箱的なカバンが好き」という古山さん好みの一品。

長原宣義氏 特注の万年筆

名工、長原宣義氏に特注でつくってもらったペン先。曲がったペン先の裏側を使うと極細の線が、表側を寝かせるようにすると、筆ペンのような太い線が描ける。「万年筆に励まされて絵を描く。職人が携わったものには、そういう力があるんです」と古山さん。

profile

古山浩一 Koichi Furuyama

1万年筆画家、絵本作家、随筆家。カバンと万年筆の熱心な収集家としても知られる。著書に、『鞄が欲しい』『万年筆の達人』『カバンの達人』『万年筆クロニクル』(すべて枻出版社)など。
http://www.entotsu.net/

古山浩一
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